日々、在りながら

白部令士

いつもの日々

 師走に入ったばかりだが、九州も寒くなった。と、周りに田畑があるような安アパートの一室にて。

 月曜日、午前9時15分。

 一通り済ませて、株取引アプリを閉じる。

「朝から軟調だな。午前の終わり頃にもう一度見るか」

 手持ちの株も、半分以上の銘柄が下がるようだ。どうだろう、暴落でないならいいか。

 底辺とはいえ、既にFIREした身である。

 配当目的のFIRE株は別な証券会社の株取引アプリで持っているわけだが、今閉じたアプリでもその銘柄をお気に入り登録してはいる。ま、FIRE株はそんなに気にしていない。注意して見ておくのは売却益目的で持っている株だ。資産を増やすつもりではいるわけで、趣味株応援株のようにはいかない。

「さ、朝ご飯だ」

 実家にいた時と習慣は変わらず、朝食は今ぐらいの時間になる。

 お湯を沸かし、ココアを作る。中皿に煎餅を三枚放る。これで完成だ。頂きます、と呟いて静かに摂る。


菊地きくちさん、おはようございます」

「ああ、おはよう。おはようございます」

 薄い太陽光でも浴びようと外に出ると、隣室の中嶋なかじま竜也たつやと遭ってしまった。自分よりずっと年下だが、私と同じで働いている気配の無い男だ。

「散歩ですか?」

 と中嶋。買い物袋を下げているのでコンビニにでも行ったのか。この辺りだと田畑が目に付くが、大通りまで歩けば一応コンビニがある。

「いや、ちょっと出てみただけだよ」

 ジャンパーも着ていない、トレーナーの上下である。この格好でアパートの敷地を出ようとは思わない。

「中嶋さんは?」

「買い出しです。弁当をつまみにビールっす」

 と、買い物袋を持ち上げた。

 寒くてもビール派か。いや、人のことは言えないが、なかなかの生活をしているな。

「それじゃ、僕はこれで」

 中嶋はいそいそと部屋に入って行った。

 暫く自室の前でストレッチする。駐輪場まで歩き、自分の原付のミラーをハンドタオルで拭って戻った。

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