第一章『英雄の後腐れ』 10フィルム目『カウント・オン・ミーその①』

日が明け、サンフランシスコに入り終えたアリス達はオフィス街であるフィナンシャル・ディストリクトの特に大きなビル前で車を停めた。


アーサー「どの建物もでっけえなあ!…つーか、来たのはいいけどよ、今から何すんだ?」


 アーサーが初めて見る光景に黄色の瞳を更に輝かせキョロキョロと周りを見ている


アリス「ここで働いている友人に不動産業のお偉いさんがいてね、その人に暫く滞在する為の家を借りるんだ。そのついでにここの麻薬に関する事も聞かせてもらおうかと思っていてね。」


 アーサーはアリスに先導されながら清掃をきっきりとされて、床が輝いている建物の中を歩く。見慣れていないのか、自身が場違いではないか心配しているのか少しソワソワした様子だった。


アリス「おや、そんなに心配する事もないよ。今日は例の友人以外の人と会う事がない様手配してもらっているからね。私としても英雄だとバレない様身分を隠したいのだよ。」


アーサー「隠したいって…お前の体の大きさじゃむりだろ。てか、その友人にはお前のこと言ってもいいのかよ?」


アリス「ああ、昔からの信頼できる友人でね。タスクこそ持っていないが芯のある強い人なのだよ。」


 なんて事無い会話をしていても初めての環境に緊張してしまうのか1人肩に力が入ったまま、アーサーは恐る恐るアリスの後ろをついて行く。そうしている内に例の友人がいるのであろうドアの前にアリスが立ち止まった。


ーーコンコンコン


老人の声「入ってくれ。」


ガチャッ


 アリスは家の玄関を開けるかの様に丁寧さとは程遠い気軽さで重そうなドアを勢いよく開けた。

 目の前には体の小さく、金髪であっただろう髪が白くなっていた老人が椅子にドカっと座っていた。


アリス「ノト爺!久しぶり。」


 ドアを開けたばかりの時は眠っているのかも分からないほどに薄く開いていた目がアリスを視界に入れたであろうその瞬間に大きく開き立ち上がる


ノト爺「おおー!アリス久しぶりじゃのー!なんじゃ随分と痩せてしもうたな?」


アリス「そうだね長く寝ていたからかな、全盛期より100キロほど痩せてしまったよ。」


ノト爺「ホッホッホ!もはや死にかけじゃないか!ワシの方は2人目の息子が最近子を授かったと聞いてのお、まあ!ワシもまだまだ若いのには負けられんわい!」


 そういうと、老人は見た目には合わない激しい腰を振る動作を見せつけてくる。下品な動作にアーサーはアリスが不快に思うのでは?と考えていたがアリスは相変わらず笑顔で会話を続けていた。


アリス「高齢でも相変わらず若々しい精神を肉体に宿しているね、精神年齢なら私の方が年上かもしれないな。」


 そういうと2人は笑いながら椅子に座った。


アリス「こっちはアーサー、今は私の弟子兼相棒として一緒に行動をしているんだ」


アーサー「……ども。」


 アーサーは人見知りをした子供の様に小さく挨拶を呟く。老人はそれを聞いて満足そうに頷いた。


ノト爺「あのアリスがワシに頼りだけでなく、仲間を引きつれるとはの…本当にタスクを使えなくなってしまったんじゃな?」


アリス「ああ、今は前の様には動けない分、情報と隠れるための家が欲しい。」


ノト爺「うむ、分かっておる。家ならここから離れたところにあまり人の住んでいない住宅地がある。そこの家を好きなだけ貸そうとも。何より…麻薬の件じゃが、おそらく中心街のユニオンスクエアにあるホテル『ホープ・リーフ』が怪しいとワシは踏んでおる。」


アリス「ほう!ユニオンスクエア…中心街というだけあって人口が多い分、あそこで麻薬を作る事はないと思っていたが…どうしてそう思ったんだい?」


ノト爺「あそこは観光客が多いところじゃ、ワシのお客様や仕事で繋がりのあるものがサンフランシスコに来たついでによく行くんじゃがの…なぜかあそこに行ったものとは連絡が取れなくなるんじゃ。」


アリス「そうか…うん、ありがとう!この恩はここを平和にする事で返すよ!」


ノト爺「ホッホッホ、タスクが使えなくとも昔から頼もしい奴じゃ。アリス、この街を頼んだぞ。」


 アリスは小さく頷き、家の鍵を貰ってからすぐにアーサーを連れて車へと戻った。後ろには最後まで老人が手を振って見送ってくれていた。


アーサー「ーーそれで家とユニオンスクエア、どっちから行くんだ?」


アリス「今日はユニオンスクエアの下見をしておきたい。昔行った事があるとはいえ、私の見た記憶は15年以上も前のものだからね、どれほど変わっているのかをよく知っておきたい」


