第5話 はじめてのおつかいはとても危険
最近は師匠と一緒に寝ることが多い。
ルミニア母さんに部屋は作ってもらったけど、やっぱり寝るなら師匠と寝たかったからいつもおねだりしている。
師匠は嫌そうにするけど、最終的にはいつも一緒に寝てくれる。
最近は寝てる師匠を観察している。
黒い髪に黒い目というとても珍しい髪色をしてて、よく見ると意外と顔立ちが整ってて、面倒見が良くて優しい。
今までそういう目で師匠を見たことなかったから感じてこなかったけど、私は師匠が好きなのかもしれない。
それに完璧じゃないとこもいい。
なんでもできると思ったら、全然だめだめなとこもあって、お世話したくなってくる。
「師匠、もう寝た?」
「……んん、起きてるよ」
「抱きついていい?」
「あ、普通に無理」
「抱きついてきたら中級魔術で焼き切るから」
師匠はとても照れ屋さん。
そして、とても毒舌。
でもそんなところも尊い。
「ねえ、師匠の故郷の話今日も聞かせてよ」
「早く寝ないとお肌に触るよ」
「お願い!」
「わかったわかった、大きい声出すなよ」
師匠は断るのが苦手。
私はそんな師匠の弱いところにつけ込む悪い女。
「じゃあ今日は人間失格を教えてあげてよーー」
「ーーあ、それはいい」
「えー」
「本能的に体がやめたほうがいいって言ってる」
「じゃあ今日は浦島太郎を教えてあげる」
「うん!」
「昔々、あるところに亀がーー」
*◆*◆*◆*◆*◆*◆*◆*◆*◆*◆*◆*◆*
今日は僕とミリアにとってとても重要な日だ。
ミリアもいつもより表情が硬く、明らかに緊張しているのが見てとれる。
「大丈夫だよ」
そう言ってさりげなくミリアの頭を撫でておいた。
そう、今日はミリアが初めて中級魔術を使う日であり、僕が上級魔術を使う日でもある。
上級なんて、僕にとっては通過点でしかない。
上級でずっと渋っていたら、最強になんてなれっこない。
それでいうとミリアはついでだ。
「それじゃあここら辺でいいかな」
僕らは穴が空いても大丈夫なよう森に来た。
「じゃあ早速やってみて」
「僕の時は魔力調整ができなくて死にかけたけど、ミリアは死にかけれるほどの魔力を持っていないから、多分大丈夫」
「た、多分?」
「いや、絶対大丈夫!」
「じゃあ撫でて?」
全く、ミリアも甘え上手になったものだ。
もしミリアに将来彼氏ができて、目の前でこんなふうにイチャつかれたら僕は彼氏を締め上げるだろう。
ミリアはもはや娘のようなものだ。
まあ、僕の方が年下なんだけどね。
「もういいよ、ふん!」
あ、撫でるの忘れてた。
ミリアはそっぽを向いてしまった。
「いつもそうやってすぐ自分の世界に入っちゃうんだから」
「まあでも、緊張ほぐれた」
ミリアはそう言って僕に笑顔を向けてくれた。
なんて優しい子に育ったんだ。
父さん嬉しいよ。
まあそんな冗談はさておき、始めようか。
「万が一があっても守ってあげるからやってみて」
「う、うん」
「ヒュエストンインベル」
ミリアの声は少し震えていたが、僕がやった時とは打って変わって、彼女の上から優しく綺麗に大粒の雨が降ってきた。
「わあー!」
「あれ、なんか凄い勢いで魔力が吸われてってる」
うん、僕の時と違って素晴らしい出来だ。
ミリアはこの感覚が初めてで戸惑っているようだが、まあ問題ないだろう。
「よし、成功だ!」
「なら魔術止めて」
「……止める?」
「もしかして……」
「あはは…」
「バタンッ」
ミリアは横に倒れた。
それと同時に雨もやんだ。
「あー、これはまだまだ特訓が必要だね」
何があるかは分からないので、僕はとりあえずミリアを家へ送り届け、再びここへ戻ってきた。
「それじゃ、上級魔術の強さを見してもらおうか」
使う魔術は水の攻撃魔術だ。
水が1番安全そうだから、こういう時は水にしている。
見たところ範囲攻撃では無いようだし、対象はあの木にするか。
ちなみに上級魔術くらいになってくると、ちゃんとした詠唱があったりする。
まあこの魔術はないけど。
手のひらを前に突き出し、唱えた。
「ウォーターワーム」
「…」
「発動しないな」
やはり上級ともなってくるとシンプルにむずい。
言葉で表すのは難しいけど、想像力と言うか、まあとりあえずむずい。
「ウォーターアーム」
うーん、何が違うんだろうか。
雑念のせいかな。
ワクワクとかの感情を消さなければ。
「ふん!」
とりあえず木に思いっきり頭をぶつけておいた。
血液も滴るいい男ってね。
「ふーー」
「ウォーターアーム」
すると手のひらから無数の水が出て、うねうねと木に向かって行く。
そのまま近くで止まったかと思うと、形が急に槍のように変化し、四方八方から木を串刺しにした。
「えっぐ!」
「かっけぇ!」
今人生で1番幸せかもしれない。
今までで1番魔術を使ってるって感じがする。
これは後でミリアに見せつけてやろう。
*◆*◆*◆*◆*◆*◆*◆*◆*◆*◆*◆*◆*
「買い物に行きたい!」
ミリアが突然そんなことを言い出した。
「へ? 買い物?」
「うん」
「何か買いたいの?」
「なんでもいいの!」
ミリアはそんなことを満面の笑みで言うので、こちらも戸惑ってしまう。
買いたいものがないのに買い物?
