第2話 コイツ・・・。
幻想が崩れ去った数秒後。
俺は今自分が立っている場所に気づき、慌てて物陰に隠れようと、脳をフル回転させるが、行動に起こすのが少し遅かったらしい。
「えっ?!」
「あ...。」
気づいた時には、学園の聖女様の眼差しが俺を捉えていた。
マズイ。
こういう時俺の人生の経験上、碌なことにならない。
逃げるか?
まだ、顔も良くは見られていないはずだ。
「はぁ...何?見てたの?アンタ。」
「...ふぁい?」
度々見かける彼女の雰囲気とは違う雰囲気を纏う聖女様に、一瞬どころか、2拍程思考がフリーズする。
返事すらまともに出来ず、自分でもキモすぎる声が出た、と認識出来るほどの俯瞰状態に陥ってしまう。
こういう時、時間がスローペースで動いている様に錯覚するのは何故だろうか?
「あれ、アンタ。金持?君だったけ?」
「...あ、ども。」
え?何で俺の名前知ってんの?
怖い怖い怖い。
現状を見る前の俺ならば、聖女様に名前を覚えられていたという事に、失神してしまう程嬉しかっただろうが、目の前で彼女の本性を見てしまった以上、嬉しい、という感情が恐怖へとシフトチェンジしてしまう。
「見てたの?」
「へ...?」
「だ、か、ら!最初から見てたの?!って聞いてんの!!」
「あ、いや、途中から!」
「はぁ...そう。」
足を地団駄を踏む様に小刻みに動かし、頭を掻きながら俺に怒号を降り注ぐ。
その表情と態度に、聖女様なんて言葉は見合わず、まるで我儘なお姫様、の様な謎の貫禄さえ覚えてしまう様な態度に、女子とまともに話した事がない上に、コミュ障な俺は当然の様に萎縮してしまう。
「もう、この際、言い訳はしないわ。はぁ...ここで吐口をしていた私も悪いからね。とりあえず、門が閉まるから、降りましょ。」
「え?あ、はい。」
彼女の言う通りに、俺達は階段を一拍遅らせた並びで降りて、そのまま校門を出る。
この間、会話は一度もしていない。
俺がキョドっていた事もあるが、彼女が「一言も喋んなよ、カス。」みたいな雰囲気を出すので、仕方なく黙っておいた。
うん。仕方なく、だ。
「ねぇ。」
「な、何か?!」
彼女が話しかけてきたのは、校門から出て2.3分程した時だった。
「何よ、その反応...キモいからやめてくんない?」
「あっ、はい。」
言葉が俺の体中に響き渡り、今まで深く人と関わってこなかった弊害か、俺の豆腐メンタルを粉々に打ち砕く。
やっぱり、この人怖い。
「えーと、今日の事なんだけど...。」
「いや、マジで言わないっすから、安心してください。」
「は?その言葉を信用できると思う?ほぼ初対面なのに?私達。」
「そ、そうっすよねー。」
確かに、その部分だけは俺も同感だ。
同感なんだが、信用してもらわなければ話が進まない、いや逃げれない。
「だからさ、アンタ。んー、そうね!今日から私の奴隷よ?」
「ですよねぇー。」
彼女の口から出たのは、俺が想像したものと余り遜色のないものだった。
「何よ、その反応...。」
「いや、予想通りだな...ってね?」
「何よ、面白くないわね?」
「....いや、面白さ求めてないからね?」
「....そう。じゃあ、このバッグ持って?」
聖女様が両手でバッグを持って、ポイっと俺に投げてくる。
それを俺は少し慌てながらキャッチするが、聖女様は少し歯に噛んだような笑いを見せながら言った。
「....ちょっと、男の癖に...ダサいわね?」
「....はいはい。」
コイツ...マジでぶん殴っていいかな?
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