D.iary-15最後のランチと、いつだって変わらぬ愛

ノアの記憶では、中学の年にこの沔陽(メンヤン)城内に越してきて以来、その店はずっと帰宅ルートの要所に安穏と鎮座していた。まるで母子二人のために用意された、小さな避難港のように。


店は大きくもなく小さくもない、ごくありふれた家庭料理屋の規模だ。 窓際の小さなテーブルは、どれほどの午後と黄昏を見守ってきただろうか。窓外の行人は潮のように満ち引きし、卓上の湯気は絶えることなく昇り続けた。


テストの結果が良かった日、誕生日、祝日、あるいはただお互いを労いたい時――大小様々な理由が、母の手によって一卓の料理へと変わった。 そのテーブルの上には、ノアの成長の痕跡が至る所に残っている。


「鍋八塊(グオバークワイ)」の前に立った時、ノアは気付いた。いつの間にか看板の下に、控えめだが目を引く金属の文字が増えていることに――「ベストレストラン十選」。歳月さえもが、この店に優しい褒章をそっと貼り付けていったようだ。


彼は母の手を離し、傘の雨粒を払い、畳んでから、馴染みのある木製のドアを力強く、かつ静かに押し開けた。


数秒後、ノアは振り返り、ドアをゆっくりと閉めて外の強まる雨音を遮断した。 セシリアは微かに呆然として、彼女のためにドアを押さえていた少年を見つめ、小声で言った。「ありがとうございます」


ノアはただ首を振った。それは礼儀ではなく――あまりに自然な行為だったからだ。


「二名様ですか?」 「いや、三名です。ありがとう」ノアは反射的に答えた。


店員が一瞬きょとんとし、ノアの母も微かに驚いたが、どちらも深くは聞かなかった。店員は礼儀正しく頷き、彼らを窓際の席に案内してメニューを置くと、すぐに新しい客の対応へと去っていった。


席に着くと、母は身体を向け、相変わらずの柔らかな笑みを浮かべた。


「何食べる? 今日は好きなもの頼んでいいわよ」 「スープが飲みたいな」ノアは答えた。声は大きくないが、倦怠感を帯びていた。「他は母さんが適当に選んでよ」 「分かった、お母さんが選ぶわね」


彼女は自然に答えた。記憶の中の過ぎ去った日々と同じように。 ノアの母は俯いてメニューをめくり、指先で見慣れた料理名の上を滑らせる。


ノアの視線は、いつの間にか隣に座る少し居心地の悪そうな少女に落ちていた。


「不必要な影響を引き起こします」 セシリアが小声で注意する。 ノアはただ手を上げ、ごく自然に「座って」というジェスチャーをした。 彼女は一秒躊躇ったが、結局彼の隣に腰を下ろした。


ノアの母が顔を上げ、何気なく尋ねた。 「蒸し料理は食べる?」 「それは欠かせないな――」


ノアは再び母と視線を合わせ、語尾を伸ばしたが、その声は柔らかかった。 目の前の少年のその一言で、セシリアの居心地の悪さは消えた。彼女は静止し、静かに待つことにした――母と子の間で交わされる久々の会話が、空気中を再び流れ始めるのを。


注文の時間は短かったが、この店で真に長いのは料理が出るまでの待ち時間であることをノアは知っていた。だが、良い仕事には時間がかかる。一杯の熱いスープが良い加減になるまで煮込まれるには、総じて時間が必要なのだ。


ノアは思わず、向かいの馴染みのある顔を凝視した。


どれくらい……こうして母をじっくり見ていなかっただろう。 生え際に隠れた数本の白髪、目尻の浅い皺。 かつて記憶の中で永遠に見上げる存在だった母が、いつからか、彼が視線を下げ、心を砕いて寄り添うべき存在になっていた。


「母さん……」


無数の気遣い、挨拶、言いたくても言えなかった言葉がノアの脳内で団子状態になる。だが言葉が唇まで出掛かった時、積み重なって出たのはこの一声の哽咽だけだった。二文字目は、どうしても出てこない。


