第1話 転生100回目、もうテンプレは飽きました

目が覚めた瞬間、私は悟った。


「……あ、これまた転生したな」


天井が高い。カーテンはレース。ベッドはふかふか。

そして、鏡に映るのは金髪縦ロールの少女。

はい、出ました。悪役令嬢テンプレート。


「……100回目だよ!? もういい加減にしてよ!!」


私はベッドの上で叫んだ。

メイドが慌てて駆け込んできて、「お嬢様、どうなさいました!?」と心配そうに駆け寄ってくる。


「うるさい!今、人生の絶望を噛みしめてるところなの!」


「えっ……?」


メイドはぽかんと口を開けたまま固まっている。

そりゃそうだ。目覚めたばかりのご令嬢が、いきなり“人生の絶望”とか言い出したら、誰だって引く。


でも、こっちはそれどころじゃない。

だって、これで転生100回目だよ!?

しかも、毎回“悪役令嬢”ってどういうこと!?

もうそろそろ、別の役職にしてくれてもよくない!?

農民とか、鍛冶屋の娘とか、せめてモブでいいから!


「お嬢様、朝食のご用意ができております」


「いらない。食べたらまたイベントが始まるから」


「えっ?」


「パンを食べたら王子が現れて『君の食べ方は下品だね』って言ってくるんでしょ? で、聖女が現れて『まあ、アメリア様ったら』って言って、私がワインぶっかけて、断罪されるんでしょ? もう知ってるから!」


「……あの、アメリア様?」


「そう、私の名前はアメリア=フォン=クラッシュハート。悪役令嬢として転生すること、これで100回目。

そして今世こそ、私はこのテンプレ展開から脱出してみせる!」


「えっ、何の話ですか?」


「いいからパン持ってこないで!パンはフラグだから!」


---


朝食を断固拒否した私は、屋敷の中をうろうろしていた。

この屋敷も、もう見飽きた。

大理石の床、金の装飾、無駄に広い階段、そしてどこからともなく聞こえるバイオリンのBGM。

この世界、絶対に誰かが演出してる。


「……あー、またあの人来るな。絶対来るな。来るなよ……」


「アメリアお嬢様!おはようございます!」


「来たーーー!!」


廊下の向こうから、爽やかすぎて逆に不安になる笑顔の王子様が歩いてくる。

レオンハルト=ヴァン=グランツ。

この世界の第一王子にして、私の婚約者。

そして、毎回私を断罪する張本人。


「おはようございます、レオンハルト様。今日も麗しいですね。で、何の用ですか?婚約破棄ですか?」


「えっ!? ち、違うよ!? 今日はただ朝の挨拶を……」


「ふーん。じゃあ、そろそろ聖女が現れて、私が彼女に水をぶっかける流れ?」


「な、なんの話をしてるんだい!?」


「いいから、今日は断罪イベント中止でお願いね。私、今世は平和に生きたいの」


「……アメリア、君、何か変だよ?」


「変なのはこの世界の方でしょ!!」


---


その日の夜、私は日記を書いた。


---


**アメリアの転生日記(100回目)**


・目覚めたらまた悪役令嬢だった。

・パンは危険。フラグの温床。

・王子、まだ婚約破棄してこない。成長した?

・でもたぶん、明日あたり来る。

・聖女ちゃん、そろそろ登場のはず。

・今回は断罪される前に、全部スキップしてやる。


---


「ふふふ……見てなさい、テンプレ世界。今度こそ、私が勝つ!」


私はペンを置き、満足げに笑った。

だがその瞬間、部屋の隅から声がした。


「ピコン♪ チュートリアルを開始しますか?」


「……出たな、チュートリアルさん」


「はい!この世界のルールをご説明いたします!まずは“婚約破棄”について——」


「スキップで」


「えっ!? いきなり!?」


「スキップで。あと、断罪イベントもスキップで」


「そ、それは……仕様外ですぅぅぅ!!」


チュートリアルさんがバグったように空中でぐるぐる回り始めた。

よし、いい感じに混乱してる。

この調子で、テンプレ展開を全部ぶっ壊してやる!


---


次回!

**第2話「断罪イベント、開幕5秒で退場希望」**

アメリア、断罪イベントに自ら突撃!?

王子のセリフを先読みして、まさかの“先出し婚約破棄”!?

次回もテンプレ破壊、全力でいきます!

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