第一章『英雄の後腐れ』 2フィルム目『初めての連敗』

ーー英雄?コイツがか…?この愛想を振る舞うために笑顔を作った偽善くせえ奴が『英雄』の称号を今、俺に対して名乗りやがったのか?


 アーサーは目の前の伝説を自称する男を英雄だと思う事は出来ず何かの物売りや詐欺師の類だと考えた。


アーサー「英雄?嘘ついてんじゃあねえ、俺にゃテメーはただのデカい一般人にしか見えねえよ。つーか英雄だとしたら俺に何の用があんだ?」


 唸り声のように低い声でアリスに問いかける、瞬きもせずに眼を合わせようとするその様子には自身の力を見せつけて上下関係を作ろうとする不良の思考があった。


 アリスは驚愕の表情を一瞬浮かべると再び胡散臭い笑顔を作り、踊る様にうるさく話した。


アリス「おいおい少年……質問ばかりで会話は成立しないのだよ、私が自己紹介を始めたのだから次は君の自己紹介を話して貰おうか。そうだねえ、お名前と出身に好きな食べ物まで教えて欲しいかなあ…あっ!先に言っておくと『お前が勝手に自己紹介したんだろ?』なーんてセリフは聞きたくないよ」


 会話の途中で心を見透かされたのかアーサーは顔を引き攣り怪訝な表情を一瞬だけ見せると、すぐに愛想のない無表情を作る。


アーサー「アーサー……」


 名前だけを口に出す、アリスが頼んだ出身なんかは言わなかったがたったそれだけで奴は満足した表情を浮かばせ、機嫌良く頭を上下に振った。


アリス「そうか、うん!アーサー!良い名を持っているじゃないか、できればフルネームから年齢なんかも教えて欲しかったけど…まぁいいや!それより、次は質問に答えよう」


 ただ名前を口にしただけとは思えないほど会話を続けてくるアリスにアーサーは喧嘩の必要を感じず目力を少し緩めた。


アリス「おっと私が何をしに来たのか…だったね?答えは単純なのだよ!私の相棒になってくれ!」




アーサー「ーーーーは?」


 予想外の回答に呆然と立ち尽くし口を開けたままアリスを見つめていた。だが、アーサーはすぐに冷静さを取り戻し疑いを持った。


アーサー「てめぇが、ホンモノの英雄かも分からねぇのによお、付いてくわけねぇだろうが…」


 一見すると常識的な事を言っているだろう、だがアーサーが断ろうとする1番の理由は別にあった


アーサー「何よりだ…俺がお前の相棒になるだと?それはお前、つまりだぜ?お前が!俺と!同じくらい強いって思ってんのか?オイ…」


アリス「それは考え過ぎだと思うが…強ち間違ってないよ」


 アーサーの体中に血管が浮かんだ、その様子を見て

アリスはスーツを脱ぎ、丁寧に畳んではそっと置いた。


アリス「おっと、私と戦おうとしてるならやめた方が良い…さっきの質問に強ち間違ってないと言ったのはね君の考えが少しばかし違ったからなのだよ。今の君と私とでは同等どころか天と地ほどの差がある。君が相手なら私はタスクどころか武器や計画すら不必要だと、それくらい差があるのだよ」


アーサー「……遺言は終わったか?もういい、分かった…テメーはここでブッ殺す!絶対にな!」


 アーサーは立ち上がりいつものように拳をゆっくりと握りながら、アリスを注意深く観ていた。


アリス「もうやる気満々だねえ…まぁ先に宣言しておこう、この戦い…勝つのは私だ!」


 アリスは白いスーツの裾を捲り手首を軽く振る、それに合わせてアーサーも構える。

 両者ゆっくりと近づき、アーサーの拳が当たるまであと少し離れた所で止まった




 先に攻撃を仕掛けたのはアーサー、大振りの右ストレートを放つがアリスは後方に下がり避けると同時に長い腕を伸ばして左のジャブを顔に当ててくる。少しの攻防が終わり、再び距離をとる。


アーサー(コイツもボクシングスタイルか?つーか…コイツマジに強えかもな。このやり方だと少しだけだが俺がヤバくなるぜ。)


アリス「少年!君も持っているんだろう?使いたまえよ、タスクを!」 


 アリスはアーサーはアリスの挑発にこれ以上キレることもなく、再び同じ構えをとろうとする。

 それと同時にアリスが左のフックを打ち込もうと踏み込み、アーサーに拳を当てることに成功した。


 2人の視界に血が入り込む…だが!その血液は攻撃が当たったアーサーのものでは無い、アリスから出た物だった


アリス(おや…これが少年の『タスク』か?、殴った私の手から血が出ている、擦り傷や衝撃で出来た傷なんかじゃあない、これは刃物で出来る切創だ、ダメージを返還する能力?嫌…)


アーサー「どうした…動きが止まってるぜ!」


 アーサーが前に出て攻める、さっきの怪我の正体が分からないアリスは攻撃をする事もできず後ろに下がり、ひたすらに避け続けていた。が…


ドジャッ!!


 今度はアリスの顔面に拳が当たる、間一髪で腕を挟んでいたが、その様子は決して無事とは言えず、ダメージを負ったように見えた。


アリス(おかしいなあ、25cm程の身長差があってリーチにもこんなに差があるというのに…彼はどうやって後方に下がって避けることに専念した私に攻撃を当てたのかな?)


 アリスは何か思いついたように再び構えをとる、さっきまでの重心が後ろにある構えでは無い、前に進もうと前傾姿勢になった。それは避けるためではなく攻めるための構えだ。


 攻撃を当て、調子が付いてきたアーサーは更に前へとでて拳を振る。アリスは数発避けると右ストレートのカウンターを打ち込む。

 拳が当たる寸前、アーサーは勝ち誇った様に笑みを浮かべていた


ーーグシャッ!!!


 再び攻撃が当たる音がする。鈍く、水分のある人体をハンマーで潰した様な痛々しい音だ。しかし、さっきと違うのは今回からダメージを負ったのはアーサーだという事だろう。


『グァッ!』アーサーが悲痛の表情を浮かべ、アリスを跪きながら見つめている。


アリス「おやおや?右のストレートと思わせて膝に向けての蹴り。こんな簡単なフェイントに引っかかるとはね、普段からタスクに頼ってばかりの喧嘩をしていたのだろう…おや!まだ抵抗しようなんて思わないでくれ給え、不要に傷つけるのは好きではないんだ。」


アーサー「ふざっけんなァ!!」


 アーサーが立ち上がる、先ほどまで痛々しく変形していた膝はすでに治っていた。


 しかし、アリスは再びフェイントを使いアーサーの腹にフックを決め、地面に顔を付けさせた。

息を荒げながらすぐに立とうとするが体が動かない…

何かに縛られているようだった。


アリス「それじゃあ、改めて宣言しよう。この戦い…勝ったのは私だ!」


 指で天を指しながら高々と宣言し、アリスが戦いの

説明を始めだした。

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