おかしな姫を助けるだけの簡単なお仕事ですよ?
貴春
第1話 お祈りメールでスマホを破壊
『清水様のこれからのご活躍を心よりお祈り申し上げます。』
都内に住む、ごくごく普通の大学四年生の
「俺ってそんなに求められていないのかなぁ……」
どうせ大して祈りもしていない、コピペの文章だろうと思いながら、そう呟いた。
そんなことを言いながらも、新たな求人を探し応募するしかない。俺は、求人サイトの「応募ボタン」を高速餅つきのごとくタップする。もう、無情である。虚無である。
タップの連戦を終えて、今日も一日が終わる。明日も同じように、タップの連戦を繰り返し、またお祈りされる日々が続くのだろう。
「ん?おかしいな??」
どうやら、続かないようだった。俺のスマホは、いくらタップしても、まったく反応しなくなってしまった。高速餅つきタップのせいで、スマホが壊れてしまったのかもしれない。スマホにも、見放されてしまったというわけか。タップ連戦、不覚にも撤退を余儀なくされてしまった。虚しい。
それから、電源ボタンやら音量ボタンやらを色々と押してみたが、何も反応がなかった。突然、画面に俺の顔が写り、カメラが起動したのかと思ったが、ただ、画面に反射した俺の顔が写っているだけだった。悲しい。
破壊してしまった物はどうしようもない。復元能力を持ち合わせていない俺は、考えても仕方がないと、布団に入って眠ることにした。
布団に入り、目を瞑る。スピー、スピー、グッピー。。。。。。
「ピロン!」
その夜、スマートフォンに新たなメールが届いていたことを俺はまだ知らない。
そして、アラームの設定ができず寝てしまったことに気づいたのは、次の日の昼のことであった。
「ふぁ。。。。。。」
朝の光とともに目覚める。なんて優雅な時間なのだろう。コーヒーでも淹れて、ゆったりと面接の準備をするとしよう。今日は、スマホのアラームよりも先に起きることができたことに、清々しさを感じていた。
と思えたのも、束の間の出来事だった。
「あれ?スマホが起動しない!?」
それもそのはず。そう、俺は、昨日の夜、スマホを破壊したのだから。(高速餅つきタップのせいで)
「ってことは、待てよ。アラームをセットしてないってことは!」
俺は急いでパソコンを立ち上げた。この部屋に時計などない。俺が時間を知る術はスマホかパソコンしかないのである。
「マジかよ。。。。。。」
俺はディスプレイに表示されていた時計を見て絶句した。もうとっくに、昼を過ぎていた。
「あぁ、詰んだ」
今日は、午前中に面接の予定があったので、もう終わりだ。さようなら、俺の未来の就職先。
「ん?」
スマホの方に目を向けると、昨日、破壊してしまったはずのスマホの通知ランプが光っていた。もしかして、スマホが治ったのかと、電源ボタンを押してみると、メールが一件届いていた。
『ご応募いただきありがとうございます。おかしな姫を助けるだけの簡単なお仕事です。下記のリンクからお越しください。』
こんな求人に応募しただろうか?というかなんなんだ?この求人。記憶にはないが、無意識に応募していたのかもしれない。とりあえず、内容を確認してみることにしよう。
「わぁ!」
すると、画面のリンクをタップした途端、周りは白くて明るいなにかに包まれた。
そして、次に目が覚めると、目の前には知らない町並みが広がっていた。そこには、高層の建物などは一切なく、歴史の教科書に出てきた、中世ヨーロッパを彷彿とさせる町並みがあった。道沿いには、様々なお店や露店が立ち並び、目の前には川が流れ、幾人を乗せた小さな船が進んでいた。辺りにいる人は、黒髪の人だけでなく、多種多様な髪の色の人、目の色の人、肌の色の人がいて、ここが日本ではないことは明白であった。
ここはいわゆる、異世界なのだろうか。どうやら俺は、異世界転生してしまったらしい。
「やぁやぁ、よくぞ来てくれましたぁ!!」
突然、肩をトントンと叩かれて、後ろを振り向くと、黒髪ショートボブのメイド姿の女の子がいた。可愛いい。
「ミラお姫様のお
突然のことに驚きながらも、俺も自己紹介をした。
「えっと、ミアお姫様の世話係のラリさん?初めまして。清水 優斗です」
すると、彼女はほっぺたを目一杯膨らませた。怒っているのだろうか。でも、俺なにか悪いことをしたか?
