導きの声

にこにことしているセンリからの質問に対し、

カイは怪訝そうな表情をするが、

格闘技場広場の観客側にいたリオナと目が合った時のことが脳裏に蘇ったのは、

今だった。



【⋯あっ⋯】


【ん?】


【⋯っ⋯!】



(いつもなら、

会ったばかりの女のことはすぐに忘れてるのに、

なぜかあの女のことはまだしっかりと覚えてんだけど。

話をしたわけでもねーし、ただ目が合ったそれだけ。

何でだ?)



カイと目が合った途端、

まるで熱でも出たのかとでも思うくらい赤面し、

逃げるように去って行ったリオナ。


そんなリオナのことはカイの中で記憶されていたようだ。



「その様子だと、どうやらいたっぽいな」


「ですね」


「どんな女の子なの?教えてよ」



カイが黙りこくったことで、

ゼン、ナギサ、センリの三人に肯定したと思われたらしい。

ニヤニヤとした目つきでカイを見ている。



「そんな女なんか、いねーよ!」



誤解を解くため、

カイが強気に否定した時だった。


おそらくリコル号の後をついてきたのだろう。


旗を掲げていない一隻の船がすーっと近づいてきたかと思うと、

リコル号の横につくようにして止まったのだ。


子分らしき複数の男達をはべらせた男が、

リコル号に向かって呼びかけてくる。



「よおよおよお!

お楽しみ中のところ、わりーな。

おたくら誰の許可を得て、

この辺りの海域を動いてんだ?」


見た目や雰囲気からしてこの男が頭なのだろう。


頭の男の声により、

どんちゃん騒ぎで楽しい雰囲気であったリコル号の空気が一瞬にして、

ピリッとしたものへと変わった。



「あ?誰だ?てめーら」



眉間に皺を寄せ、

真っ先に反応を示したのはカイだ。

強い形相で頭の男を睨みつけ、

警戒心をあらわにしているカイは戦闘する気満々のようで、

いつでも戦闘出来るように懐の鞘に手をかけている。



「カイ、気をつけろ。

あいつらは確か、

この辺りを通る船を強盗・強奪目的で襲ってるって噂の悪党グループの一味らしいぜ」


「あと、人身売買目的で誘拐を生業として生計を立てているようだ。

要するに、人徳から外れた極悪人共ってとこだな」



奥の方で下っ端達とお酒を楽しんでいたレオとエイジも、

緊迫の空気を察して甲板中央に集まって来たようだ。


そっとカイに耳打ちし、注意を促した。


また、

カイは全くもって知る由もなかった。


この悪党達がリオナを襲撃拉致し、

彼らの船の食糧倉庫にリオナを監禁しているということを。



「海賊共に名乗る必要性はない。

だが、

この船丸ごと俺達に差し出すなら、

命だけは助けてやってもいいぞ」


「へっ。

俺らとやるってことか。上等だ。

どこのどんな悪党共か知らねーが、

俺にとって、

お前らなんか怖くも何ともねーよ。

売られた喧嘩は買ってやるぜ!

ゼンさん、

いいっすよね?」



既に鞘から剣を抜き、

戦闘モードに入ろうとしているカイの呼びかけに、

ゼンがにこやかにウインクをして答える。



「せっかくだから、

この場でお前の剣の腕前を見てやろう。

但し、殺さない程度にな」


┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

リオナが監禁されている食糧倉庫は、

悪党グループ一味の船の地下室にあった。


野菜やフルーツなどの食糧の香りが漂う食糧倉庫の奥には、

人間一人分が入るような長方形の木箱が隅に置かれてある。


その中に、

両手足を縛られ、

布で目隠しと猿轡をされたリオナが、

くの字でぐったりとしていた。



「⋯」



リオナの意識は無い。

どうやら眠っているようだ。


いや、眠らせられたと訂正しておこうか。


なぜなら、

悪党達がリオナを木箱の中に閉じ込める際、

リオナがもがきの抵抗でじたばたと暴れたため、

大人しくさせようと、

睡眠薬を染み込ませた布を強制的に嗅がせたからである。


それも、

つい1時間程前のこと。


強い薬品であることから、

しばらくの間、

リオナは目を覚まさないだろう。

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