Brand Mind Hero

8櫁ドール

第1話 開花!Dreaming Garden

____ヒーローは、私にとって希望だった。

テレビを通して見る彼らは、常に笑顔で、強くて。


……でも、それはヒーローという虚像の枠に収められた彼らの表面だけしか見えてなかったようで。


これは、理想であって、私の中で偶像化されてしまったヒーローに憧れる、私のお話。






とある学校のチャイムが響く放課後。


私、夢咲ゆめさきこはるは、いそいそと教科書をカバンに詰めて、帰る支度をしていた。


周りのクラスメイトは談笑していたり、部活の準備をしたり。

前髪を整え始める女の子たちもたくさんいた。


でも私は、そんなことに構っていられるほど暇じゃないのだ。


「こはる〜!一緒にスタバ行かない?今日から新作出ててさぁ〜」


慌ただしく帰る支度をしている私の元に、友達の美空みそらちゃんが話しかけに来た。

確かに素敵な提案だし、いつもなら二つ返事で承諾しているけれど、今日の私は違う。


私は、顔の前で両手を合わせて、美空ちゃんに頭を下げた。


「ごめん美空ちゃん!私今日推しのセイラちゃんの限定グッズ発売日で!」


「セイラちゃんって、ブランド名がHop Starsの?」


「そうそう!私の推しの、完璧天才ヒーロー!私と同い年なのに、ダンスもできるし可愛いし優しいし強いし〜!!ほんともう完全無欠っていうか!」


「はいはい。で、急がなくていいの?売り切れとかやばいんじゃない?」


「あっ、ほんとだ!って、ごめんね、お誘い断っちゃって。」


「だって、こはるのそれは人生かかってるやつじゃん?早く行っておいで!」


「うん!また今度、その埋め合わせさせてね!」


「だから、ほんとに平気だってば!あぁでも、気をつけて行ってきなよ?こはる、変なとこで衝動的に動いちゃうこと多いんだからさ。どこからその勇気が出てくるわけ?」


「えへへ、褒められちゃった。」


「あんまり褒めてないぞ〜?このお花畑めぇ〜!……って、行かなくていいの?下駄箱混んじゃうよ?」


「あっ、ほんとだ!それじゃ、またね!」


私は、美空ちゃんに手を振りながら、走って教室を飛び出した。


大切な友人のお誘いを断るのは本当に心苦しいし申し訳ない。

けれど、今日は待ちに待ったグッズの発売日。しかも数量限定品!

我が推しヒーローのセイラちゃんが、Twitterであんなにも告知してたんだから、

絶対にいかなければならない。それが、オタクの使命なのだから!


校門を飛び出して、慌ただしく揺れるスカートを気にも留めず、時には段差を飛び跳ねながら走り続ける。


通り過ぎていく中心街の広告には、個性豊かなヒーローたちがでかでかと色鮮やかに映っている。もちろん、私の推しのセイラちゃんも。


私の生きる世界では、個性豊かなヒーローたちが、一般市民である私たちを守ることで日々の平穏が築かれている。

そのヒーローたちが政府公認と同時に人々に知られ始めたのは、実は最近のこと。

ヒーローたちが芸能活動にも勤しみ始めたのは記憶に新しい。


目的地であるポップアップストアまであと1キロ程度と、スマホの道案内アプリが表示した時だった。

何かがふと、私の視界の端を、私の向かう方向とは逆方向に通り過ぎた。

気になって、駆けていた足を止めて、視界の端に通り過ぎていったものを振り返って確認して見ると、そこにはヒーローたちの可愛らしくもかっこいい、デフォルメ化された姿が印刷された風船が、空に吸い込まれるようにしてふわりふわりと上へ登っていっていた。