「ミラお姫様のお世話係のリアですっ!!もしかして、ユウトさんは、ミラ様と同じぐらいポンコツなのですね(笑)」
「おい、今、最後笑ってたろ!!」
「いや、そんなことはありません。わっはっはっ」
「笑ってんじゃねーか」
彼女は三分程度笑い転げていた。いや、いつまでわろてんねん。
「さて、本題なのですが、あなたを召喚したのは、このキュートで可愛い女の子、リアなのです」
「いや、自分で可愛いって言うなよ」
「可愛い女の子が可愛いっていうのに、なにか問題でもあるのでしょうか?」
「はいはい。もういいです。可愛い可愛いリアさん」
彼女は、澄ました顔をして、話を続けた。
「ところで、ユウトさん。私の依頼書は読みましたか?」
「依頼書?」
「はい。あなたは私がギルドに掲載していたお仕事に応募されたので、あなたをお呼びしたのですよ。ほら」
そう言って彼女は、ポケットから一枚の紙を取り出して俺にひらひらと見せてきた。
『ご応募いただきありがとうございます。おかしな姫を助けるだけの簡単なお仕事です。下記のリンクからお越しください。』
この文言に、俺は見覚えがある。確か……と思いながら、俺はポケットに手を入れ、スマホを取り出し、電源を入れて、メールを確認することにした。というか、いつの間に治ったんだろう?
「その四角い物体はなんですか?」
彼女は不思議そうに首を傾げていた。どうやら、この世界にはスマートフォンという概念は存在しないのだろうか。でも、この依頼書?が届いているということはどういうことなのだろう。
「スマホだけど。リアがここに、依頼書を送ったんじゃないのか」
俺は、スマホの画面を彼女に見せた。
「これは……なんですか?こんな黒いものを見せて、何がしたいのでしょう?意味がわかりません。あなたの行動を理解してあげることもできません。ごめんなさい」
どうやら、時間が経過してスリープモードに入ってしまったらしい。にしても、辛辣すぎないかと思いながらも、スリープを解除し、もう一度彼女に画面を見せた。
「確かに、これは私がギルドに掲載していた依頼書ですね。でも、そのような物体にも掲載されるというお話は聞いておりませんでしたが……」
彼女は俺の手から、さっとスマホを奪い取り、不思議そうにしながら、コンコン叩いてみたり、グルグルと回してみたり、ひょいっと投げてみたりしていた。いや、叩くな、回すな、投げるな(怒)!!
どうやら、彼女は俺の住んでいた世界と何か繋がりがあるわけではなさそうだった。何も知らなさそうである。そういえばと思う。どうして俺はここにいるのだろう?
俺は、目を瞑りながら考えた。スマホが壊れて、寝坊して、人生が終了して、それでどうしたんだっけ?
ん?メール?
そうだ!!メールだ!!
確かメールを見て、リンクをタップして、気がついたらこの世界にいた。彼女が先程からひらひらさせている「依頼書」にも同じようにリンクが記載されていた。紙に書かれているリンクとはなんなんだろう?
「そういえばさ、その依頼書に書かれているリンクってなんなんだ?」
「これですか?」
彼女は、依頼書のリンクを指差しながら説明を始めた。
「空間移動用の文字といったところでしょうか。リンクを繋いでいるところで移動できるように、ギルドにいた魔女さんにお願いしたのです。まぁ、ささやかな交通費補助ですね」
なるほど。よくわからないが、とりあえず、なんらかの魔法が絡み、メールのリンクで異世界転生してしまったということだけはわかった。この依頼書がスマホに届いたのは、スマホが壊れて、異世界のギルドと繋がって、依頼書を受信してしまったといったところなのだろうか。
「さっきから一人で何を考え込んでいるのですか?そろそろ、私の依頼を聞いてほしいのです……」
「あぁ、悪かったな。それで、依頼ってのはなんだ?」
彼女から、さっきまでのふわふわとした感じは消え去っていた。彼女の眼差しは真剣そのものだった。
「それで、お願いというのはミラ様を救ってほしいということなのです」
そして、彼女は笑顔でウィンクをしながら、こう付け加えた。
「おかしな姫を助けるだけの簡単なお仕事ですよ?」
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