第一章『英雄の後腐れ』 13フィルム目『血に塗れても白くなる』
アリスは大きく叫ぶ。その声は優しく…荒々しさとは対をなす程に丁寧で一つ一つ音を出す様に声を張り上げた。
声を出す度に老人の筋肉は強く引き締まり健康的な血液がサラサラと糸を伝って流れボダボダと水っぽい音を鳴らして落ちる。
アリス「時間がないとは言ってもね…早くしろなんて言わないよ、これは君の人生に関わる事なのだからね!ゆっくりと熟考するといいさ。それまでは私が耐えていようじゃあないかッ!」
内心、余裕とは程遠くかなり焦っていたが…そこは英雄の意地でもあるのか?誰も見ていないながら常に笑顔を保っていた。
アリス「スッ…スッ…フゥーーーッ!」
細かく息を吸い大きく吐いた。笑顔の上や首、腕からは太く長い血管が浮かび上がり、建物を一人で引っ張り上げているその老人の足元からはガリガリ踏ん張ろうと強く力んで引きずった音を立てる。
落ちかけた瓦礫の下ではまた強く噛まれた唇から血が流れ、息を荒々しくこぼしその涙袋の上にはたっぷりの水分がウラウラ浮かんでいた。
ーーアタシはもう助からない……だったらもう片方のアイツが始末をされるまでコイツをここに留める。それでいいッ…!それが1番考えられた良い判断。だから良い、これで、それで…良い…?
アリス「もしも…君がアーサーの敗北を望んでいるんならそれは諦めた方が良い、あの子は私に負けた…だから良い。とことん負けた人間には思いっきり強くなる事があるからね!」
肉体の限界に脚は膝を中心にガクガク震え、顎は奥歯が痛くなるほどガチガチと音を鳴らす。傷口から流れる透明な汗と混じって血液が進むとどんどん色は薄くなり、薄くなった朱色の液体は最終的に大きな水たまりとなって瓦礫の下に流れてく
タラタラ流れてくる水たまりを見れたのはそれを作った本人ではなく、瓦礫の下に埋まりかけていた1人の女性のみ。それを見て何を思うか顔が引き攣り悲しそうに歪んでいる。我慢していた目の水たまりは抜けていき別の赤い水たまりの色を更に薄めている。
アリス「なあ、さっき…君さあ!!住民の方々にもう手遅れだって言ったよねッ?『犯罪をしておいて今更引き返せない』ってそう言っていたと思うんだ…けどそれってさあ!君自身のことも言っていた様に聞こえたんだ…君自身を鞭撻する言葉にね…もしそうだったら安心して欲しい!私は君も救う!悪を名乗る者であろうと平等に救おうではないか…」
赤い水たまりは暗闇に関わらず可憐な少女の引き攣った表情をツラツラと反射させ深緑色の瞳に写させる
リーフ「アタシは…子供を殺した。老人も、罪のない人間も1番醜いと思う姿で苦しませて殺した。」
アリス「そうか!構わない…。問題ないとは言わないよ、罪はある。罰も受けてもらう。その上で反省して君を救ってみせよう」
リーフ「ーーでもアタシ」
アリス「それでも納得が行かないんなら勝手に死んで償ったらどうだい?私含め誰もそれで許しを認めやしない」
リーフ「アタシは…アタシ…もうーー」
正直なところ、アリスはもう限界すら超えてサッサと急かしたくてしょうがなかった。いや…その言葉の本質は速やかな決断の催促に他ならなかった。
この戦いの終結は彼の腕が千切れる事で告げられるだろう…終末を告げる手首からはグヂャグチャと肉を引き押した音が流れ終わりが近いことを教える。
ーーギチチ…ギャラャラャラャッ!!
踏ん張る足元も力強く引きづられ瓦礫の重さに大柄な男が少しずつ寄せられる。
ーーこれは…もう10秒程度かな?
リーフ「アタシは…ここで迷えば死ぬ。だから覚悟をした。完璧に覚悟は出来た!再び決められた…結末はこれで良い?」
宣言と合わせアリスは限界が達してしまい瓦礫は地響きを作りながら崩れてしまう。…だが予想外なことにその事故には被害者がおらず、それどころか建物は一度高く浮き上がり別の場所へ落ちていた。
アリス「イヤ…ほんと、まじにギリギリなことをしてくれるじゃないか?あとちょっとで体を戻してくれなきゃあ…君も私も死んでいたかもしんなかったよ?」
リーフ「それならそれで良かったかもね。…けど今回はアンタに賭けると決めたのよ、アメリカ中に敵を作ってでもアンタが勝つ方に賭けたの。」
アリスが手を出し、それを細い腕で強く掴んで立ち上がる。先ほどまで血液がダラダラと流れていたその腕は体が戻ると同時に傷は治っていた。
リーフ「にしても…本当に化け物なのねアンタ?老人になっても建物を一人で持ち上げるイカれてるパワー…こりゃ勝てないわ」
アリス「身体はよく鍛えた…頭の方もトレーニングはしていたがね?とは言え今回は前にも増してヤバかったね」
リーフが苦笑するように口角を引き攣らせてポケットからタバコを取り出し片手でありながら流れる様に火をつける。
リーフ「ああそう…良い医者は知っているから、わざわざ手配する様な事はしなくて良いわ。それより…早く味方の方を心配したらどう?アンタはさっきのアーサーとか言う奴を信頼してるらしいけど…アイツが戦う奴はは麻薬製造の担当を任されてるだけあって私よりもかなり強いわよ」
考え込む様に顎を摩り指をパチンと鳴らす
アリス「…うーん?まああっちは良いよ。最悪負けてもあの子なら生きて帰れるだろうしね…それよりも消防車を呼んで起こう」
アリスは携帯を取り出し911の番号を入力して耳に掛かる。
リーフ「消防車…?アンタまさか!?」
アリス「あーそうそう、君ここで権力を持っているんなら近くの住民を避難させてもらえるかな?麻薬は燃やした時に出る煙を吸うだけでも危ないからね」
アリスは金属製のライターをカチカチ鳴らし誰もいない道をゆっくりと優雅に歩く。鼻唄を歌っている声も聞こえたがその表情には未だ怒りを隠しきれず暗い笑顔を作っていた。
アリス「あーそうそう…どうせならオイルも貰って行こうかな」
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