ゴッドラック(GOD LUCK)~実力ゼロなのに、何故か世界最強扱いされています~

長見雄一

第1話 最強の男

「戦いの時は来た‼︎ 今この時こそ、皇帝陛下の名の下に、帝国の威を示すとき‼︎ 伝説を抹殺し、ブルカスニア帝国の名を世界へ知らしめろ‼︎我らこそ、最強の名を頂くに相応しき豪傑であると‼︎ 奴の死を持って証明せよ‼︎」


「「「殺せ! 殺せ! 殺せ! 殺せ!!!」」」


 指揮官の宣告に、ブルカスニア帝国軍は熱に浮かされるように歓声を上げ、集められた総勢10万の兵が次々に盾を打ち鳴らす。


 その音は万雷のように平野を埋め尽くし、海岸の潮騒すらも飲み込み大海原を駆け抜ける。


 これから成し遂げる偉業を誇るように、あるいは遥か海の先にある祖国にその偉業を知らしめるために、鼓舞された兵士たちは海を、陸を、黒く染め上げながら蹂躙を開始する。



 小高い丘に立つ、たった一人の男を殺すために。



「ぬはははははははは!!!! どうだゼロ‼︎ 貴様のために用意した騎兵1万に加え、重装、軽装、魔導歩兵総勢10万!!! 帝国の精鋭その全てをここに集結させた!! 抜かりも油断も小手調べもない、全軍を持ってして最強の名を奪い取ろう────ッ進軍せよ‼︎」」


「「「おおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」」」


 熱を帯びた兵士たちは濁流のように大地を震わせ、丘の上に立つ男に目掛けて押し寄せる。


 圧倒的な兵力数、装備と兵士の質、そして異常なまでの士気の高さ。


 間違いなくその時の帝国軍は、歴史上のどの軍隊にも比肩するもののない、最強の軍隊だった。


しかし……。


【────ゴル・ベンナ・ザイル】


 たった一言。


 その男のたった一言により、戦況は一瞬で覆される。



 結末から記そう。


 帝国軍が誇る総勢11万の兵力はその日、たった一人の男の力により壊滅ゼロとなった。



◾️



 世界に魔王が現れたのは10年前、それは突然の出来事だった。


 強大な力と膨大な魔力を持った魔王は異世界より魔物たちの大群を引き連れ、見境なく世界を蹂躙しては人々の血を啜り、悲鳴に微笑んだ。


 滅ぼされた国は20を超え、失われた命は億を超え、世界に絶望と嘆きが支配した闇の時代。


 だが、そんな圧倒的な力を持つ魔王の脅威の中、たった一つだけ侵攻もされず国境すら越えられなかった国があった。


 その王国の名はリーファランド王国。


 東の小国と呼ばれるその王国は、軍事力も魔法も人材すらお世辞にも優れているとは言えない森ばかりの未発達の国。


 王も貴族も戦争をするだけの資金すら満足に持ち得ず、兵士の数もごくわずか。


 本来ならば魔王に抗う術を持たない小国の筈だった。


 だが。


 魔王はそんな小国に住む一人の男を恐れ、リーファランドから手を引いた。


 それどころか、勇者に打ち倒されるまでの10年間、リーファランドの国境に近づくことすらなかったという。


 故に魔王が打ち倒されたのち、その男の名声は勇者を超えて世界に轟きわたった。



 東の王国に魔王すら逃げ出す最強の男あり。


 その名はゼロ、と。


□ 3ヶ月前。


 戦争が終わり、魔王の脅威が去ってから1年。

 

 今や恐怖に包まれていた世界は喜びに染まり、勇者の功績を讃えるかのように人々は毎日のように歌い、踊りながら10年ぶりの平和を謳歌している。


 そんな中。


「陛下、およびでしょうか」


 リーファランド王国の玉座の間はかつてないほどの緊張感に包まれていた。


それこそ、魔王の到来よりも。

 

