シャッターごしのライラック

花咲 千代

写真オタ男子と地雷女子

「オタクキショっ」

 

 そう言われると思っていた。

 今までそうだったし、きっとこれからもそうで。

 通信制の高校にしても、年に数回の登校日スクーリングがある以上逃げられないこと。

 それが僕、柚木晴ゆずき はるの運命というか、宿命というか、そのようなものだ。

 ただの、そこら辺にごまんといる写真オタク。

 それは、いわゆる「推し活」のオタクとは扱われ方が違うらしい。

 お前らだって「推しが尊い」だの「メロい」言っているだろうとは思うけれど、鳥やら山やら、その写真に対するその気持ちは「キショい」ようで。

 適当に誤魔化すことが、賢い生き方だと知った。

 でなきゃ、目に見えぬスクールカーストなるもので、抹消される。

 ――高一になった今日とて、そのはずだった。


「ねぇ、席、ここ?」

 斜め上から降りかかったキツめ声に、思わず視線を上げる。

 目に飛び込んできたのは、あまり積極的に関わりたくない部類の――具体的に言えば、「地雷系女子」

 緩く巻かれたツインテールに、ゾッとするほど白い肌。

 赤みの差した大きな涙袋に透明感のあるリップ。

 ブカブカのパーカーと、それに釣り合わないピンクの短いフレアスカートと厚底ブーツ。

 十字架を模したとんでもない数のピアス。

(めっちゃメイクしてるけど、よく見たら美人だな。写真のモデルになってくれないかな……清楚系着ても似合いそう)

 頭の中にするするとファッション用語が出てくるのは姉の影響なのだと、どうでもいいところで再認識する。

「……えっと、僕の隣は桜草おぐさリラさんですけ――」

「あっそ」

 ど、と言い切る前に、地雷系女子は足を組んで僕の隣の席に座った。

 ということは、隣に座る彼女が「桜草リラ」ということになるわけで。

 勝手極まりなく清楚系を想像していたけれど、全くそうではなかったらしい。

(……まぁ、見た目と性格は関係ないし、地雷系もただのファッションだし)

 多分、大丈夫。

 多分。

(所詮は今日から三日間……その次に会うのは半年後……)

 多分、大丈夫だ。

「えっと……よろしくお願いします」

 とりあえず挨拶だけはしておこうと口を開く。

「はぁ?話しかけてくんな、キショい。黙れ」

 ズバッと切り裂かれた僕の挨拶は、塵となって消えていく。

 リラは、どこか泣きそうな目で、唇を噛んでいた。

「こっち見んなし」


 ――僕は人生で初めて、オタクな部分以外を「キショい」と評されました。

 そしてこれが、いつか所謂運命というものになったわけです。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る