召喚前の記憶がないけれど、私には夫がいるので幸せです
風花
勇者召喚の見学
「え? またまたぁ。冗談言って」
どういう意図かわからないけど、私の夫のハヤトさんが自分は125歳だと言い出した。どう見ても20代なのに!
「魔法使いは長命なんだ。魔力の量に関係していると言われてる。
つまり、ナノハも長く生きる可能性があるんだ」
「へ? 私も――?」
「寄り添って生きるにはちょうどいいと思うけど、どうかな?」
それから、驚きで固まる私に、王族は魔力が強いこと、ハヤトさんにも王族の血が流れてるかもしれないことを聞いた。
まさに異世界! て感じだ。ドレスも着ていないし、パラレルワールドらしいけど。
召喚には、ハヤトさんの他に、国王と部下の方も加わることを聞いた。条件をかなり足したために、召喚陣に使う魔力量が大きいらしい。
「呼ばれた人は帰れるの?」
「帰すことは可能なんだけど、召喚される直前の同じ場所になるから、今回は帰ったとたんに死ぬんじゃないかなぁ」
たしかに私も元の場所に帰ったらやばいな、と思った。
そして、召喚日当日。初めてハヤトさんの職場でもある王城に行った。ホワイトハウスみたいな外観だな。内装は役所っぽい。その中でもイベントホールみたいな部屋に着いた。奥に一段上がってきれいな椅子が置かれている。
想像と違う謁見の間の中の、開けたところに魔法陣が書かれていた。ぞろぞろと人が集まっているが、ハヤトさんが近づくと道が開けられた。
手を繋がれてドキドキして頬が熱くなる。
「そのお嬢さんが、ナノハさんかい?」
金髪のイケオジに声をかけられて、慌てて挨拶をする。カーテシーなんて知らないよと思ったけれど、そういう世界ではなかったので深くお辞儀をした。
「
「わたしは、
(言い方かるっ!)と思ったけれどハヤトさんとも仲良さそうだし、そういうお国柄なのだろう。
「おれっ、アキラ!
ハヤトさんと歳は同じくらいに見える赤髪の人がやってきた。ちょっと人懐っこそうな
国王の隣の金髪の人が、アキラさんをこついてから団長だと言った。少し国王様と似ている。
そうして、一通り挨拶等が終わると召喚が始まった。意外なことに集中はしてるようだけれど無言で、3人が難しい表情になってきたところで陣の真ん中に人が現れた。
その人は、倒れ込みそうな姿で、スキーウェアを着ていて雪まみれだった。
「ここは……?」
「君達が言うところの異世界だ」
ハヤトさんが言うと、
「助かった……のか?」
と、顔をペタペタ触ったあと、頬を抓っていた。そんなベタなことする人いるんだと、軽く笑っていたらゴーグルの向こうと目があった気がした。
「杉浦!! おまえ、杉浦じゃね?」
慌ててゴーグルを外した、その人の顔を見たが何かを思い出すことはなかった。
ハヤトさんが厳しい顔で私の前に立った。
「ナノハは、そちらの世界での記憶がないんだ、落ち着いてほしい」
「どうして落ち着いてられるんだよ!
何人拉致ったんだ?」
あまりの動揺ぶりに、不安になって聞いてみた。
「もしかして、私の恋人だっ……」
「違うけど!?」
その時、パンっと手を打つ音と、応接室に移動して落ち着いて話そうという国王様の声が聞こえた。
私達は王城の応接室に移動し、国王様と団長、ハヤトさんに私が話が出来ることになった。
五十嵐
「オレ、すごく運動神経いいと思ってるんすけど、スキーは初めてで。すぐ滑れるようになったと思って飛ばしたら、はぐれて落ちたんすよね。もう駄目かと思いました。」
とのことだった。なんと剣道の腕が全国3位とか。名前の響きといい、朗らかで正直そうな雰囲気といい、勇者って雰囲気だ。条件を盛りに盛った結果だなぁ。
もちろん、私の話も聞いた。名前を知っていたのは同じ大学でクラスが同じだったのと、私がいなくなったあと1度ニュースになったから。
遺書らしきものがあったこと、内定先の会社が倒産したことが主な理由で、自殺と断定されたらしい。
消えたかった気持ちしか残ってない私は、家族のことも思い出せなくて、申し訳なく思った。ハヤトさんが抱き寄せてくれて心が落ち着いた。
一通り話が済んだあと、国王が驚くことを言い出した。
「勇者ヒロを筆頭に聖女ナノハ、剣士タカヒト、魔法使いハヤト、富士山に巣食う竜の討伐をお願いしたい」
待って! 情報量が多い!!!
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