第29話 卒業、そして……


 2013年3月。中学校卒業である。

 んで、本日は卒業式。お日柄も良く早春らしい空気である。

 とはいっても、既に式典は恙なく終わり、クラスで諸々を受け取って最後の締めも終えて、後は家に帰るだけ。


 俺も校門にて家族の面々を待ちながら、中学での生活を振り返る。


 キョウ、ミリア、ソーニャ、勉強、キョウ、ミリア、各種行事、キョウ、ミリア、合間の男駄弁り、キョウ、ミリア、キョウ、ミリア、ソーニャ、夏冬春休みの遊びと宿題、キョウ、ミリア、修学旅行、キョウ、ミリア、ソーニャ、進路、キョウ、ミリア……。


 いやー、こうして振り返ると中学校3年間は本当に強敵のようでいて軟敵でしたね。

 なんていうか、入学したと思ったらあっという間に終わってしまったとしか言いようがない。それもこれも色々と振り回してくれた同居人二人のお陰だわ、がはは。


 ……。


 おかしい、中学の卒業式という一つの区切りはもっとしんみりするもんじゃないのか?

 ほら、ソーニャの周りみたいに人が集まって、写真を撮り合って涙を湛えながらまた会おうねってやるんじゃないの? 


 俺氏は駄弁り組と、そつおめ、向こうでもがんばれよ、またなー、で終わったんですけどもっ!


【マスターダイチの友人関係が希薄であった、ということを明示していると判定されます】


 キューちゃん!

 事実なんだけどはっきり言葉にされるとイタイよ、キューちゃん!


【ご安心ください。マスターダイチには他の男子から見れば、あいつ許せねぇ的な関係がございます】


 事実なんだろうけどちょっと違う気もするけど、俺だって、どこまでもすきとおるようなあおいはるめいたことをしたっていいじゃないか!


【10代中頃より20代前半までは、マスターダイチが置かれた立ち位置の方が、それに該当すると判定されます】


 それはそう。

 いや、今のはすっと効きましたわ。


 ごめんね、キューちゃん。

 卒業式の空気に呑まれて、変になってたよ。


【ご安心ください。当方も、ヒトにはそういった感情が沸き起こることがあると学習しております】


 うん。

 変な所で年相応……、あれ、あおはるを羨むのって年相応だろうか?


 こうやってキューちゃんとやり取りをしていると、先生方や見知りの保護者とのお話しが終わったのだろう、英子さんがこちらに戻ってきた。


「大智君、お待たせ。……三人はまだ時間がかかりそうかしら?」

「ソーニャはそこに……目の届く所にいますから、英子さんがここまでといったら来ますよ」

「そう? ならあの子たちが満足して解散するかキョウカとミリアが来るか、どちらかまで待ちましょうか」

「そうですね」

「でも大智君、キョウカやミリアと一緒じゃなかったのは意外ね」

「二人にも二人なりの付き合いがありますから」


 事実である。

 三年こそ同じクラスであったが、一年二年と別クラスだったのだ。彼女達にも相応に人付き合いを持つに至っている。逆を言えば、俺の友人関係が希薄なボッチ気質がより際立つわけでして……、かなしいなぁ。


「そう。でも二人とも見目はイイから、もしかしたら今頃は告白とか受けてるんじゃない?」

「どうなんでしょうね」


 はい、実の所、キョウとミリアはなにやら告白イベントめいたことをやるらしい。

 二人からそれを聞かされた時、なんというか、二人がどんな答えを返すのかとモヤモヤする前に、相手が彼女たちの気に障るようなことを言って、二人が相手に物理的精神的な攻撃をするかもしれないという不安だけが大きかった。


 お前さん、保護者的思考が強すぎるんじゃないか、って言われると頷かざるをえない心境だ。

 実際、万が一だとは思うが、もし彼女たちが告白を受け入れて俺から離れるとことになったら……、それはそれはかなり寂しく思うだろう。けど、そこは彼女たちが独り立ちができたのだと、泣いて喜ぶような気がしないでもない。