近くで風船でも配っていたのだろうか。

私はその風船に目を奪われたままだった。

あれは誰のものだったんだろう。


その時、子供の泣きじゃくる声が私の鼓膜を揺らした。


どうやら幼い泣き声の主はすぐそばにいるようで、空にふわりふわりと風に流されるままに揺れる風船の持ち主であることが簡単に推測できた。


風船のやってきた方向に目を向けると、顔を真っ赤にした少女が、小さな瞳をうるわせて大粒の涙をぼたぼたと落としながら、小さな足を蹴り出しながら走ってきた。


「うわぁぁん!お母さんのばかぁ!」


「ごめん、ごめんね。お母さんうっかりしてて。あぁでもそんなに慌てたら…!こけちゃうよ!待ちなさい!」


少女の後ろから共に駆けてくる母親らしき人物は、片手に首の座ってすぐくらいの赤子を抱き抱えて、そのまた片手には重そうな買い物袋を手にしていた。


少女は、私の横で足を止めて、肩を上下させながら荒い呼吸を繰り返している。

嗚咽がまぜこぜになって荒い呼吸していたものだから、苦しそうに、過呼吸気味になっている。


そんな様子を見て、私は黙っていられなかった。

昔から長所でも短所でもある正義感が、私を衝動的に突き動かしていた。


「だ、大丈夫!私があの風船さんを連れ戻してくるから、ね?笑っててほしいな。私、笑顔がだーいすきなの。」


思い立つまま、膝を曲げて、泣きじゃくる少女の顔を覗き込み、私はそう宣言してしまった。


どうしよう、意気揚々にそう言っても策はないのに!


そんな私の焦りとは裏腹に、ぼたぼたと涙をこぼす少女はきょとんとしながら、私のその言葉を聞いて、「ほんと?」と私に期待混ざりの問いをした。


「ほ、ほんと!ほんとだよ!だから、ちょっと待ってて!」


私が勢いでそう言うと、少女は屈託のない笑みで、赤い目をこすりながら期待の眼差しを私に向けた。


とはいっても、さてどうしようか。


風船は、およそ地面から3、4メートルくらいの位置で宙をふわりと舞っていた。

周囲は住宅街らしく、いくつもの家が立ち並んでいたため、風船の高さまで届くような足場も見当たらなかった。


私は大して身体能力も高いわけじゃない。普通という言葉がぴったりの身体能力だし、頭だってたいして良いとは言えない。


「お姉ちゃん、風船が引っかかっちゃった。割れちゃわないかな?」


少女は不安げに、私の制服の裾を引っ張りながら、そう問う。


少女は再びまた瞳をうるわせながら、先ほど泣き止んだはずの声は涙声へと変わろうとしていた。


「大丈夫だよ!風船さんはきっとヒーローみたいに強いから!だから……」


少女の言う通り、風船は少し先の公園の大樹に引っかかった。


木に引っかかった、ということは。


「そうだ、木登り!ごめんね、ちょっとカバン見ててほしいな。」


少女にカバンを預けて、私は大樹に飛びつくようにして木の隙間や出っ張りに手や足をかけて登り進めていった。


「お姉ちゃん、すっごく高いよ、大丈夫?」


「だ、大丈夫!」


少女のいう通り、この木はそれなりに高い。一軒家の二階くらいまでは平気でありそうで、ちょっと下を見るのが怖い。

風船も厄介なことに、この木の枝の先端の方に引っかかってしまっている。

でも、ここまできたらやるしかない。


木の下ではきっと、少女とその母親が不安げにこちらを見つめているんだろう。

二人を安心させるためには、早く風船を回収して、私も早く降りなくちゃ。


木の幹に体全体でしがみついて登り、あとは風船のひっかかっている木の枝の先端まで腕を伸ばすだけ。


ただそれだけ、なのに。


怖い。


もしここで落ちてしまったら、大怪我は免れないだろう。

あの少女も母親も、私のせいで辛い思いをするに違いない。


ぷるぷると腕を振るわせながら、風船の方へと目一杯、腕を、指先を伸ばす。


「お姉ちゃん、あとちょっと!」


「うおおっ〜!届けぇ…!」


指先が何とか風船の持ち手の紐と絡み、確実に掴んだ、と思った矢先。

ずるりと、私の纏っていた制服が木の皮と擦れ、ぐらりと体のバランスが取れなくなって、滑る感覚のあと、音を立ててスカートを裂きながら、自身が地面の方へと近づいていることに気づいた。