「お、おぉ、よくぞ参ったゼロよ。い、いきなり呼び出して、その、悪いな」


 目前の男に対し、若き王……リーファランド王国5代目国王シャンバラは声を震わせながら男に声をかける。


 その額には汗が滲み、玉座の間全体に響き渡りそうなほどその心臓は鼓動を早めている。


「陛下のご要望とあらば何処からも馳せ参じましょう。私は陛下の臣なれば……」


 跪き首を垂れる男。彼こそが最強と謳われる男ゼロであり、相手が忠誠を誓う言葉を述べているにもかかわらず、王は怯える様に「ひっ」と小さな悲鳴をあげた。


「そ、そ、そうか。うん、それならよかった」


「それで陛下。急ぎのご用件とは?」


「え!? あー、うん。要件な。えっと、そのー、そう急ぎの要件なんだがーえーと」


「?」


 口籠るシャンバラ王は不安げにちらりと隣に控えている宰相に視線を向け、ヒソヒソと話しかける。


「お、おい……ほ、本当にやるのかフィアレ? 大丈夫? 国滅びない?」


「いずれにせよこれでダメなら滅ぶだけです。私がついてますから、覚悟決めてください」


 踏ん切りがつかないといった様子の若い王に、宰相であり愛人でもあるエルフ族の少女フィアレは努めて冷静に背中を押す。


 しかし冷静な表情とは裏腹に少女の手はカタカタと震えている……。


「……はぁ……わかったよ。 こうなりゃヤケだこんちくしょう」


 その様子に王は観念した様に向き直ると、用意していた言葉を目前の男……最強の男ゼロへと絞り出した。


「こほん。ま、魔王が討ち滅ぼされてから早くも一年が経過した。他国では多くの犠牲を出したと聞くが、我が国は其方のおかげで魔王の災禍とは無縁に過ごすとができた。ひとえに其方の働きのおかげだ、ゼロよ」


「とんでもない。これも全て王が神への献身を忘れず善政を敷いたが故の恩寵かと。私などの力では決してありませんし、私は何もしておりません」


「は、はははは、相変わらず謙虚なやつだな。お前は……」


 謙虚な物言いに王と宰相は心の中で「嘘つけ」と呟き、魔王が一度王国に接近をした時のことを思い出す。


 それは魔王が降臨してすぐ…………迫り来る魔王の軍勢を国境で迎え撃った時の話である。


 迫り来る5万の魔王軍に対し、迎え撃ったのはゼロ率いる2千の兵団。


 絶望的な戦力差に誰もが王国の滅亡を覚悟したこの戦いは、結果誰一人犠牲者を出さずにリーファランド王国が勝利を収めた。


 勝因は魔王の戦意喪失による敵前逃亡。


 大将として前線に躍り出たゼロを見て、魔王は国境を跨ぐこともせずに撤退。


 翌日には魔王城すら放棄して次の月には消え失せてしまったのである。


 結局魔王は侵略地域を大陸の遥か西側に変更。


 勇者に打ち倒されるその日まで、ただの一度もリーファランド王国に近づこうとすらしなかった……。


 そのことをゼロは偶然だと語るが……疑うまでもなく誰もが理解している。


 魔王より……そして多くの犠牲を出しながら三日三晩の戦いの末魔王を討伐した勇者よりも……ゼロは遥かに強いのであると。



! 本当のことです。、しておりません」


 語気を強めて否定をするゼロに、シャンバラ王は気圧されて言葉に詰まる。


 立場上ゼロはシャンバラの臣下ではあるが、それ以前にゼロは単身でこの国よりも遥かに強い……その気になれば滅ぼしてしまうことも簡単だろう。


 うっかり怒らせたがために国が一つ地図から消える。

 

 そんな神話みたいな事を簡単に実現できてしまう力の塊を前に、緊張をするなという方が無理な話であり、加えてこれから自分が行おうとしている事を考えるとシャンバラは気が気ではなかった。

 

(……貴族の奴らめ、いくら命握られてる現状が怖いからって全部俺になすりつけやがって……あぁ、なんで俺がこんな目に)


「王よ」


「フォウ!? え、な、なに!?」


「お考え中のところ申し訳ありません。しかし、何か私に急ぎの用があったのでは?」


 前置きはもう十分と言わんばかりのゼロの気迫に、シャンバラはしどろもどろになりながらも本題を切り出す。


「わ、わあ、あぁ!!? そ、そうだな! そうそう!そうだとも!!勿論、重大な任務がある」


「重大な任務、なのですか?」


 怪訝な表情を向けるゼロ。


 その表情に、シャンバラは込み上げてくる胃液を必死に飲み込みながら、震える唇で慎重に言葉を選ぶ。


 自分の人生……いやリーファランド王国存亡をかけた大仕事がとうとう始まってしまう……。


 血の気も失せ、恐怖に顔を青ざめさせながらも……大きく深呼吸をして、シャンバラ王はその宣告をゼロへと下す。


 その大仕事とは。


「ゼロ……お前にはこのリーファランドの地を離れてもらう」


 魔王すら恐れた最強の男に、事実上の追放処分を言い渡すことであった。



◾️

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