アーサー「じゃ、下見もサッサと終わらせて家に行こうぜ。飯も食いたいし、何より体がベタベタしてどーにも嫌になっちまうぜ。」


アリス「そこに関しては同感だね。さっきの戦いで体がかなり汚れてしまってね。早くシャワーに入りたいよ…」




 アリス達は再び車を走らせユニオンスクエアへと向かう。その道中に車内でも食べられるタコスやタルトを買い軽く昼食を済ませる。


アーサー「ーーオオッ!さっきはでかい建物があったけどよお、ここは店が多いんだな!何よりさっきいた所より若い奴らが多いな。」


アリス「そうだね少年!ここは人が多い!はぐれてはいけないからね、手をしっかりと握っていたまえ。」


 アリスが観光客のいる前で手を握ってこようとするのをアーサーは恥ずかしがって振り払う。


アーサー「きもっちわるい事してくんじゃねえよ!つーかガキ扱いしてんじゃねえ、俺はもう17だ!」


アリス「子供というのに充分すぎるのだよ17歳なんて」


 そういうとアリスはアーサーと無理やり腕を組んでくる。アーサーはタスクを使ってでも抜け出そうとしたが、万力の力と最終的に懐中時計のタスク『ラズベリーベレー』を使われてしまい諦めて腕を組んだ。


アーサー「お前さっき100キロ痩せたって言ったよな?なのになんなんだよこの力…!つーかその糸使うのもさっきの戦いであんだけ渋ってた癖になんで使ってんだよ」


アリス「元々力が強かったからね100キロ痩せた程度じゃなんともないさ。この糸は…うん、君に迷子になられるとホントに困るからね。まあ今度携帯を買ってあげるからそれまで我慢したまえ」


アーサー「携帯買ってくれんのか!?オイオイマジで?良いのかよそんな事して!」


 アーサーは興奮して組んでる腕を強く締める、その様子には若者らしく流行りのものに興味があった子供に見えた。


アリス「お金には余裕がある、何より…君にはこれから頑張って戦ってもらうからね♪私としてはお金を払うだけで戦ってもらえるなら安儲けなのさ」


 そんな会話をしながら人混みを歩いているとアリスが急に立ち止まり、アーサーに小声で呟いた。


アリス「ーー少年、先に例のホテルへ行くんだ」


 アーサーは急な発言に戸惑ったが敵がいるのかと周りを警戒した。そうしているとアリスがそっと自身の右腕見せてくる。いや…正直なことを言うとアーサーは始めソレを見た時、右腕だとは思えなかったのだが。


アーサー「ーーッッ!?なにぃ!?これは…右腕なのか!?あんまりに萎んでたんで分からなかったが…まさか!俺たちは既に攻撃をされているのかッ!」


アリス「ああ、とは言っても攻撃をされたのはまだ私だけだ。だから少年、先に言ってホテルまで行くんだ。」


アーサー「何言ってんだ!?俺たち2人で今、敵を倒した方が良いに決まってんだろうが!」


アリス「それは違う…残念だがね。私はさっきの戦いで敵を倒した時、誰にも連絡をさせる事なく倒したんだ。確かにね、なのに!たった今私たちは攻撃をされているまるで、ここに来ることが分かっていた様に!」


 アーサーが何かに気づいた顔でアリスと目を合わす


アーサー「まさかッ!?…追跡をしていたのはアイツだけじゃ無かったのか…?」


アリス「恐らくね、そして今も見られているのだろう。だからこそ君は先に行くんだ。攻撃されている今だからこそ、確証が出来た!麻薬は確かにここで作っている!そしてホテルがその鍵となっているとね…。私が攻撃を受け、タスクが1人減っている内に行くんだ。」


 そう言うとアリスは組んでいた腕を外し、アーサーの肩を強く掴んだ。


アーサー「おい…!?まさか、お前…何しようとしてる!!」


アリス「顎を引いて、気をつけて行くんだよ。」


 アリスがアーサーを掴んだ腕を大きく振り人混みの向こう側へと投げた。その後ろ姿を見守りながら攻撃がいつ来るかを警戒して人気のない所へ移動しようとする。


謎の女性「あら、あなた1人だけになったの?」


 前からロングの茶髪に時計の針の様に長短の跳ね方がセットになっている妙な髪型をしてサングラスを掛けた女性が話しかけてくる。


アリス「おや、美しいお嬢さんがどうかしたのかな?道を教えて欲しいのであればすまないが私もここについてはあまり詳しくなかってね」


謎の女性「あらあら、冗談を聞くつもりなんてないわ。ただ、今はアンタをブッ殺すだけよ…。」


 そういうと女性は人混みの中へと姿を消し、どこからともなく声を発する。


リーフ「私がなんでアンタの目の前に現れたと思う?2度と私の姿を見つけることも出来ずに殺されるからよ!私の名はリーフ、最後に聞く名前として覚えておくと良いわ。それじゃあ会ったばかりだけどさようなら。」


ーータスク…『カウント・オン・ミー』

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