「あのね、私ももう7歳だし1人で買い物できるようになりたいの」
え〜、流石に心配だな。
日本ならまだしも、ここだからな。
「……お願い」
そんなふうな上目遣いを教えたつもりはないのだけど。
どこで覚えたんだか。
「わかったよ」
「え! ほんとに?」
ミリアは目を輝かせる。
「ただし!」
「危なそうな状況になったらすぐに逃げてくること」
「やったぁ!」
ミリアはぴょんぴょん跳ねて喜んだ。
まあ、僕は1度も襲われたことなんてないし。
大丈夫だよね?
*◆*◆*◆*◆*◆*◆*◆*◆*◆*◆*◆*◆*
「ふふーん」
鼻歌を歌いながらルンルンで歩く1人の少女。
整ってない道に不規則に立っている家。
そんな無法地帯のような場所には、あまりに似合わない少女だった。
「確か、卵と牛乳を買ってくればいいんだよね」
少女は終始嬉しそうで、ご機嫌であることが見てとれる。
すると、少女は古びたボロい木でできた建物の前で足を止めた。
「おばさーん!」
少女が言うと、店の中から50歳半ば程に見えるおばさんが出てきた。
「あれ、いつものガキンチョは一緒じゃないのかい」
そのおばさんはただのおばさんにしては風格があり、落ち着いていた。
「今日は1人で来たの!」
「それでさ、卵と牛乳ちょうだい」
「あいよ」
少女は買い物を済ませ、先ほどよりさらに上機嫌で家へ向かっていた。
「ついに自立しちゃったなぁー」
「早く帰って師匠に褒めてもらわなきゃ!」
そう言って、少女が走り出そうとしたその時。
「んっ!」
「代わりに俺が褒めてやるよ!」
少女は口を塞がれ、体を抑えられてしまった。
その男は右手が無く、周りには子分のような奴らが2人いた。
「久しいなぁ! あの時は、よくもやってくれたな!」
「見てくれよこの右手……無くなっちまっただろうが!!」
男は少女の顔を思いっきり殴り、痛みでもがき苦しむ少女を踏みつけた。
「う、うぅ、ウォーターボーー」
少女はとっさに魔術を使おうとしたが、すぐにまた口を押さえられた。
「おっとー、危ない危ない」
「あいつからは生きて持っていこいって言われたが、やっぱやめだ」
男は気持ちの悪い笑みを浮かべながら、ナイフを取り出して言った。
「今殺してやるよ!」
「やめな!」
「あ?」
それは、さっき少女が行った店のおばさんだった。
「なんだてめぇ」
「そいつはなんだかんだで2年くらい家に通ってる常連さんなんだ」
「客がいなくなっちゃ商売なんてできっこないからね」
そう言うとおばさんは拳を固め、戦闘態勢を取った。
「ただのババアに何ができるってんだよ」
「おめーら、やっちまえ」
男が指示すると、子分のような2人がおばさんを囲んだ。
「悪く思うなよ!」
そう言ってそいつらは、ナイフ持っておばさんに襲いかかった。
「はあっ!」
が、そいつらは、おばさんの重い拳で後ろに吹っ飛ばされた。
「なんだと!」
そして、すかさずおばさんは男の方へ襲いかかり、殴った。
それを男は防いだ。だが衝撃で後へ吹っ飛んだ
「逃げな!」
「ぷはぁー」
少女は十分に息が吸えていなかったのか、過呼吸になっていた。
「でも、おばさんが!」
「大丈夫、これでも昔は冒険者をやってたんだ」
「あんなクソどもに遅れはとらん!」
少女はその言葉を聞き、涙をこらえながら走り出した。
「助け、呼んでくるから!!」
*◆*◆*◆*◆*◆*◆*◆*◆*◆*◆*◆*◆*
結局私は、私はなにも成長なんかしてなかった。
あんなに練習した魔術だって、いざというときには怖くて使えなかったし、結局また助けられて……。
「急いでどうしたのですか?」
「だれっ!」
私は振り返ったとき悟った。
自分が死ぬことを。
そこには少なくとも30人以上の、さっきの人たちの仲間と思われる人たちが立っていた。
先頭には頭の良さそうな男の人。
「確かにこれは上物ですね」
今はもう家の間近、大きな声を出せば、師匠が来てくれる。
でも、師匠を呼んだところで、多分道連れにしてしまうだけ……。
「わ、わかった」
「狙いわ私だけなんだよね」
「ええ」
「ついて行く、ついて行くから」
「素晴らしい脳をお持ちのようでよかったです」
ああ、全て終わった。
いや、別にいいんだ。
ただ、元に戻っただけ。
「今回のご協力感謝します」
さっきの男が再び現れた。
「へ? おばさんは?」
「こいつのことか?」
そう言って、男が投げたのはおばさんの死体だった。
「いやぁーー!!」
「どうして、どうしてぇ!!」
「最初やばいかと思ったが、致命的に体力がなかったおかげで助かったぜ」
「それじゃあさっさと報酬をよこせ」
「ああ、そうでしたね」
「どうぞ」
私はその瞬間、目を疑った。
男とその子分たちが一斉に刺されたのだ。
「くはっ! お、お前ぇ!!」
「ふん、このようなゲスいなものと手を組みたくなかったのですがね」
そう言ってこちらに振り返ってきた。
「それでは行きましょうか」
これで人生終わり、いや地獄の始まりなのかもしれない。
いっそ殺して欲しい。
私のせいで人が死んだ。
何人も、何人も……。
「どこへ行くんだい、お嬢さん?」
私がとっさに顔を上げると、そこには黒髪黒目で見慣れた顔の、冴えない王子様が立っていた。
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