『『『『洗浄のデリバリーヘルス』』』』
志乃原七海
第1話「なんだ? 溜まってんのか?」
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### エピソード:戦場のデリバリーヘルス
深夜、安アパートの一室。モニターの怪しい光だけが、俺の顔を青白く照らしていた。
「なんだ? 溜まってんのか?」
背後から呆れたように声をかけてきたのは、友人の佐伯だ。手にはコンビニの袋。俺のために夜食でも買ってきたらしいが、その目は軽蔑に満ちている。
「やめておけよ、怪しいサイトなんかよ! いくらでも、女の子いるだろが!」
「いねーから探してるんだろが! カバチタレ!!」
俺はモニターから目を離さずに言い返した。佐伯は肩をすくめて、買ってきた缶ビールをプシュリと開ける。
「ふっ! なんだ? それ。知らねーからな、どうなっても」
「なんだよ? その含みを持たせた言い方?」
「いや別に? やりてーから、呼ぶンだろが? あ?」
佐伯はそう言うと、わざとらしくテレビのチャンネルを変えた。その挑発的な態度にカチンと来て、俺はもう後には引けなかった。マウスのカーソルを「注文確定」のボタンに合わせる。
「ポチッとな!」
クリック音が、やけに部屋に響いた。
しばし沈黙😶。
俺と佐伯は、無言でビールを飲む。期待と、ほんの少しの後悔が入り混じる奇妙な時間。あと40分。その数字だけが、モニターの隅で静かにカウントダウンされていた。
その時だった。
「ん…?」
なにやら、遠くからBGMのようなものが聞こえてくる。重低音が腹に響く、リズミカルな音だ。
ダダダダダダダダ……。
「なんだこの音…」
「おい、これってまさか…映画の?」
佐伯が目を見開く。俺もその音には聞き覚えがあった。ワーグナーの『ワルキューレの騎行』。コッポラの映画、『地獄の黙示録』で使われていた、あの曲だ。
「へ?」
音がどんどん近づいてくる。窓の外が、サーチライトのような光で何度も明滅した。俺たちは顔を見合わせ、恐る恐るカーテンの隙間から外を覗く。
信じられない光景がそこにあった。
マンションの上空を、黒塗りの攻撃ヘリが低空で旋回している。サイドドアは開け放たれ、そこから身を乗り出した迷彩服の女性が、サービス内容の書かれた目録らしきものを片手に、こちらに手を振っていた。
「やべー家か? ここは! 阿鼻叫喚じゃねえか!!」
佐伯が叫ぶ。俺は腰を抜かしてその場にへたり込んだ。
やがてヘリはロープを垂らし、その女性隊員――志乃原七海と名乗った――は、まるで特殊部隊のようにベランダに降り立った。
「作戦時間、60分。これより任務を開始する!」
彼女のサービスは、まさに戦場そのものだった。激しい攻防、息もつかせぬ展開。それは癒やしとは程遠い、嵐のような時間だった。そして、無情にもタイムアップのブザーが鳴り響く。彼女はそれを、機関銃の連射音を聞くかのように冷静に受け止めた。
汗だくで息も絶え絶えの俺を尻目に、彼女は手元の端末を操作する。
「代金支払い、カード決済完了しました!」
敬礼一つすると、彼女は手際よくロープを掴み、迎えに来たヘリへと吸い込まれていく。
去り際に、彼女はインカムに向かって叫んだ。
「これより帰還します! こちら、志乃原七海隊員! ラジャー!」
轟音と共にヘリが遠ざかっていく。呆然と立ち尽くす俺と佐伯。部屋には、硝煙の代わりにフローラルな香りが、かすかに残っていた。
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