第23王子(中身OL)はループと工学で“魔導ロボ軍団”を作り、辺境を無双する。
風
プロローグ:第23王子だけど私は普通に女の子だ
死というものは、気づいた時にはすでに終わっているらしい。
いや、正確には「終わったことに気づけるだけの余裕」が、たまたま私には残っていただけだ。
終電帰りのオフィス。
不注意な足取り。
段差に引っかかる間抜けな靴。
後ろから聞こえた、やけに大きな破裂音。
――爆発、と呼ぶべきなのか。
でも、あの瞬間の私は、爆発だとか事件だとか、そういう考えにすらたどり着けなかった。
ただ「あ、これたぶん死ぬな」とだけ思った。
それは、妙に静かな感覚だった。
人生って、案外こういう終わり方もあるのかもしれない。
老衰とか、看取られながら眠るような最期とか、そんなものに憧れてはいたけれど、まあ……叶わなかった。
叶わないのに慣れるのが、現代人の処世術である。
目を開けた時、私は知らない天井を見上げていた。
真っ白な部屋。
球体の光がふわふわ浮いていて、空気は温かい。
いかにも「転生案内所です」という雰囲気で、実際その通りだった。
「あなたの魂は、本来よりずいぶん早く砕けかけていましたが……間に合いましたよ」
光の中から声が落ちてきた。
女神、と名乗る存在だった。
名乗られた以上、そう思うしかない。
私はベッドの上で体を起こす。
自分の身体がやけに軽いのに気づき、少しだけ不安になった。
「……あの。私、死んだんですよね」
「はい。ですがご安心を。あなたには“次の世界”を用意しています」
女神は落ち着いた声で告げる。
その声は妙に優しくて、逆に実感がわかない。
「次の世界では、あなたは“第23王子”として生まれます」
「……王子?」
思わず聞き返してしまった。
王位継承は、そんなに人数が必要なのだろうか。
いや、そもそも私は“王子”ではなく普通に“女の子”なんだけど。
「性別は、まあ……気にしないでください。同じ魂なら問題ありません」
問題はあるのでは?
とは思ったものの、女神はにこやかだし、問答しても仕方がない。
「あなたに与えるスキルは――『周回(ループ)』です」
「……ループ?」
耳慣れた単語だった。
SE兼OLとして働いていた時、散々見てきた単語である。
プログラムの処理を繰り返す、あの“ループ”だ。
「あなたが一度行った行動を記録し、それを“あなたのコピー”として自動的に実行し続ける能力です。効率的ですよ」
「効率……」
語尾が勝手に揺れたのは、SEの性だろう。
効率化と聞くと、どうしても心がざわつく。
「ただし、あなた自身は特別強くありません。あくまで“凡庸な人間”として転生します」
凡庸。
その一言が胸の奥にずしりと落ちる。
私は前世でも、特別な才能なんてなかった。
努力でカバーして、要領で誤魔化して、最後は事故で終わった。
次の人生は、もっと静かで穏やかなものがよかった。
でも、神様相手に希望を出す権利は、たぶんもう残っていない。
「……わかりました。凡庸でも、やれる範囲でやってみます」
「その謙虚さは、きっとあなたを救いますよ。
そして――あなたの技術は、世界を大きく変えるでしょう」
女神が光に溶ける。
眩しさに目を閉じた瞬間、私は落ちるように意識を手放した。
次に目覚めれば、そこはもう“第23王子”の世界だ。
前世よりもう少しだけ、静かに生きられればいいのだけれど。
まあ、その望みが叶うかどうかは……実際に生まれてから考えよう。
そんな風に思っていた――
“凡庸な第23王子”として私の人生が始まる、その直前の出来事である。
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