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寝れない事が、一番の悩みであり、其れが元で起きる全身の不調を何よりも嫌悪している。
そのはずなのだが、鏡花は、今、リビングの床に自分の部屋から持ち寄った羽毛布団を片手に爆睡をしている。寝息一つも聞こえない事から、たぬき寝入りかも知れない。
今寝ていると仮定して、寝る前までに至った挙動。『それ、流石に多すぎだろ?』と俺の指摘を振り切り、凡そ三人前のスパゲティを茹で揚げた。案の定、普段彼奴が食べている量よりも多くなったが、気にせず、もそもそと啜り込んでいた。
その結果、血糖値スパイクを起こしてからか、完食後から一時間後、こうなった。俺の感想としては『そこまで自分を痛め付けないと寝れねぇのかよ』である。
しかしこうして羽毛布団に顔を押し付けて、微動だにしないところを見ると漸く彼奴の元にも平和が訪れたのだと知る。仮初ではあるが。
まぁ今だけは眠れば良いさ。何もかも忘れて、全ての害悪から閉ざされて。
昔は何処でも寝れたのに、加齢が影響してか眠れなくなった。周期的なもので夜は寝付けず、昼寝も難しく、睡眠負債が身体に負荷を与える。
その原因の一つはホルモンバランス。女性ホルモンの急激な変化なので、自分ではどうにならない。可能な限り対策を練っても無理だったので、大人しく医者に掛かって薬を貰った。
もう一つの原因は、光と音だろう。昼の光は眩しく、テレビから聞こえる人の話し声は、何処の部屋に行っても鼓膜を打つ。同居人である瑠衣に対して『寝れないからテレビの音小さくして!!』というのは横暴の極みなので、黙っている。
しかし今日はホルモンバランスが安定している事と、テレビが着いて居なかった事から、横になっていると睡魔が襲ってきた。
気になっていた情報、書きたい話、ゲームのデイリー、それらが頭を交差して、其れでもなんのやる気も起きず、そのまま羽毛布団に顔を埋める。其れからうつらうつらと意識を漂わせた。
突如電源でも入った様に、鏡花の体が持ち上がった。ぐしゃぐしゃの髪、大きく開かれた訝しげな目が俺を捉える。
「よく寝れたか?」
その問いに、彼奴は何も答えなかった。
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