第一章 愛の目覚めと、歴史(いにしえ)の復讐の序曲(プレリュード)
第5話 旅立ちと、新たな訪問者
……
そんな日々は、長くは続かなかった。二ヶ月後、誰もがそれぞれの未来を迎える時が来た。やらなければならないことが、あるのだ。
より良い再会のためには、時に短い別れも必要になる。
楊柏洛(ヤン・バイルオ)は今年で十二歳。学院に入るべき年齢だ。彼女はそのための準備を、ずっと前から進めていた。
毎年十一月の後半二週間、「世界の学府」と呼ばれるアカデミックが新入生募集の試験を開始する。試験期間は丸々一ヶ月続くが、一人当たりの考核時間は異なる――入学申し込みから数えて、平均して約一週間といったところだ。
アカデミックは「学識の尊重」を理念に掲げ、種族を問わず全世界から生徒を募集している。考核方法は多岐にわたり、武術や魔法だけにとどまらない。学校側は「いかなる才能も埋没させない」と豪語しているほどだ。
商人の家に生まれた楊柏洛は、数年前に卓越したエーテル適性を認められていた。両親の意向もあり、彼女が受験の道へ進むのは自然な流れだった。
ロ伊(ロイ)が安十六(アン・シーリウ)に贈った目覚まし時計が、前夜にセットした通りの時刻に鳴り響く。
安十六は寝ぼけ眼で身を起こし、布団が肩から滑り落ちた。彼女は目をこすりながら、なぜ皆が「学校」に行かなければならないのかまだよく分かっていなかったけれど、安おじいちゃんと一緒に、仲間たちを見送りに出かけた。
「じゃあね、また後で。寂しくなるけど、元気でね、十六(シーリウ)ちゃん」
街へ向かう馬車の前で、楊柏洛は屈み込んで安十六の頬をつねった。
「……またな、小十六」
ロ伊もそこにいた。今年十五歳になる彼の父親と楊柏洛の父親は、かつて軍の戦友だった。退役後にそれぞれ商売を始めた二人は、義理人情から言っても互いに助け合う仲だ。
彼が手を伸ばして安十六の頭を撫でようとしたその時、横から楊柏洛の手が伸びてきて、「パシッ」と叩き落とされた。
「チッ!」
「ふふ〜ん」
楊柏洛は得意げな顔で振り返り、馬車へと乗り込んだ。ロ伊も仕方なさそうに後に続く。
ロ伊と楊柏洛の間には、いつも小さな……火花が散っているようだが、大人たちの目には子供のじゃれ合いにしか映らない。
「じゃあバイバーイ! 安おじさんもお元気で! 十六ちゃんも、電話するからね、あたしのこと忘れちゃダメだよ〜」
楊柏洛は車窓から身を乗り出し、安十六と安温(アン・ウェン)に向かって大きく手を振った。
ロ伊は少し照れ臭そうに、真似して手を振っただけで、言葉は発しなかった。
「気をつけてな」 安温は静かに頷いた。
「気をつけてね……」 安十六もそれに倣って小さく呟いた。
「おい安、また会おうぜ。子供たち、行くぞ!」
御者台の楊父が声を張り上げる。軽やかな蹄の音と共に、馬車はゆっくりと動き出した。
「あんた、もうちょっと詰めて座れないわけ?」
「もう十分席を空けてやっただろ、これ以上どうしろってんだよ」
……
馬車は次第に遠ざかっていくが、中から楊柏洛とロ伊の言い合う声が微かに聞こえてくる。
安十六の口元が、小さく弧を描いた。
隣にいた安温が、彼女の小さな頭を撫でた。
「さあ、帰るぞ」
「うん」
出発した時はまだ薄暗かったが、見送りを終えて戻る頃には、朝の光が小道を照らしていた。二人は静かに家路についた。
「あいつらが行っちまって、我が家の十六ちゃんは退屈で寂しくなったりせんかな?」
「……さび、しい?」
「一人の時、何していいか分からんようになることじゃよ」
「うーん……ならない。だってお爺ちゃんがいるもん」
「ふっ、お前さんは口が上手いねぇ。帰ったら飴玉でもやろう」
……
「学校って……なあに?」
「学校か……たくさんの本を読んで、たくさんのことを知る場所じゃよ。まあ、誰でも本が読めるってわけじゃないが――柏洛の嬢ちゃんは大丈夫じゃろう。ロ伊の坊主は、まあ本当に入れたとしても、ふん、十中八九、親父さんみたいに剣を振り回すことになるじゃろうな」
「そっか……じゃあ私も、いつか学校に行くの?」
「そりゃ当然じゃ! 腐ってもワシの孫じゃからな、爺ちゃんの顔に泥を塗るような真似はさせんよ。お前さんならきっとやれるさ」
そう言って、安温は自信と喜びに満ちた笑顔を見せた。
……
いつの間にか、二人は家の前に着いていた。安十六の手には大きなペロペロキャンディが握られている。安温が手を一振りすると、光の筋が走り、扉はいつものように音もなく開いた。
