第21話 大人の階段一つ


 暴発した暴発した暴発した暴発した暴発した。

 なにがと言われれば、ナニが、がである。わかる人にはわかる。

 いや昨日の夜から、なんか寝ている時にみょーに心地よいっていうか脳髄から背筋にかけてビビビッて快感が走ってたっていうか、艶めかしい淫夢を見たような見なかったような、とにかくなんか気持ちよくスッキリして、いつもより早く起きたら……、股間周辺が生暖かくヌメッたというかへばりつくナニカがべちゃっとしていた。


 きゅ、キューちゃんっ、これはいったい!


【夢精であります】


 知ってた。


 うん、人生二度目だから受け止められる。


 でも今の環境でこれはさぁ、大惨事発生なのでは?

 被害が広がらない内に動かねば……。ということで寒いけれど意を決して掛け布団を腰下までまくる。両脇の二人が寒そうな仕草を見せるが、今は爆心地に近いソーニャの方が心配なので置く。

 そしてふんわりと鼻に届いたのは、栗の花のような特有のニオイ。ああ、出したんだなって一発でわかる、あのにほいである。


【ご安心ください。疑似精液であります】


 ああ、うん、一発だし誤射だよね。

 ……いかん、返しが上手くできない。ちょっと動揺してるかも。


 ソーニャを見る。

 最近は下腹付近に顔を当てて寝るのがブームらしい。でもって、その顔だが眉根が少し寄せて、スンスンと鼻を動かしていた。


 この事案がソーニャを愛でる会の面子にバレたら、俺は殺されるかもしれない。

 幸いというべきか、大部分を下着とスウェットパンツが受け止めてくれたのか、外部への漏れは少なさそう。


【液状ゲル化は人体の標準仕様であり、もっとも効率が良く外部へと放出できます。今回のケースではご迷惑をおかけいたしますが、ご承知ください】


 うん、わかってる。

 けど、この独特の気持ち悪さは、もうほんと、なんとも言えないのよ。


【どうしても不快だと感じられるならば、当方も対処いたします】


 どんな風に?


【はい。マスターダイチの許可を頂けるならば、固体化して放出いたします】


 や、やめてっ、それ結石が尿管通る時以上の惨劇が発生して、絶対に悶絶死する!

 あわわ、竿を通る時にゴリゴリガリガリって想像するだけで体中に怖気が走ってぶわっと冷汗がががっ!


【では、これからも標準仕様での放出をいたします】


 うんそうしてそうしてちょうだいそうしてください!


【承知いたしました】


 ふーーー、と大きく息を吐き出して、気持ちを切り替える。

 さて、これから思春期男子恒例の誰にも見つからないで証拠を洗い流しましょうの時間だ。



 着替えを手に風呂場に直行。

 シャワーで着衣の汚れものを一通り流してから洗濯機へ。体に付いた分と竿内外も洗い流してから、最後に洗い場を綺麗にして対応終了。



 朝から大変だったと幾分疲れを感じつつ、風呂を出ようと戸を開けた。


「んー、ダイチはん、朝早いのに、シャワーなん?」


 びくっと身体が跳ねた。

 洗面脱衣所には、寝ぼけ眼のミリアがいた。洗面の鏡越しに目が合う。手を洗っている。近くのトイレからは使用後の響き。


 た、タイミングが、悪いっす。


 顔が引きつる。

 どうするどうしよう、なんて考える前に寒さを感じてしまい、裸のまま飛び出てバスタオルを手に。


「ぉおー、なんや、お父はんのと形が違うんよー」

「いや、冷静に見すぎ。もっとビックリして、きゃーとか叫んでもいいと思うんだけど?」

「えー、別に普通やろ。それは、うちが叫んだらダイチはんが困るんちゃう?」

「そうかも。……でも、そんなにしっかり見るか?」


 忙しなくバスタオルを動かして水気を取っていく。


「そら普段からダイチはんが見せてくれへんから、しゃーないやん」

「しゃーないことないって、普通なら見せるモノじゃないんだから」

「えー、別に恥ずかしがらんでも、かぞくなら普通やと思うんよー」


 そうかなそうかも……じゃない!

 流されるな流されるな、オレェ!


「で、そろそろ着替えたいんだけど……」

「ええやん、減るもんやないんやし」

「俺の恥ずかしさが増します増すんですだよ」

「あはは、増えるんならええやん、ほら、ダイチはん、スパっと、スパっと着替え」


 で、出ていく気が微塵もないな、こいつ。

 身体も冷えてきたし、押し問答する時間が惜しい。仕方なしに着替えを始める。


「おー、ぶらんぶらん動くやん。あ、たまたまも大きいって、あれ、三つ?」

「二つに決まってるだろ、常識的に考えて」


 キューちゃん!


【対応いたします】


「え、でも……んー、あれー、見間違いかなー」

「おい、中学女子。そんなにマジマジと見るな。せめて、少し位は照れを見せてくれ」

「えー、でもうちが今更かまととぶるのも変やん」


 否定、できないなぁ。

 ミリアがいきなり照れだしたら別人を疑うレベルに。


「で、見てて楽しいか?」

「んー、楽しいっていうよりも、こう、ぎゅぐぐんって感じに好奇心が満たされてるなーって、あーん、もうちょっとええやん」

「ダメ、寒いし、そもそも見せびらかすもんじゃない」


 ふー、パンツを履いて、ここまで安堵したのは初めてだわ。

 着替えを続けつつミリアを見れば、少し頬を膨らませていた。だが、こちらの視線に気が付くとにまっと笑い、手をにぎにぎ。


「今のサイズから大きくなるんやろ、今度は触ってみたいわ」

「怖いもの知らずか」

「んふふー、ちん○ん怖いわー」


【ムシャムシャ食べた後、最後に一言、熱い精液が怖い】


 キューちゃんそんなオチは求めていないよキューちゃん!


「頼むから、そんなノリを外でしないでよ?」

「いくらうちでも、外ではせーへんって」

「ほんとーぉーにぃ?」

「ほんまほんま、せーへんせーへん」

「本当に頼むからな」

「んー、わかった。でも、大きさっていろいろなんやなー。ダイチはんの方がお父はんのより大きかったわ」


 おぉ、なんということをっ!

 父君の名誉が傷つけられているっ!


「そういう感想も出さないように。ミリアが思ってるよりも、男って繊細だからな」

「えー、うちのアプローチを軽くいなすダイチはんが、繊細やって?」

「そんな、ひどい……」

「あれ、今のどっかで聞いたことあるよーな?」


 ミリアが首を捻ったところで、着替えは終了。

 ん-と唸っている彼女の肩に両手を置いて、クルリと180度回転。背中を押す形で洗面所から廊下へ出る。


 冬の朝。

 冷え込みが厳しくなっている。


「ほら、まだいつも起きる時間まであるし、もう少し寝てきたらいいよ」

「せっかく起きたんやから起きてるわ」

「大丈夫か?」

「うん、ここまで目が覚めたら起きてる方がええわ。なんなら手伝いもするえー」


 リビングに入る。

 こちらもまだ冷えている。二両編成を解いて、空調のリモコンに手を伸ばした。その時、すっとミリアが寄ってきて、耳元で吐息と共に声。


「ダイチはんがなんでシャワー浴びてたかについては、内緒にしとくわなー」


 そう言ったかと思えば、ミリアは俺の前に立って笑って見せた。

 その微笑みは、悪戯大好きの邪妖精か淫靡に煽る小悪魔のようだった。

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