第2話 声の残響

教室の窓から見える桜に、

私は思わず目を奪われた。

春の陽射しに照らされ、花びらが

風に舞う。生徒たちの笑い声が

重なり、ふと彼の声が心に響く。


「来年も、ここで桜を見よう。」

その言葉は、約束であり、

未来への希望だった。

けれど、彼は遠い国へ渡り、

もう会うことはない。

それでも、声だけは私の中で

生き続けている。


授業を終え、職員室に戻る途中、

廊下で生徒に呼び止められる。

「先生、来年も同じクラスで

会えたらいいですね。」

その言葉に、私は微笑みながらも

胸が締め付けられる。

約束を交わすことの重みを、

私は誰よりも知っているからだ。


夜、桜坂を通りかかる。

街灯に照らされた花びらが、

静かに舞い落ちる。

風に乗って、彼の声が耳に

届いた気がした。

「また来年も、ここで。」

振り返っても、そこには誰もいない。

けれど、確かに声は響いていた。


私は立ち止まり、目を閉じる。

届かない声は、私の心の奥で

永遠に響いている。

それは幻聴ではなく、記憶の残響。

触れられない距離感が、逆に愛を

深くしていくのだと知る。


桜坂は、私にとって過去と

現在を繋ぐ場所だ。

花びらが舞うたび、彼の声が蘇り、

心を揺さぶる。

そして私は思う。

「声が響き続ける限り、

彼は私の中で生きている。」


その夜、私は静かに坂を歩き続けた。

果たされなかった約束は、

声となって私を支えている。

切なさと共に、永遠の愛を

感じながら。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る