危険信号が脳内で鳴り止まない。

でも、この現状を回避する術もない。


ジクジクとした焦りと恐怖感しか頭になくて、私は到底、ヒーローのようにピンチに瀕したとしても、笑うだなんてできなかった。

せめてもの抵抗で、衝撃に備えて私は目を強く瞑った。それしかできなかったから。


でも、待っても待ってもその衝撃は来なくて。


代わりに、少女の歓声のようなものが私にはっきりと聞こえて、それに伴った浮遊感と温かさ、そして疑問が、私の目をゆっくりと開かせた。


「お!よかったよかった!てっきり気ぃ失ってるって思ってたんで!」


「……え?」


「いやぁ〜、あの子の風船のために、あんな高い木に登るなんて、すごいっすね!俺生身のままだったら絶対怖くて無理っすよ!」


どうやら私は、彼に抱き抱えられているようだった。

彼は、先ほどの木のあたりに立ち並んでいた一軒家の屋根を飛び跳ねながら、徐々に少女の待つ木のそばへと高度を下げているようだった。


__というか、私を抱き抱えている彼って確か…


「ヒーロー、ですよね?」


「お!ご存知でしたか?って、そりゃあこんなことするのってヒーローくらいっすよね!」


「新人ヒーローの一瀬颯いちのせ はやてさんで、ブランドは確か、Street Heroですよね!?」


「スッゲェ!何でそこまで知ってるんすか?俺まだデビューして1ヶ月経ったか経ってないかくらいなのに!」


「ヒーロー大好きなので!!」


「それは嬉しいっすね!さっ、そろそろ降りますんで、舌噛まないようにしてくださいね!」


私は口を閉じて、彼の飛び回る景色を見つめていた。

空は果てしなく青く、遠くて。

暖かな色の住宅街の屋根は、まるで絨毯のように広がっていて。

遠くを見れば、下校途中の学生もたくさんいた。


彼は、彼らヒーローたちは、こんな景色を見ているのか、と。

私は憧れを抱き、それと同時にヒーローという存在を、鮮やかな景色を通して理解した。

彼らは、この景色に包まれながら、私たちを守り、戦っているのだと。


少しずつ地面に近づいていくにつれて、より鮮明に先ほどまでいた場所が私の目にはっきりと映る。

私は、あの木の下にいる少女がこちらに手を振ってきてることに気づいて、手を振り返した。


私を抱き抱える茶色寄りのオレンジ髪の彼は、そのまま速度を落としていきながら、少女の待つ木の下まで連れて行ってくれた。


「お姉ちゃん!!」


「ごめんね、怖がらせちゃって。ほら、風船だよ〜!」


少女はまた、心配そうに、泣きそうになりながら私に駆け寄る。


私は手に持ち続けていたその風船を少女に手渡した。


「風船、大事にしてね。」


「うん!!」


少女は、首が取れそうなほどに頭を大きく動かして頷いた。

その様子を、少女の母親が胸を撫で下ろしながら見つめていた。


彼は、そこから少し離れたところから、私たちの様子を眺めていて、そこから数歩、私たちの方へと歩み寄った。


「それじゃあ、俺はそろそろ行きます。…あっ、最後にいいっすか?そこのJK!」


「えっ?」


彼は、最後に別れの挨拶を、としようとしていたが、何かを思い出したのか、私に勢いよく指をさして立ち止まった。


「もうあんな危険なことはしないこと!じゃないと、お姉さん死んでたかもしれないんすからね?!これからは絶対にヒーローに頼ってください。頼られるのも、ヒーローの仕事なんで!それじゃ!」


彼は、それを忠告するように私に告げてから、あまりにも爽やかな風のように走り去っていった。


少女とその母親は、私に感謝を述べた後、また笑顔で歩いて去っていった。


「あのヒーロー、すっごくカッコよかったね!それに、あのお姉ちゃんも!」


「えぇそうね。まるでヒーローみたいな子だったね。」


そんな声が聞こえてきて、私は少し嬉しくなった。

推しのセイラちゃんみたいな、ヒーローみたいに誰の役に立てたんだ、と。


…ん?ヒーロー?セイラちゃん……!?