「それにしても英子さん、見目はって……、さり気に酷いですね」

「でも事実でしょ。二人とも個性的なのに猫かぶりは上手だから、騙されてる子が多いと思うわ」

「キョウは猫は被らないって言ってましたよ。ボクが被るのは犬だって」

「似たようなモノでしょ。でも、キョウカが犬を被るって言われて、納得できるのが困るわ」

「実際は自分の気の赴くまま動く猫気質ですけどね」

「そうよね。なら、大智君から見て、ミリアはどう?」

「あの子はかなり犬気質ですよ。慣れた人というか、気を許した相手にはとことん懐く感じです」

「確かに」


 この場にいない二人を論評していると、当の本人たちが昇降口から出てきた。

 遠目で見た感じ、怒っている様子は……ないな、ヨシ。被害者はおそらく発生しなかった、と信じるぞい。


「あの様子だと、なにか特別なことがあったって感じじゃないわね」

「ですね」

「あら、ほっとしてる?」

「ええ、騒ぎは起きてないし、死人も出なくてほっとしてます」

「大智君も、あの子達の扱い、大概よねぇ」

「それなりに長い付き合いですから」


 相手への気がねが年々減ってる実感はある。

 言い換えると、扱いが雑になってきているともいう。ほら、躊躇なく踏み込んでくるんだから相応に対応しないと詰められるばかりだからね。


「その付き合いもまだ延びそうね」

「ええ、それは、はい」


 今更であるが、俺は探索者養成学校に合格した。同じくキョウとミリアも。

 その為、俺たち三人は来月には船越家を離れ、学校に設置される寮に入ることになっている。見知りの顔が近くにあることは心強い。が、それと同時に何か問題も起きそうでいささかの不安もあったりする。


 二人がそれぞれに手荷物を持って到着。

 表情はいつもと変わった様子はなし。手も腫れたり血がついてないな、ヨシ。


「ん、ごめん、待たせた」

「堪忍やー。今日だけはどーしてもって言われてなー」

「まだ時間はあるけど、もういいの?」

「構わない」

「うちもや」

「なら、ソーニャを呼びに行ってくるわね。お友達にも挨拶しておきたいし」


 英子さんがソーニャの所へ。

 残った三人で視線を交わす。これまた普段と変わりはない。が、キョウがなにか思いついたように目を見開いたかと思えば、口を開く。


「ダイチ、いくら呼び出されたとはいえ、心配をかけた」

「あー、うん、確かに心配した」

「そう。ボクも返事にはそれなりに苦心した。だから、面倒を片付けてきた嫁に一言」

「あ、うちにも頼んますー」

「二人ともよく血の海を作らなかった、エライ」


 瞬間、キョウの目が細くなり、ミリアの頬がプッと膨らんだ。二人ともコワカワイイね、うん。


「ふーん、ダイチはん、そーいうこというんやー」

「これは許されざる暴言。謝罪と誠意を要求する」

「せやせや」

「いや、どこのクレーマーだよ」

「これはクレームではなく、嫁としての正当な要求」

「せやね。うちもダイチはんに囲われた愛人として、それなりのもんを要求しますえー」

「この前、テレビで不当要求には断固とした態度で拒否するようにって、言ってたんだよなー」


 確か、政府広報かなにかだったと思う。


 あ、二人が視線を交わした。なにか考えがあるようだ。


「ほーん、そんなこと言うんや。それならこっちにも考えがあるんよ」

「そう、ダイチ、後悔は先には立たない」

「へぇ、具体的にはなにをするつもりなの?」

「ふっふ、うちは養成学校での自己紹介で、ダイチはんにコロコロされて手籠めにされましたって宣言しますえ」

「ボクは身も心も委ねているというのに、浮気されてしまった悲劇の嫁をする」

「お、おまっ、やっていいことと悪いことがあるだろ! 俺の世間体が初日で殺されるわっ!」


 こいつら、想像するだけでも恐ろしいことをしようとしてやがる!


「でもこれやと、ダイチはんに寄り付く女はおらんなるやろ」

「そう、ダイチにとっての女は、ボクたちだけになる」

「えぇ……、そこまでするか?」

「当然やんか。ダイチはんは、うちの拠り所。何もなくなったうちに、当たり前のことを当たり前に取り戻してくれた人やもん。これから一緒にかぞくをつくる、大事な大事な存在や」

「そう、ボクはダイチに生かされた。この命はボクのものである前にダイチのモノ。ダイチがいないなら、ボクが存在する理由もない。ダイチが死ぬ時はボクも死ぬ。絶対に離さない」


 あれぇ、なーんか、唐突に、二人の目が、ドロォって感じに、濁り粘ついてる気がするなぁ。


 ……き、気のせいだな。


【マスターダイチ、思考が震えております】


 きのせいきのせい。

 さー、英子さんがソーニャを連れて帰ってきた、さ、さ、二人ともお家に帰りましょうね。ほらほら、今日はみんなでお祝い。すき焼きするし、寿司も取ってある。なんならデザートに各種ケーキもあるぞっと。





 ……これ、どうすんべ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る