くう

 大きな大きな、戦闘機の中に入ると、レストラン。

 井手君と飯田君の前に、ハンバーガーがやってきます。

「おー、うまそー」

「うん、美味しい」

「お前、まだ食ってねえじゃねえか」

「知ってるんだ。この耳のところ、ソースが違うんだ」

「知ってるって、お前、ここ来た事あんのかよ」

「捨てられたんだ、ここで」

 井手君は、つかんで食べようとしていた、ハンバーガーを一度置きました。飯田君は、冗談を言っているようではありません。

「飯田、飯だ。まずは。その不味くなりそうな話は後で聞いてやる」

「うん」

 二人はハンバーガーを食べました。

「辛っ、何で耳のソースこんな辛いんだよ。一口目に食べるであろう場所を辛くするなよ。後半、舌痺れたままで食うのかよ」


 づづっとコーラを飲み終えて、氷をしゃらしゃら。

「んで、飯田、捨てられったって何だよ」

「子供の時、って、今も子供だけど。一歳から二歳くらいの時かな、よく覚えてないし、知りたくもなかったから、あやふやなんだけど。僕はお母さんと二人で、ここに来たんだ。白樺城の前で、お姫様と小人と写真を撮って、カリブのハニーハントに乗って、他にも、いくつか乗ったと思う。で、ここで、このハンバーガーを食べたんだ。耳のところはお母さんがちぎって、僕はそれを食べたがったんだけど、お母さんは駄目だって。お母さんは耳のところを食べて、泣いていた」

「さっきはよー、辛いっつーたけど、大人が泣くような辛さじゃないよな」

「うん、辛くて、泣いていたんじゃないと思う。お昼を食べて、また、いくつかアトラクションに乗って。夜だった。発見された時の、ライトが眩しかったのを覚えてる」

「暗れーよ」

「いや、眩しかったんだって」

「話が暗いって事だよ、ばーか。どうすんだよ、これから。夜のパレードまで、自由行動。あと何時間あると思ってんだよ。聞くんじゃなかった。楽しめねーよこれから」

「井手君、楽しかったの?」

「楽しいに決まってんだろ、デスティニーランドだぞ。初めてなんだぞ、来たの。どれだけ、俺が、シミューレーションしてきたか分かってんのか」

「そういえば、このお店も、あらかじめ、調べてたんだ」

「そうだよ、めちゃくちゃ調べてきたの。超楽しみにしてたのに。お前がそんな話するから、どうすんだよ」

「ごめん、でも、何だろ、僕は別に悲しい話として喋ったわけじゃないんだ。よく覚えてないって言ったでしょ。今の家族は、みんな優しいし、別にそんなに気にしてないんだ」

「本当?」

「本当」

「じゃあ、俺、はしゃいじゃっていい?」

「いいよ」

「じゃあ、この後、ウィードサンダーマウンテンに乗りたいんだが」

「その前に仲直りしようよ」

「仲直り?」

「喧嘩、したでしょ、永田さん達と」

「あの一方的な暴力行為を喧嘩と?」

「だって、あれは、井手君が悪いでしょ。楽しめなくなるような話するんだから」

「俺、してた?」

「自覚ないの?」

「ない」

「余計な一言がなければ、みんなで楽しめるよ」

「そうか、そうだよな」

 井手君はスマホを出して、永田さんに電話します。

「永田、悪かった、俺が悪かった。ごめん」

「何が悪かったの?」

「みんなで楽しんでるのに、余計な一言を言ってた。悪かった」

「みーちゃん、しーちゃん、どうする?」

 電話口から離れたのか、声が小さく聞こえます。

「うーん、謝ってるんでしょ」

「次やったら、コースターから落っことすって言って」

「うん、分かった。じゃあ、井手君、今、どこに居るの」

「いや、俺の方からそっち行くから。昼飯は? もう食べた? これから? じゃあ、どうしよう、ウィードサンダーマウンテンのファストパス取ってくるけど」

「じゃあ、それでお願い」

 電話を切ると、井手君は、

「電話だと、頭下げなくても、謝ったことになるのっていいよな」



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