安十六の目にはすぐに自分の小さな椅子が入ってきた。小さなテーブルの上には、彼女のお気に入りの積み木が置かれている。彼女は一瞬立ち止まったが、横にあった童話の本を手に取り、黙ってページをめくり始めた。
安温はまた藤の椅子に座り、パイプに火をつけた。本を読んでいる安十六を横目で見て、紫煙を吐き出す。
「寂しくないなんて言っておきながら、もう孤独を感じておるのか……」
庭は静まり返り、時折鳥の鳴き声と、安十六がページをめくる音だけが響いていた。
やがて、小さな机の辺りから、微かで規則正しい寝息が聞こえてきた。安温はゆっくりと近づき、安十六を抱き上げて部屋へと向かった。彼女の目尻にはまだ乾いていない涙の跡があり、先ほどまで押し付けていたページも一箇所、涙で濡れていた。
「いくら聞き分けの良いふりをしたところで、結局はまだ赤子じゃな……」
その呟きに驚いたのか、それとも微かな煙の匂いに気づいたのか、安十六は祖父の懐で小さく身を摺り寄せた。安温は微笑み、優しく彼女の背中を叩いた。
子供にはまだ「再会」という言葉の意味は分からない。彼女が知っているのは、今の別れが一番辛いということだけだ。
日々は過ぎ去っていく。一週間後、微風が吹き抜け、落ち葉がカサカサと音を立てた。
昼下がり、安十六は食後も眠くならず、安温も彼女の自由にさせていた。
彼女は庭にしゃがみ込み、地面の蟻が小さなお菓子の欠片を運ぶのをじっと見ていた。
以前は大抵、楊柏洛が彼女を連れて村の他の子供たちと遊んでいたものだ。今、楊柏洛がいないせいで、彼女はどうしていいか分からずにいた。村の他の子供たちも誘いに来てくれたが、内気な彼女は断ってしまい、庭にいることを選んだのだ。
それでも、毎週水曜日には陳おばさんの手伝いで一日「案山子」役をし、金曜日には孫先生のところへ文字を習いに行っていた――あの新しい万年筆は、確かに役に立っていた。
なぜか、安十六が畑に立つと、鳥たちが好んで彼女の周りに集まってくる。日差しがあまりに気持ちよくて、彼女が畑の石の上でうっかり居眠りをしてしまった時でさえ、鳥たちは逃げず、野鼠までもがこっそりと彼女の近くで昼寝をしていた。これでは他の案山子よりずっと「役立たず」……いや、「役に立つ」のかもしれない。
トントン、トントン。
ノックの音が響いた。安十六は立ち上がり、ズボンの裾についた土を払い、ドアを開けに行こうとした。皿洗いを終えた安温も部屋から出てきて、手を一振りするだけで、ドアは自動的に開いた。
光の流れが走り抜けると、数人の人影が入ってきた。彼らは大きな木箱を担ぎ、庭の空き地にそれを置いた。
先頭に立つ短髪の少年――金髪碧眼、仕立ての良いスーツを着こなし、知的な雰囲気を漂わせている――が、背後に向かって手を振った。
運び入れた男たちはすぐに門の外へ退出し、彼一人だけが残った。
少年は周囲を見回し、視線を安十六に定めた。彼は安十六が少し怯えた表情を見せているのも構わず、顔を近づけ、顎をさすりながら目を細めて彼女を品定めした。
その後、彼は体を起こし、安温の方を向いた。
「隊長、お届け物です。いいじゃないですか、この子。確かに隊長のお孫さんにお似合いの可愛らしさだ。噂通りですね、綺麗な人形を拾ったってのは。愛想も良さそうだ。でも……なんだかちょっと、誰かに似てるような……あ、いやいや、なんでもないです、へへっ」
安温はゆっくりと手を拭きながら近づいてきた。
「ごちゃごちゃ煩いんじゃよ。お前を呼んだのは、この子の資質を見てもらうためじゃ」
「たかが資質の測定でしょう? こんなに隠密にやる必要あります? 結界まで張って、しかもわざわざ僕をご指名で……僕がどれだけ忙しいか知ってるでしょう! 結界だって一応『六弦魔法』なんですからね、疲れるんですよ!」
「口数が多いのう。お前さんは技術科の天才じゃろうが、言われた通りに働け」
安温は少年の後頭部を、軽く、しかし確かな重みを持って小突いた。
「退役しても元部下をいじめるんですか! ちょ、待って――手を下ろして! はいはい、分かりましたよ、やりゃあいいんでしょう……はぁ、いつも僕ばっかりこき使って……」
「ん?」
「いえ! なんでもないです……何も言ってません」
その傍らで、完全に蚊帳の外に置かれた安十六は、ただ小首を傾げ、困惑した顔をしていた。立ちっぱなしで少し疲れた彼女は、こっそりと一番近い椅子に移動し、ちょこんと座り込んだ。
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