中学生
第15話 部屋割り
先の顔合わせの結果、ソーニャが家に来ることになった。
当人が俺達のやり取りを見て、大丈夫そうだと判断したとのこと。自然体というか、いつもの家でのやりとりを見せたことが良かったのかもしれない。
ま、賑やかなのは嫌いじゃないので、ヨシ、である。
ということで、無事に小学校を卒業した後、3月の終わり頃にソーニャが加わり、年度が替わって近くの公立中学校に入学である。
ちなみに、卒業式では特になにもなかった。ふつーに小学生らしい卒業式で、英子さんが少しダメージを受けながらも記念写真を撮ってくれた位だ。
さて、ここからが肝心な事である。
これは俺の尊厳をかけた、極めて重要な、話し合いである。
その内容は、部屋割り。
そう、以前の取り決めで定めらえた部屋を男女別にするという取り決めに対して、一部が異議を申し立てる事態となり、これを最高権力者たる英子さんが認めたことで、急遽会議が開かれることになった。なってしまったのだ!
これは許されざること。
相手がその気なら、こっちも本気になってかからなければならない。今日に至るまで、俺もそれなりに経験して学習できている。
そう簡単に、言い負かされたり言い包められたりなんてしないんだからっ!
【負けフラグ乙、であります】
キューちゃん、なんということをっ!
そんなやり取りが内側でありましたが、入学式前夜のリビングにおいて、オブザーバーに大人1人付で子ども4人で部屋割り会議である。
「では船越家子ども会議を開催したいと思います。議題は部屋割り。以前の話し合いでは中学校入学を機に、部屋を男女に分けることが決まっています。しかし、一部より異議申し立てがありましたので、再度、話し合いを行うことになりました。司会進行議長は僕。これは向き不向きによる厳正なる判断であり、不利になったら廃案にしたり強行採決を狙ってのことではありませんので、ご理解ください」
「うそだー、ダイチは自分有利なけつろんへのゆうどうをねらってるぞー」
「そーだーそーだ、おーぼーだー」
「んー、わーわーでいーの?」
「だまらっしゃいな。こちらは数で不利なんだから、これくらいで丁度いいのっ」
民主主義? 多数決の原則? 知らない子ですね。
【マスターダイチ、ジャッカーが草葉の陰から覗いております】
ははは、世の中にはね、自分にとって不都合な事実や現実に耳を塞いで見向きもせず、自分だけが、自分の考えることだけが、自分の信じることだけが、絶対に正しいって行動する人がそれなりにいるんです。今日はそれを見習うだけのことなんだ。
「はい、ヤジは控えてくださーい。それでは会議を進めます。まずは異議申し立てを行ったキョウ、当初部屋割りへの異議をどうぞ」
「ん、男女による部屋割りは著しく不平等であると言わざるを得ない。船越家は3LDK。1部屋は当然英子の部屋。残り2つはボク達で使って良いとのこと。では、その2つを男女で分けると、1部屋に対してそれぞれ男1女3となる。1人あたりの面積を考えると、これは不公平と言わずしてなんというべきか」
「そーだそーだー」
「ふこうへい、だめ」
ほほう、キョウの奴め、珍しく正論で来たか。
ならばこちらも倫理的な正論で反撃だ。
「男女で分けるのには意味があるよ。中学生にもなると性別の差が身体に出てきて、より自分という存在を意識する時期になる。性欲も出てくるし、身体の変化にも対応しないといけない。それに、この時期は身体の成長過程で心が不安定になりやすいから、イライラしたり気分が落ち込んだりすることがある。でも同性同士だけでなら、不安とか愚痴とか、気楽に話せることもあるだろう。だからkそ、この部屋割りなんだよ」
ふふん、中々の反論だったはず。
「ボクはダイチがいても気にしない。むしろいた方がイイ」
「うちもやなー。みーんな、かぞくやし」
「そーなの? ……よく、わかんない」
あれ?
「いや、僕が気にするの。一緒の部屋で女子が着替えをするのは気まずいの」
「大丈夫、慣れる。今までの延長」
「せやせや、慣れやで慣れ」
「慣れって……、それが慣れないし緊張するから区切りたいんだけど。普通、男とずっと同じ部屋って嫌じゃない?」
「他の男なら嫌だけど、ダイチに限定したら平気」
「うちもやなー。よく知らん男の子やったら、さすがに嫌やけど、ダイチはんなら見られても構わへんなー」
「下手すると裸を見られるのに?」
「見られて恥ずかしいモノじゃない。むしろ意識させたら、ボクの勝ち」
「せやなー、かぞくなら隠すようなもんちゃうやろ」
「えぇ……」
俺、別におかしなこと、言ってなかったよね。
「それで俺が変な気分になったら、どうするの?」
「ん? 変な気分って? どんなの?」
「せやなー、変な気分てなんやろうなー?」
「ぐ、ぐ……だぁーーー! 前に保健の先生から習ったことっ!」
くそっ、言葉選びに失敗した!
