半分

《大陸制覇率:52%》


機械連邦を下し、

転送の光が消えると、

クオリアたちは本拠地に戻っていた。


城砦の広間では、

歓声もなく、浮かれもなく、

ただ静かに兵士とメンバーが待っていた。


理由はひとつ。


ここまで来て――誰も“勝ち”を感じていないから。


支配した半分の世界の先に、

もっと厄介で深い戦争があると、

全員が理解していた。


 


戦況マップが空中に再展開される。


残る国家は3つ。


《南の砂海帝国》

《東の聖都》

《最後の国家:中央神聖連盟》


 


砂の帝国は戦闘狂。

聖都は宗教国家。

中央神聖連盟は、世界の思想と価値観を支配する国。


どれもただの戦争ではすまない。


クオリアはゆっくり息を吐き、

視線をマップへ滑らせた。


「――東の聖都から落とす」


声は穏やかだが、

その一言が広間全体を緊張で包んだ。


 


転送陣が展開され、

視界が光に飲まれて――


 


次の瞬間、

柔らかい暖かな空気が頬を撫でた。


一面の白い大理石。

高い神殿。

巨大な鐘楼から鳴り響く穏やかな鐘の音。


東の聖都ラグナリア。


平和そのものの街。

人々は笑い、祈り、歌っている。


戦争の気配などない。


 


だが、クオリアの姿が現れた瞬間、

祈りの声が止まり、

街に沈黙が落ちた。


大聖堂の階段から、

純白の装束をまとった司祭たちがゆっくり歩み寄る。


 


「――ようこそ、世界の終末をもたらす者」


柔らかく微笑む声。

敵意をむき出しにする者は一人もいない。


「あなたが来ることは予言されていた。

世界を終わらせる者、そして――再構築する者」


 


クオリアは驚きすら見せずに返す。


「……戦うつもりはあるのか?」


司祭の微笑は揺らがない。


「戦いません。

あなたたちは“敗北”で屈するのではない。

“正しさ”で屈服させる国です」


 


言い換えるなら――

“理想”“信仰”“価値観”での支配。


兵を完全に統率し、

国民全員が“信じている”。


合理ですらない。

恐怖ですらない。

“信じるものの絶対”で守られた国家。


 


鐘楼が鳴り響き、

大聖堂の扉がゆっくりと開く。


白い装束の人々が跪き、

穏やかな笑みを向けてくる。


 


「あなたは世界を変える。

良い方向か、悪い方向かはわかりません。

だからこそ――この国はあなたを受け入れる」


 


クオリアはわずかに眉を寄せた。


「降伏……なのか?」


司祭は首を振った。


「違います。

“従うことを選ぶ”のです」


降伏でも抵抗でもない。

思想の選択という、

この国の形。


 


システムログが静かに告げる。


《オリジン・ユナイトが東の聖都を制圧しました》


《大陸制覇率:71%》


 


三つ目の国も、戦わずして落ちた。


ただし――

空気の底に、ひどく嫌な感覚が残った。


司祭は笑みのままで言った。


「どうか忘れないでください。

あなたが世界を作るのではなく、

世界があなたを作ってきたのです」


一瞬で転送陣が展開され、

クオリアたちは引き戻された。


 


砦の指揮室に戻ると、

空気が冷えていた。


誰も声を出さない。

さっきの言葉が全員の頭に残っている。


 


沈黙のあと、

黒衣の女が口を開いた。


「……あと三割。

でも、ここからが本番だ」


ストーカーが静かに笑う。


「世界中が先輩を中心に回り始めてますね♡

最高です♡」


銀髪の少女は不安げに袖をつまんだ。


「にぃに……もう戻れないのじゃ……」


 


クオリアは目を閉じ、

小さく呟いた。


「戻る気はない。

――ここまで来たら、最後まで行くだけだ」


 


次の国家がマップ上で点滅する。


《砂海帝国》


そして――


《中央神聖連盟(最終国)》


 


戦争は佳境に入る。

世界はもう、クオリアなしでは動かない。

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