第12話 同居人たち


 はい、11月になりました。

 10月には京都への修学旅行もつつがなく終わり、小学校もあと少しで終わりを迎えます。


 前世世界と違い、今の世界はまだ秋感が強くて、木々は艶やかに色づいてる。

 修学旅行の時にはもうちょっと秋が暮れてからなら、なんて思ったけど、うん、やっぱりいいよねぇ、終わり行く晩秋。温泉地で二、三日程のんびりと過ごしたくなる。紅葉が見える露天風呂で雪がちらつくならなおヨシ。

 なんて個人の感想は置いて、ジャッカー残党関連の問題が総理大臣による収束宣言を持って一段落し、世間様もようやく落ち着き始めて……始めると思ったんだけどね。


 一般開放されたダンジョンで、新参探索者に人死にが出る事態が連日起きて、イロイロと問題になっているようだ。


『9月にダンジョンが一般開放されてから二か月が経ちました。探索者免許の取得要件が緩和されたことで、探索者は全国で10万人程が増えることとなりました』

『はい、当初想定されていた5万人より倍する数となっています。これはモンスターが体内に持つエネルギー結晶体、通称魔石が国によって買い取られることとなり、収入面において待遇が改善されたことが後押ししたとみられます』

『ですが、その一方でダンジョンでの犠牲者の数は増え続けています。今日も札幌第一ダンジョンで一人、大阪難波ダンジョンで二人、熊本ダンジョンで一人と、四人の方が亡くなっています』

『被害が続いていることを受けて、野党側は一般開放は時期早々だったと政権を批判しています。また政府与党側も被害が相次ぐことで国民の間で不安が広がることへの強い危機感があり、今日も国会ではダンジョン対策部会を開らかれて、新たな対応を検討しているところであります』


 夜。

 晩御飯やその片づけも終わり、テレビを見て一服中である。

 英子さんは残業があるそうで、まだ帰宅していない。女子連は二人連れ立って楽しくお風呂だ。


 なので数少ない一人の時を楽しむべく、リビングのソファにもたれながら国営放送のニュース解説を見ていたのだが……、まぁ、昨日まで一般人だったヒトが急にモンスターと戦えるようになるはずがないんだよなぁ。


『ダンジョンを管理するダンジョン庁も対策に乗り出しています。これまでにも、免許取得の為の事前講習期間を二日から四日に延ばす、実技試験における合格基準の厳格化、単独での探索を原則禁止にする、モンスターのなすり付け行為に対する厳罰化、皇国軍による見回りの強化、といった対応が実施されましたが、どの程度の効果があったのでしょうか?』

『対応実施後、犠牲者増加の勢いは弱まっており、一定の成果があったと言えるでしょう。ですがこれに関連して、気になるデータが出ています』

『と言いますと?』

『はい、このグラフをご覧ください。このように犠牲者を年代別を示しますと、10代から20代前半までの若年層に被害が集中していることがわかります。これを受けて、与党内からも制度設計が甘かったのではないか、実習が足りていないのではないかとの声が出ており、抜本的な対応を迫られています』


 そりゃなー。

 ある程度歳を……よりも経験かな、それを重ねないと自重ってのはできにくいからなぁ。


 まだ行けるはもうヤバい。

 そんな風に自分のことを戒められるのは、若いうちには中々できることではないと思う。

 若い頃って、若者独特の根拠なき万能感というか、無理と無茶、挑戦と無謀をはき違えちゃったりするというか、うーん、若い身体からムダに溢れ出てくる熱かな、それがとにかく後押しになって何事に対しても推進力がスゴクて、大人じゃできないと思ったことを成し遂げる、なんてことがあることは認める。


 けど、時にそれが裏返って、いつの間にか押すな押すな、絶対に押すなよって所で、トンって具合に押されちゃう。


 だから、帰ることができなかった。


 ふぅーと息を吐いて思う。

 この様子だと、免許取得年齢の下限が押し上げられそうな気がする。


 へい、キューちゃん、この予測どうよ。


【はい、マスターダイチ。肯定であります。議論がこのままの流れで進んだ場合、74%の確率で引き上げられると推定されます】


 だよねー。

 高校になったら、アルバイト代わりに探索者なんていいかもって考えてたんだけどなぁ。


【事実、社会人の間では副業として、またストレス解放の一つとして、選択されております】


 だろうねー。


「ダイチ、出た」


 キョウが風呂から出たようで、リビングに入ってきた。

 口煩くした成果か、あるいは少し寒いのか、パジャマ代わりの俺のトレーナーを着ている。ただし下は変わらず下着だけである。


 これでもマシになったんだと、自らに言い聞かせながら苦言を一つ。


「また、僕のを着て……」

「英子が選ぶバジャマは女の子しすぎてて合わない」

「なら、そう言って別のを買ってもらいなよ」

「あるモノを使うのは正義。倹約大事」

「いや、そうだけどさぁ。その分、俺が着るのが減るわけで困るんだけど」

「パジャマ、着る?」


 差し出されたピンクにちょっとフリルが付いたパジャマ。

 キョウは髪が短いこともあってか、可愛さよりも凛々しさの方が強く出ている。別に似合わないことはないだろうけど、見た目の解釈不一致になって違和感がないこともない。後、俺が着るってのも……サイズが負けてるんだよなぁ。


「キョウ、自分が着ないのを勧めない」

「そう言うから、お気に入りを着る」

「はぁ、わかったよ。今日もTシャツにする」

「ふふん、ダイチは天然のカイロに感謝すべき」

「夏場は散々に蒸されて、僕、痩せたんだけど?」


 ペラペラとおしゃべりしていると、もう一人の同居人の声が聞こえてきた。


「ダイチはーん、お風呂どーするー?」

「入るからそのままでいいよー」

「わかったー」


 と返せば、視線を感じた。

 見れば、ニヤニヤと口元を緩めたキョウの顔。


「こうして、ダイチはボクたちの残り湯を堪能するんだ」

「いや、言い方。……嫌なら入れ替えるけど?」

「冗談。でも実際女の子エキス満タン。男の滋養にイイって聞いたから、飲んでもいいよ」

「だから言い方ぁっ! そんな変なアホ知識、どこから仕入れたっ! 後、俺、変態違うっ!」

「おお、ダイチ、俺って言った。今の方がなんかいい」

「こらっ。話逸らすなっ!」

「おーなんなんなんなん。ダイチはんがえらい怒ってはりますやん」


 ミリアが戻ってきた。

 こちらはちゃんとパジャマを着ている。着ているが……この時期の女子の成長には目を見張らざるを得ない。なんで一年程でそこまで大きくなるんですかね。キョウなんてほとんど変わってないのに、こんなの絶対おかしいよ。


「あー、ダイチはん、うちの胸見てるー。目がやらしーわー」

「ミリアは強調しすぎ。ついボクも見る」

「そら女やもん、背筋はピンと伸ばしとかんと」

「むー、その胸の肉を、ボクにも幾らか寄こすべき」

「えー、キョウカはんは今でも十分にカッコカワイイし、それでもエエと思うでー」

「ダメ、足りない。ダイチの目を引き付けるのに必要」

「ならしゃーないかー」


 きゃっきゃうふふって、もうこんな所にいられるか!

 俺は風呂に入らせてもらうっ!


「あーん、ダイチはんが逃げるんよー」

「もっとボク達の相手するべき」

「風呂あがってからにしてくれ」


 ぐいぐい来るパワーには、ほんとに負けるわ。

 このままだと、中学に入る時にまた押し切られそう。


 ……いや、まだだっ!

 まだ耐えられる、まだ頑張れるはずだ、踏ん張れ、オレェ!

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