第24話 江ドワーフとレディースエルフ

――山道


 

 標高二千メートルから四千メートル級という、山々が連なる山脈の中腹。

 初夏だというのに、山道には涼しい風が吹いていた。

 土肌が露出した山道とは対照的に、視界の先には緑に染まった森と山々が広がっている。


 その山道の途中には大きめの橋があり、ルミナとカイリを結んでいた。

 だが、それが崩れ落ちてしまったために、カイリとの交流が絶たれていたのだ。

 今回、その修復をドワーフの職人に依頼を出したのだが……。



 棟梁と思われるドワーフと、連絡役として派遣しておいたエルフがこちらへ近づいてくる。


 ドワーフは小柄なものが多く、鍛冶や建築などに長けた種族。

 エルフは魔導に優れ、弓や剣の扱いにも長けている。そして、本来は『上品の代名詞』と称される種族。



 顔を髭に覆いつくされた小柄ながらも筋骨隆々なドワーフと、紺色の水兵服(セーラー服)のような衣服を纏い、鉄板入りの平べったい鞄を脇に抱えたエルフ。



 そんな二人が話しかけてきた。


「アルト様! この通り、橋ぁ見事に生き返りやしたぜ !」

「ま、アタイらにかかれば、この程度お茶の子さいさいの屁の河童だぜ! さぁ、見てやってくれ」


「あ、ああ……」

 二人の独特な勢いに押されて橋を見る。

 山道の裂け目の上に、木造ながら幅広で頑丈そうな橋が架けられていた。


「見事なものだ」


「当たり前よ。ワシらにかかりゃあ、こんなもん積み木遊びみてぇなもんでさ!」

「へへ、ドワーフの技術には本気マブでビビっちまうぜ」

「なぁに言ってやがんだ! エルフの浮遊魔法のおかげで仕事がグッと進んだんでい。驚かされたのは、むしろこっちの方よ」


「「だははははははは!!」」



 広がる笑い声――私の後ろからはアマネの困惑の声。

「私の知ってるドワーフとエルフとは違う。ドワーフは荒くれだけど、あんなべらんめぇ口調じゃないし。エルフは清楚で上品なのに。格好もどこかの学生服っぽいし。なにより、対立種族のはずなのに、めちゃくちゃ気が合ってるし。これがルミナ?」



「待て、それは語弊があるぞ。たしかに種族間の軋轢はないが、あんな変わったドワーフとエルフはルミナでも普通ではない」


 私は二人に顔を向けて、ひとまず労いの言葉をかけることにした。

「ご苦労。君たちのおかげで、無事にカイリ国を訪ねることができる」


「かぁ~っ、まさかアルト様から直々に礼なんざ賜るとはよ! ドワーフ冥利に尽きるってもんだ!」

「へへへ、その冥利はまだあるんだろ。大将!」

「お、そうだった。アルト様」


「なんだ?」


「時間にちっと余裕ができたんでよ、トラップを仕掛けといてやした」

「……なんだと?」


 ドワーフが橋の上、山側にある大岩を指す。

「あの岩ん中にゃ、魔導型の自動爆弾連弩が山ほど仕込んでありやしてね。敵が近づきゃあ矢がドバーッと飛び出して、当たった奴ぁまとめて吹っ飛ぶって寸法でさ」


 続いて、エルフが橋の床板を指す。

「橋にも魔導のトラップがついているんだぜ、おっと、ついてます。矢をしのいで通り抜けようとすると、足元から炎が噴き出て丸焦げって算段だぜ、おっと、です!」


「これでよ、カイリの連中がルミナに手ぇ出そうとしやがっても、弓矢で串刺し、ドカンと爆散、ついでに丸焼けって寸法でさ」

「串刺しというか、串焼きだけどな」


「「だはははははは!!」」



 私は頭を抱えた……帝国と戦うと決断した日以降、頭を抱え続けているような気がする。主に身内のことで。


「君たちな……私は橋の修復を頼んだだけで、トラップを仕掛けろとは言っていないだろ」

「え、ですが、防衛を考えりゃあ、必要でしょうよ?」

「大将の言うとおりだぜ!」


「こちらは同盟を結びに行く立場だ。相手方に無用な警戒を抱かせたくない。これに加え、今後、この山道を交易のルートとして使いたいと思っている。だというのに、そんな物騒なものがあると、一般の者たちが恐れを抱くだろう」


