エストリウム幻想戦記(俺と一緒に召喚された戦闘機が異世界で無双!)
狩村猟平
プロローグ
第1話 異世界の空で
全身を甲冑で覆った全高十三メートルの騎士が力尽きて倒れる。
ズゥウウウン。
ランフィリア王都・シルヴァリウスの建物群が押しつぶされ、石畳の街路がクレーター状に陥没する。
土埃が大量に舞い上がる。
倒した騎士がもう動かないことを確認し、レイジは安堵の息を吐いた。
これが最後の一機だ。
王都をさんざんに破壊していた敵インフラクタ―(この異世界での戦争の勝敗を決する巨大騎士型兵器)を全機撃破したレイジは、顔を上に向ける。
この空域に向けて急速に接近しつつある複数の機影。
レイジが操るのは、エストリウムの魔法・錬金技術で生まれ変わった愛機FJ25。
その頭部に搭載された古代魔術の産物であるゴーレムの生体脳には、複数の魔術回路があらかじめ構成済だ。
魔術回路の一つである『広域マッピング』は常時起動でパイロットのレイジの固有スキルとして機能しており、周囲の空域のおおまかな状況が伝わってくる。
ちょうど、FJ25の失われたレーダーの機能に相当するものだ。
いや、レイジの脳にダイレクトに情報が伝わってくることを考慮すればレーダー以上の使い勝手といえる。
「なんだ? 何が接近してくる?」
だが、すぐにその答えは目の前に現れる。
やはりスキル『望遠視力(ホーク・アイ)』が自動的に起動し、レイジの網膜に望遠拡大された光学的情報が投影されたのだ。
接近しつつあるのは空中に浮かんだ戦闘用の船。
艦首に見える紋章は『天秤と槍』。
敵国アナトリアの空中艦隊だ。
その数実に十二。
さらにその周辺には無数の翼竜(ワイバーン)が護衛として遊弋している。
通信機からベルナルドの切迫した声が響く。
『アナトリアの小型空中艦だぞ! しかも全く見たことが無い。おそらくこれまで表に出てこなかかった新型だ。気をつけろ!』
「そんなこと言ったって、何に気をつけりゃいいんだ?」
『船の大きさの割にアースライトの出力が大きい。おそらく積載量や火力を犠牲にしてでも速力と機動性に振った高速艇だ! やっかいだぞ!』
ふーん、ちょうど『あっちの世界』おける駆逐艦辺りに相当するものだろうか。
この世界の人間も色々を考えるものだな、と感心する。
しかし今の俺とFJ25の敵じゃないぜ。
レイジはにっと笑う。
「そんじゃあ、もう一仕事行くとするか!」
スロットルレバーをミリタリーまで押し込む。
FJ25が空に舞い上がる。
その姿は、背中に一対の翼を備えた異形の騎士だ。
全身にまとっているのは鋼鉄と生物由来の甲殻で構成された複合甲冑。
右手には状況に応じて片手でも両手でも使用可能なバスタード・ソード。
両脚には双方合わせて百五十六キロニュートンもの大エネルギーを発生させるベクタード式ターボファンエンジン。
真正面から迫ってくるレイジに対して、空中艦隊は編隊をばらけさせながら砲弾を放ってくる。
しかし機動性があまりにも違い過ぎる。
当たるわけが無い。
艦の砲手が照準を終えた時にはすでにFJ25は視界から消えているのだ。
そして唐突に。
ドン!
という大気を震わす一際大きい巨大な爆発音。
空中艦の一つが、エンジン――この異世界の最先端である蒸気機関――を破壊されて黒煙と炎を吹きながら落下していく。
僚艦の観測員たちは、その攻撃が一体いつ行われたのかすら認識できていなかった。
レイジは次の空中艦の真下にとびこみ、エンジン格納部に剣を突き立てる。
破壊された炉の炎が、満載された化石燃料に引火し、燃え上がる。
ドン!
爆発で船腹が裂ける。
その炎に巻かれる前にレイジはさらに次の空中艦へと向かっている。
一撃離脱戦法だ。
そのレイジの戦法で次々と空中艦は撃墜されていく。
アナトリア側は自陣営の損害が五艦にまで広がった時点で戦術を変える。
レイジの攻撃をかわしながらのセオリーに沿った砲撃ではなく、積極的に接近をはかりながら砲を撃ちまくる。
一方、レイジは剣での一撃を狙っているので空中で静止する瞬間がある。
必然的にその瞬間にアナトリアの砲撃が集中するのだ。
レイジは慌てて回避。
しかしレイジに狙われていた艦の方は味方からのフレンドリーファイアを浴びて即座に轟沈する。
つまり味方の艦を捨て駒にしながらの戦術だ。
「おー、なかなか覚悟決まってるな。しかしこれならどうだ!」
レイジはFJ25を変形させる。
戦闘機形態に戻し、この世界の空中艦では到達不可能な高度にまで一気に上昇する
一万メートル付近に到達。
で、機首を真下に向けて急降下。
こちらを見失って右往左往している敵艦の一つに目星をつけ、そいつの真横を通過した辺りでバンク角を深めに取って急旋回。
機首が天を向く。
視界の正面には敵艦の船底部が来る。
「よっしゃ!」
機関砲を発射しながら再度上昇。
ドン!
また一艦が沈む。
レイジは高度を取る。
そして再度急降下。
これを繰り返されて、アナトリアの空中艦はもはやレイジに全く抗する術無く次々数を減らす。
残った最後の一艦は背を向けて撤退に入った。
レイジはふっと笑う。
「戦闘機乗りに後ろを取らせるって意味、わかってるか?」
レイジはわざとエンジンを狙わず、左右二対の推進ブレードを一か所ずつ丁寧に破壊する。
最後に赤く光っている尾部のアースライトを撃ち抜くと、その空中艦は揚力を失って艦首を上に向け、急速にずるずると落下し、最後には地面に激突して爆発の中に沈んでいった。
※
改めてレイジは思う。
これは本当に現実か?
異世界の空で、戦闘ロボに変形する戦闘機を駆り、敵を次々と撃破する。
しばらく前の俺であれば、冗談としか思えなかっただろう。
ここに至るまでには本当にたくさんのことがあった。
出会い、冒険、挫折、再起。
でも今の俺には守りたいものがある。
絶対に負けるわけにはいかない。
※
話は、運命のあの日にさかのぼる。
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