聖なる剣に呪われた!~剣は喋るし暴れるし邪魔なので解呪したいし、剣を崇める変な奴らも出るので全部なぎ払う~

JETSOUNDSTREET

第1話 怪しい声に誘われた!

「ミカヤ、すまないが私たちのパーティから抜けてくれ」


 ミカヤの所属するパーティのリーダー、バラクの決断だ。

 ああ、やっぱり。逆の立場なら僕でもそうする。心の中でミカヤはそう呟いた。


「仲間を襲う奴とはパーティを組めんよ」


 今もバラクに襲い掛かりそうな右手を抑え込んでいる。その手には呪われた剣。手放そうにも、剣から伸びるうねうねに絡みつかれて外せない。

 危険だと分かっているはずなのに、手紙で済ますわけでもなくわざわざ面と向かって伝えてくれている。


「今までお世話になりました」


 ミカヤは深々と頭を下げ、この場を後にした。


 冒険者ギルドの裏手、人気ひとけの少ない場所でのことだった。


 ◇


 時は遡る。

 数日かけて潜っていたダンジョンの最深部に着いた頃。

 呪術師ミカヤは冒険者である。この時も、パーティリーダーの剣士バラクの他、衛士デライア、癒術師ハンナと共にパーティを組んでいた。


 このダンジョンはかつて魔王が根城にしていたとされる場所であり、その最深部には今も魔王が集めた財宝が眠っていると言われている。

 しかし最深部にはダンジョンの主とも言える強大な魔物が確認された。それを確認したパーティは仲間を失いながらも少ない情報を持ち帰った。

 これまで幾人の冒険者たちがこのダンジョンに挑んできたが、そのほとんどがダンジョンの主に相まみえる前に引き返すか帰らぬ人となった。


 そんなダンジョンの主にミカヤたちは挑もうとしている。


「このダンジョンの主はまだ分からないことが多い。まずは情報を取るため、デライアを中心に動く」

「任された」


 デライアが胸を叩いて返事をした。金属の鎧と籠手がぶつかり、乾いた音が響く。


「では行くぞ、気を緩めるなよ!」


 岩肌をくり抜いて据え付けられた両開きの扉をバラクとデライアが押し開く。

 長く開かれることのなかった扉は音を立てながら砂埃を舞わせた。明かりの呪文をもっても薄暗いその部屋は、愚かにも財宝を求めようとする冒険者を飲み込まんとする魔物の口のようだった。


 デライアが防護の呪文を全員に唱え、一番に扉をくぐる。

 次いでバラクが、そしてミカヤが踏み入る。心臓が早鐘のように脈打つ。最後にハンナが部屋に入った。

 主はどこにいるかと警戒し辺りを見回すが、ぞっとするほど気配がない。


「ミカヤ、索敵の呪文」


 バラクの指示に従い呪文を唱える。しかし横にも上にも反応はない。

 デライアの体が打ち上げられた。低くはない天井に叩きつけられ、そのまま落ちて地面に再び叩きつけられる。

 かろうじて意識はあるようだが、立ち上がる様子がない。

 早々に戦略が崩れた。防護の呪文をかけた壁役のデライアを一撃で沈める攻撃では、ほかの三人なら胴体がさようならしてしまうかもしれない。


「撤退! ミカヤは妨害、ハンナはデライアを回復!」


 バラクがデライアに駆け寄る間に、ミカヤは妨害のための呪文を唱えようとした。

 盲目の呪文……はおそらく効かない。地中にいるなら目には頼っていないはず。ならば麻痺の呪文か。いや、神経構造も分からないのに麻痺は効くのか? 生物なら睡魔の呪文の方が効くだろうか。

