始まりと終焉の庭
「《此は虚構の葬儀場なり。故に虚構の参列者よ、今此処に集いたまえ》」
壱弥は
負荷によって唇の端から血が流れた。
先程の《参列者》が集まる。
磯谷真里亜の姿もあった。
そして……。
[真里亜ちゃんは柚希さんを引きつけて。私が彼を捕縛します]
[任せて、奈津美さん]
磯谷真里亜がまた踊り始める。
粘液がピクリと反応した。
その直後。
[柚希さん、もうやめて!! こんなの私嬉しくない!!]
[奈津美ちゃん!?]
《参列者》の園村奈津美が叫ぶと、無数の青白い手が影の障壁に突き刺さった刃を砕き、抱きかかえるように颯志だった粘液を包む。
[彰巳さん!! 行って!!]
[お前……]
[私はもう、あかりちゃんのそばにいられないから]
彰巳は舌打ちをすると障壁を解除し、壱弥たちと合流すると、影から離脱する。
それを確認すると、燎悟が進み出た。
「嬢ちゃん、巻き込まれるで?」
[覚悟の上です]
「何や、結構ええ女やん」
《参列者》の奈津美はくすくすと笑う。
「颯志が傍観者と言う名の加害者なら、僕だって同じや。僕だって美容室でその子に会った時に全てが“視えた”し、颯志がもう手遅れなのも“視え”とった」
[やっぱり、俺のこと疑ってたんじゃん]
「半分当たりで半分外れって言ったやろ? 颯志は失踪事件の真犯人やないけど、真犯人を知っとるし、最後には《ドグラマグラ》を引き起こすとは思っとった」
[そっか……でも、なんだかんだで燎悟くんとの時間は楽しかったよ]
颯志の口調が、穏やかなものに戻る。
燎悟は目を細めて微笑んだ。
「颯志、本当は信じたかったんやろ? 未来は変えられるって。 新しい自分になれば変えられるって」
[…………]
「髪型を変えれば、新しい自分になれば、きっとそいつの未来は良いものになるって。せやから、最後の最後までその子の髪を整えたんやろ? 雁野結丹の髪を整えたんやろ? 僕に美容室の鍵を預けたんやろ?」
[もう……覚えてないよ]
「嘘やん」
[本当に……敵わないな、君には]
呆れたような、でも何処かすがすがしい颯志の声。
燎悟は瞳を閉じた。
「《此処は始まりの庭。此処は終わりの庭。胎児の夢が始まり、泡沫と消える庭》」
颯志を包む奈津美の青白い手が、奈津美へと向かい、その幻影の身体を破壊した。
颯志の刃が粘液へと何度も何度も突き刺さり、半透明の粘液は酸のように音を立てて消えてゆく。
「《夢は夢、幻は幻、始まりは終焉へと還れ》」
《参列者》の奈津美と共に、颯志は消えた。
燎悟のポケットの中に、青いイルカのついたキーホルダーを残して……。
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