「へい、そりゃあごもっともで。ですが、一般人を誤射するようなヘボい腕前じゃございませんぜ」

「ああ、一般人を爆殺するなんて下手は打たねぇぜ」


「『一般人を爆殺』とは凄まじいワードだな。そもそも防衛を考えるなら、小規模の関所を設ける方が良いだろうに」


「かぁ~っ、そいつぁ盲点だったぜ!」

「よし、すぐにでも関所を――いや、砦を!!」


「待て待て待て! カイリ国との交渉の前に余計な警戒を生むな。それに、ルミナにはそこまで資金的余裕はない。そもそも、このトラップの資金はどうしたんだ? この立派な橋……これだけでも予算をオーバーしていそうなんだが?」



 この疑問に、二人は声をそろえてこう言った。


「「私財を投げ打って!!」」



 私は頭を抱えすぎて、こめかみに指痕が残りそうな錯覚に陥る。

「はぁ、なにもそこまで。気持ちはありがたいが、今後そういったことは控えろ」


「そ、そいつぁ……そんな、ルミナへの想ぇあってこそ、ワシたちゃここまで…… 」

「ルミナのためなら、アルト様のためなら、命も財産も捧げるってのに」


「その気持ちだけ受け取っておく。今回かかった費用は国庫から出すので、あとでまとめて請求してくれ。トラップの撤去費用もな」


 するとここで、アマネの怒気の宿る声が飛んできた。

「あんた、なに勝手なこと言ってんの? ルミナの財政事情理解してんの? カツカツな中で、一生懸命私が回してんのよ。お金は有限だってこと、わかってる!?」


「いや、そうは言っても、一応国の事業なんでな。資金を出さないというわけには……」

「もう、めんどいなぁ。二人が自分の意思で出したんだから、『寄付』って形を取ればいいじゃないの!」



 これにドワーフとエルフが即座に乗っかってきた。

「なるほどよ、そいつぁ一本取られたぜ! 嬢ちゃん、なかなか頭まわるじゃねぇか!」

「というわけで、アルト様。こいつは寄付なんで、気にしないでくれよ」


「ああ~、もう。そう簡単な話では……」

「…………………」

 不意に、小さな声が耳をかすめた。


 発生源に瞳を向ける。

 イロハがメールの口元に耳を寄せ、ふむふむと頷いている。そして……。


「決着がつきにくそうであれば、この議題はあとに回して、今はカイリを目指してはどうですか? とメールさんが仰っています」

「うん、そうだな。そうするとしよう。助言感謝する、メール」

「…………ん」


 彼女は頬をほんのり赤く染めると、フードを両手で引っ張り、顔を完全に隠した。

 このメールの謙虚さを、他の者たちにも分けてほしいものだ。



 彼女の助言を借りて、先に進むを選択。

 その際、ドワーフとエルフが先の道中について忠告をくれた。


「アルト様、橋を渡りゃあカイリ国へと下る道でして、その途中の真ん中あたりにゃあ『孤児院』がありやす」

「カイリ国領内なんで、人間の子どもたちとなります。一応留意をしておいた方がいいっすよ、です」



「そうか、わかった。魔族の私が現れたら驚かせてしまうだろうからな。注意しよう……しかしだ、なぜこんな標高も高く、ひとけのない場所に孤児院があるんだ?」


 この問いに、ドワーフとエルフは険しさと困惑が混ざり合う、複雑な表情を見せた。

「身寄りのねぇ子どもたちでしてねぇ、そのワケってのがまたよ…… 」

「ああ、子どもまで罰さなくてもいいのによ……」


「何を言っている、二人とも?」

 二人はそろってこう答えた。


「その子どもたちは、処刑された政治犯の親を持つ、子らの集まりなんです」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る