キョウもミリアもわかっててニヤニヤしてやがるっ。
しかたなく英子さんを見る。
困ったような顔で、俺を労わるように、同時に憐れむように見てくる。
や、やめてくれ、その視線は、おれに、効く。
「な、なら代案は? どうするのがベストだと?」
「これまで通り。同じ部屋で皆一緒なら平等。一緒に寝て、わちゃわちゃする。寂しくない」
「そうそう。これまでどーりでええやん」
「いやいや、六畳間に四人は厳しいって」
ただでさえ、宿題はリビングでしてるというのに。
「いけるいける。なんとかなる」
「せやで。こういう時はな、部屋の使い道を考えたらええんや。一部屋は寝室、もう一つは勉強に集中したい時とか、物とか服とか置くようにすればええ」
「ミリア、それは良いアイデア」
「やろー。うち、前から考えててん」
なん、だと……。
「あ、他にも、一人になりたい人がその時だけ使えるようにしてもエエと思うんよ。ほら、男のダイチはんにはこういう部屋は特に必要やろし、一番使うかもしれんへんなー」
いやなに、ミリア、その、うちは理解あるんよー、って言わんばかりの暖かい目は。
理解者の目から逃げながら、残り一人の意見を求める。
「そ、ソーニャは、どう?」
「ん-、わかんない。…………けど、みんなといっしょなら、たのしそう」
感情がほとんど表に出ない子だけど、今は薄っすらと笑みを見せている。
いや、これはあかん奴やろ。
会った時から思ってたけど、やっぱり情緒が全然育ってませんですわよ。
くそがっ、ジャッカー許さねぇ!
ここで不遇爆弾が爆発するなんて、連中の悪行が原因じゃねぇーかっ!
「ほら、ソーニャもこう言ってる」
「せやせや。ダイチはんが下の処理をする場所もできたし、一緒の部屋で寝ても大丈夫やって」
「ミリアっ、言い方ぁっ!」
「しも、しょり?」
「ソーニャには、もう少ししたら私が教えるからね」
英子さんソーニャのフォローじゃなくて俺のフォローをお願いします英子さん!
しかし保護者様は首を静かに振り、俺を見て告げた。
「どうやら大勢が決まったみたいね」
「英子さん」
「止めなかった私がいうのもなんだけど、やっぱりこうなってしまったか、としか言えないわ」
それ、止めなんですけど……。
「大智君、思う所があるのはわかるけど……、採決を取ってくれる?」
「はい。ミリアが出した案にさんせいのひとー、はい3人、はんたいは1人。よって、ミリアが出した案が採択されましたー」
「おー、ぱちぱちぱち」
「やったぜ。現状維持や」
「ばんざーい?」
誰にとっての万歳なんだろうね。
思わず項垂れる。そこに英子さんの声が届く。
「大智君にはかなりの負担を強いることになるけど、ミリアが言ったように、もう一部屋をうまく使ってね。ナニをしても私が許します。鍵も用意します」
「えぇ……、明け透けすぎて、普通の子なら下手するとグレますよ?」
「そう言ってくれる大智君なら呑み込んでくれると信じるわ。それにほら、元の状態を考えればね。だから、あまりにも極端な過ちがなければ、容認せざるをえないかなって」
顔を上げる。
保護者の顔には悩まし気だが仕方ないと疲れた表情である。
「いえ、本当はね、物凄く大丈夫なのかって胃に来そうなくらいに心配なんだけど、下手に抑制するともっとマズいことが起きる気がして」
「ああ……、そっちの方が怖いと」
「ええ、制御できない暴走こそが怖いわ。だから、大智君、堪忍して」
うぐぐ。
キューちゃん、今からひっくり返せそうな策はない?
【残念ながら、当方の処理能力を超えております。また英子女史の意見の通り、個体キョウ及び個体ミリアへの抑圧を行った場合、マスターダイチにとって不本意な結果になる確率は400%であります】
ああ、うん、そっか。
なんの結果確率かは聞かないでおくよ。
「それはそれとして、京香ちゃ……、いえ、キョウカとミリアは、後で私の部屋に来るように。大智君に負担を強いる以上は、しっかりと一線を取り決めます。いいわね?」
ひぇっ、英子さんの目がこれまで見たことがないほどに、ギラギロリと底光りしてる。喜んでいた二人はそれを向けられた瞬間に、すっと大人しくなって何度も頷いたわ。
連行されていく二人を不思議そうに見るソーニャに、大事なことを個別に話すことがあるんだよ、とだけ言っておいた。
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