「あんた、最近疲れてるんでしょ」


ノアの母は彼を見つめていた――馴染み深くも知らない輪郭が重なり合う。彼女は子供が何を経験したか知らないが、一目見れば分かった。彼女の息子が、辛い思いをしてきたことを。


ノアはそれ以上口を開かなかった。涙はもう流しすぎた。必死に堪える。せめて、せめて母には強がりを残しておきたかった。


「母さんこそ……無理しないでくれよ」


ノアは喉の奥からその言葉を絞り出した。声は酷く震え、ほとんど自分のもののようではなかった。


「痩せたよ」


その一言が、脆い隙間をそっと剥がしたようだった。 一滴、二滴……清らかな涙が連なり、滑り落ちて止まらない。 彼はついに、最も無様で、最も脆い姿を、全て母に見せてしまった。


15:00。


湯気の立つ料理がついに小さなテーブルに運ばれてきた――スペアリブとレンコンのスープ、三種の蒸し物、豚の角煮。全て家庭の味だ。


セシリアは音もなく立ち上がり、わずかに身を屈め、声も立てず、ただ繰り返しノアの背中を優しく撫でた。今最も必要なのは、彼の感情を地面に着地させることだと知っていた。


ノアの泣き声は次第に収束し、軽い喘ぎに変わった。 母はようやくレンゲを手に取り、一掬い、また一掬いとスープを椀に注いだ――スペアリブを多めに、レンコンを多めに。椀の中に彼女の全ての心痛を盛るかのように。


ノアは差し出されたスープ椀を見つめ、受け取り、一口飲んだ。温もりが身体を満たし、体幹から四肢へと広がっていく。 彼は椀を捧げ持ち、指先を微かに震わせた。 そして顔を上げ、震える唇からその言葉が溢れ出した。


「母さん……もしある日、俺一人を残して母さんがいなくなったら、俺……どうすればいい?」


母は何かを悟ったようだった。よほど辛い目に遭ったのだろう。彼女は軽く溜息をつき、口元に無力だが優しい笑みを浮かべ、ゆっくりと言葉を紡いだ。


「ノア。お母さんはあんたを置いていきたくないし、置いていったりしないわよ」


彼女は言葉を切り、歳月を沈殿させた温度を含む低い声で続けた。


「お母さんはあんたが家庭を持つのを見たいし、成長に付き添いたい。あんたの一分一秒を、見逃したくないの。でも、もし本当にその日が来て、あんたがもうお母さんを見つけられなくなったら……」


彼女は少し間を置いた。その眼差しは揺るぎなく、温かい。


「悲しまないで。怖がらないで。覚えておいて。お母さんは永遠にあんたを愛してる――いつだって、どこにいたって」


窓外の雨音はもはや隠しようもなく、土砂降りとなっていた。信号機の光も厚い湿霧の中に滲み、都市の秩序はとっくに消散してしまったかのようだ。店の入り口の二つの赤提灯が強風に揺れ、微かな衝突音を立てている。


泣いた回数など、とうに数え切れない。だが窓外の喧騒と混乱は、もうこの小さなテーブルの母子には届かない。目の前の白霧が料理を滲ませ、それが湯気なのか涙なのかも判別できない。少年はただ、微かに震える手で何度もレンゲを握り締め、掌の温もりを感じるしかなかった。


スープの味は――とても塩辛かった。


水溜まりが反射するライトの光が、雨幕の中で絶えず砕けては再構築され、不規則な光と影を明滅させている。 セシリアがそっとノアに触れた。少年は彼女の視線を追って外を見た。窓の外、そう遠くない場所を、見慣れた人影が慌ただしく走っている。


ぼやけた水蒸気越しに、彼は自分自身をはっきりと見た。心臓がドクリと一拍抜ける。それは魂の共鳴だ。彼は知っていた。これが最後のカウントダウンだと。 だが、心の底の未練と、言えなかった言葉が、彼を躊躇わせる。


「行きたくない……」


思考が喉元で渦巻く。理性に背きそうになる。だが母の安全のため、彼は現実へと退くことを選んだ。


「母さん、ちょっと空気吸ってくる」


母の視線が彼に留まる。引き止めたい、引き戻したい。だが最終的に、彼女は軽く頷き、手放すことを選んだ。


「分かった。待ってるわね」

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