第5章 決戦! 王都シルヴァリウス

第33話 反乱勢力に囚われる

 一年にも及ぶレイジののんびりした時間は終わりを告げようとしていた。


 係留を解かれた空中艦が、次々とシルヴァリウスの上空を横切っていく。


 艦隊の中で一際大きい艦の中には、新型インフラクターがずっしりと詰め込まれている。敵陣上空で強襲降下することも想定した空中母艦である。


 艦隊の中央付近には、第十八師団すなわちダンドロ家が率いるディアルナの姿もあった。

 目指すは屈辱の記憶も生々しい北東部戦線だ。


 王族専用の白く麗々しい空中艦『ザリクレオン』が艦隊を見送る。その艦首には王族かかつて旧帝国の皇帝から賜ったという逸話のあるランフィリアの紋章『双頭の鷲』が輝いている。


 ディアルナがザリクレオンとすれちがうように通過する。

 艦橋に並んだお歴々の中に、バルトロメオがある。

 レイジと目が合うと、軽く笑い返してくる。

 その様子を見てミアベルが目を丸くした。

「レイジあなた、いつの間に第三補佐官と仲良くなったの?」


 レイジは鼻の横を指でこする。

「自分でも意外なんだけど、俺、人と仲良くなるのが得意なのかもしれない」

「はあ?」


 王太子コーネリアスの姿も見える。

 こちらは取り澄ました態度のままだ。

 やっぱりかわいいな、と思っているとすぐ横のミアベルが、

「あれ、影武者ね」と言う。


「影武者ぁ?」

「ええ、妹さん。たまに入れ替わるのよ。見分けるこつは背の高さ」

「ふうん」

(本物の)かわいい女の子を見たというのになぜか損した気分になるレイジだったが、あの子ともいずれは仲良くなりたいな、と思うのだった。


 レイジは眼下を流れていく王都の景色を見ながら、ふと思い出す。


「そういえば、あの人に挨拶をしてくるのを忘れてたな」

「あの人って?」

 レイジの独り言を聞きつけたミアベルが反応する。

「グレータさん」

「ああ、あの家庭教師のお婆さんね」


 レイジはうなずく。

「でもまあいいさ。今回はベルナルドの『納品』に付き合うだけだしな」

「うん、きっとすぐに帰って来れるわ」

「前線の状態は、今どんな具合なんだい?」


「ひどいものよ。あれから大小合わせて二十近い城塞がアナトリア側に落とされたわ。動員できる旧型インフラクターは根こそぎ投入されてるけど、端から撃破されてる。それこそ麦でも刈り取るみたいにね」

 レイジは溜息をついた。

 ベルナルドの新型インフラクターは確かに高性能なのだろうが、果たしてここから巻き返しができるのだろうか。でもそれが出来なければ、召喚の儀が行われてしまう。

「追い詰められてるな……。明らかに」


                ※


 そして明日の朝には最初の納品先、つまり現在前線となっている城塞の一つに到達するという日の前夜。


 事態が急変した。


 耳に息がかかるほど間近で、誰かの声がする。

「レイジ、ねえレイジ起きてよ」

 頭がガンガン痛む。

「頼むから起きて! ねえレイジ!」

 悪寒と吐き気もする。

 正直、どんな美女の誘いであろうとも一切無視して眠っていたい気分だった。

「起きて! 起きて! 起きて! 起きてよ!」

 声の主はレイジを叩き始める。


 これにはさすがにレイジも耐えられなくなって、がばっと起きる。

 周囲を見回し、茫然とする。

「どこだ、ここは?」

 すぐ横には、ミアベルの顔がある。

 しかし背景は完全にみおぼえのない景色だ。


「ここは、ディアルナの船倉の隣にある拘禁房だよ」

 振り向くと、そこにはベルナルドと艦長のイシュメイルが渋い顔を並べていた。


「二人とも……え? これ、一体どういうこと? 拘禁? なんで俺たち閉じ込められてるの?」

「理由は不明だ。しかし手口ははっきりしてる」

「手口?」

「ああ、夕飯に出た飲食物のいずれかに一服盛られていたようだ。文字通り、一杯食わされるというやつさ」


「一体誰に?」

 ベルナルドは肩をすくめる。

「俺たち、殺されるのか?」

「いや、それは無い。少なくともおそらくすぐには殺さんよ」

 今度はイシュメイルが答える。


「なんでわかるのさ?」

「なに、殺すつもりなら最初から眠り薬なんてまどろっこしいものは使わんさ」

 レイジは頭を振る。

 まだ意識がはっきりしない。

 それどころか、ともすると眠りの誘惑に負けそうになる。

 と、しかしそこでレイジの先刻の『一体誰』という質問への答えが扉の鍵を開け、そして開いた。


「全員、目をさましたようだな。我々の司令官がおまえたちに会うそうだ。出ろ」

 それは、南方風の装束に曲刀を差した男だった。

 ランフィリアがかつて侵略併合した小国ドナを起源とする奴隷戦士だ。

 さらに同じ風体の男たちがぞろぞろ現れ、四人に剣先を突きつけて立たせる。


 レイジたちは唖然としながらも、渋々歩き始める。

 行く先は、艦橋のようだった。

「なあなあ、君たちの司令官って誰なのさ?」

 レイジが自分に剣を突きつけている男に馴れ馴れしい口調で聞くと、そいつは顔をしかめて切っ先を強めに押し当てる。


「うるさい黙って歩け。今にわかる」

レイジは自分では自覚していないし、知人友人からもそうとは思われてはいないが、それなりに勘の良い方だ。


 しかしディアルナ艦橋の一段高い艦長席に座っている『司令官』の正体については、全くの予想の外だった。

「サトミさん。それから他の方々も。やっと会えて私うれしいわ」


 それは、あの王宮の片隅の来客者棟のさらに片隅で一人起居していた老婦人グレータだった。

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