 その逡巡が次の一手を遅らせた。


「きゃあっ!!!」


 悲鳴はミカヤの後ろからだった。振り向くとハンナが黒い霧のようなものに絞め上げられている。黒い霧は喉元まで絡み付き、悲鳴を上げることもできない。

 束縛の呪文か。そう判断したミカヤはすぐに対抗呪文を唱えた。

 黒い霧は打ち消され自由の身となったが、意識が飛んだハンナは膝から崩れ落ちた。


 このままでは逃げることもできない。

 ミカヤは藁人形を取り出した。それは自身と対象の魂を封じる、道連れの呪文のための呪具である。

 せめてバラクが無事なら、他の二人を連れて逃げることが出来る。


「ダメだ! 早まるな!」


 バラクの言葉に、呪文を唱えようとした口が強張る。覚悟が揺らいだ。もしくは最初から覚悟なんてなかったかもしれない。

 鎧を着込んだデライアを引き摺るように運ぶバラク。その目は全員で帰る事を諦めていなかった。


 しかし敵はそれを意にも介さなかった。

 バラクは地面から湧いた黒い霧に足を絡め取られ、横に落ちていくかのように壁に向かって投げ飛ばされた。

 壁に叩きつけられたバラクもまた大の字で地面に伏す。

 姿の見えない敵に為すすべなく倒れていく仲間たち。いよいよ立っているのはミカヤだけになった。


「――力が欲しいか?」


 極限状態に幻聴まで聞こえてくる。頭を振って目の前に集中する。


「力が欲しいかと訊いておるじゃろ! 返事をせい!」


 幻聴にしてははっきりとした声にミカヤは驚いた。

 しかし、この状況では幻聴を信じるほかない。


「力が、欲しい!」


 返事を待つ。その間も五感と呪文をフル稼働させ敵の襲撃に備える。


「うむ、よい返事じゃの。こちらに来てわらわを手にするのじゃ」

「こちらってどちら?!」


 幻聴は変わらず声だけである。


「むう。そこまで説明せんといかんかの。おぬしらの目指している宝物庫の中じゃ」

「そんな雄鶏が守護する勝利の剣みたいなこと言われても……。僕たちはその宝物庫に入るために、この姿を見せない敵と戦ってるのに」

「それくらい何とかせい! それでもおのこか!」


 幻聴は無茶苦茶なことを言った末にぶん投げた。ミカヤポイントマイナス1。


「分かりました! やります! やればいいんですね!」


 幻聴と会話していることに疑問を持つことも忘れて言い合いをする。それがむしろミカヤの焦燥をいくらか鎮めた。

 正体の見えない敵に隙を作るため、ミカヤは沈黙の呪文を唱える。言葉を発することができなければ呪文を唱えることができない。黒い霧は対抗呪文によって打ち消せている。すなわちこれまでの敵の攻撃は呪文だったと考えてのことだ。


 今のところ動きは無い。相変わらず姿が見えないことを不気味に思いながらもミカヤは宝物庫に向かって走り出した。

 ミカヤの体力は冒険者としては下である。短距離を一足飛びで走り抜けるような走力は無い。それでも懸命に走り、あと少しで宝物庫の扉に手が届く。が、伸ばした右手は空を切った。

 首が絞まり、体が引き倒される。息ができず呪文も唱えられない。首元にまとわりつく黒い霧を引きはがそうとしても空を掴むばかり。


 何か手は無いかと血が廻らない脳で考える。そこで思い出した。

 ミカヤがローブの下を探り取り出したのは対抗呪文を刻んだ木札。声を発することができないときのために、代わりに呪文の効力を発揮させる呪術師の奥の手である。それに呪力を込めて黒い霧に押し当てた。


 首が解放されて再び血が廻りだす。とどまっていた分を取り返すように荒々しく肺に空気を送る。

 しかし休んでいられない。体を起こして今度こそ宝物庫の扉に手を触れる。


 扉は抵抗することなくミカヤを迎え入れた。さしずめ未だ全容が明らかでない黒い霧使いで鍵は充分とでもいうようだった。


 宝物庫の中には黄金に輝く財宝で満たされていた。ミカヤが想像していたよりも何倍もある。

 これが門番を倒した褒美だったらどれだけ嬉しかっただろう。しかし今はそうではない。この中から例の声の主を見つけなければならないのだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る