「……あっ!私もグッズ買いに行かなきゃ!」


そう思って、鞄を抱え直してみたものの、スカートは木から落ちた時に破れてしまったし、ボロボロだし。


発売時刻からずいぶん時間はたってしまったから、もう売り切れているだろうし。


「……なんて、もう無理だよね。」


スマホでポップアップストアの状況を確認してみると、思っていた通り、既にグッズは売り切れ。

セイラちゃんも一瞬だけお店に来ていたようで、より悲しくなる。

せっかくセイラちゃんに会えるチャンスだったのに。


汚れて、裂けたスカートを見つめてから、私はゆっくり帰路へ歩み始めた。


「……帰って、お母さんに謝らないと。」


今まで走ってきた道を、ゆっくり歩いて戻ってゆく。

さっきまではあんなにも希望で満ちていたはずなのに、今ではそんな希望も感じられなくて。


ため息をこぼしながら、私は地図アプリを起動して、家までの最短ルートを検索した。


ここからは歩いておよそ、30分ほど。

結構遠く感じるなぁ、とまたため息をつきそうになった時、けたたましい音とともにスマホが振動した。


いったい何事?!と思い、驚いて落としそうになったスマホを再確認すると、どうやら近くでヒーローとその敵、侵略者ならざるものこと“レイダー”とが交戦状態に入ったらしい。


その地点はおよそ、1キロ先。

結構近いなぁと思っていたら、スマホは続けて、その地点付近の場合はすぐ避難すること、もしくはその地点を避けること。と、ただ簡潔に、かつ緊急性を伝え続ける。


ちょっと怖いけれど、私はあまりにもここら周辺の土地勘がない。

遠回りしながら帰るか、と、私は再びずり落ちてきた鞄を抱えなおして、やや早歩きで進み始めた。


今まで通ったことのないような道で、地図アプリを見ては周囲を見渡しを繰り返し続けていると、私はある一点で立ち止まってしまった。


スマホの地図アプリが固まってしまった。

私の現在地点も大きくずれたところに表示されてしまったし、スマホの電源すら反応しない。地図アプリの拡大縮小もままならないままだなんて、どうしようもできないじゃないか。


なんだか今日はついてないことばっかり起こるなぁと、眉を顰めていたとき、ふと今日出会ったヒーローのことを思い浮かべた。

今頃彼も、敵であるレイダーと戦っているのだろうか。

きっとそこにはセイラちゃんもいるんだろうなと思いを馳せながら、私は遥かに高く、どこまでも広がる青空を仰いだ。


いくら運が悪くて、いいことが起こらないとしても、私は俯いたままではいたくないから。

不運の中でも笑っていたい。私の光である、セイラちゃんのように。


ふと、空にきらりと、何かが光っているように見えた。

飛行機でも飛んでいるのかな、と、見つめ続けていると、それはどんどん大きく見えていた。


不思議に思って、目を凝らしてみると、空から誰かが降ってきているようで。

どこの映画作品!?と疑いたくなった。

何かが降ってきている、と思えはしたけれど、私はそれが近づいてきていることに対して、また目を閉じることしかできなかった。あの木から落ちた時みたいに。


それはどうやら、近くのゴミ捨て場に落ちてきたようで、大量のゴミ袋たちがクッションになって衝撃を緩和していたみたいだった。

それにしても、一体何が落ちてきたのか。


気になって、慎重にそれを確認しに行った。


するとそこには、金髪の、色鮮やかな衣装を纏った少女が、気を失ったまま、全身に傷を負い、呻き声をこぼしていた。


髪飾りは一部壊れて、結っていたであろうはずの髪も解けていて、一目見ただけで異常事態、ということが嫌でもはっきりとわかった。


それでも。

そんな状況下でも、私はこの人物に対してある確信を持っていた。


「…セイラ、ちゃん?」


間違える方が難しい。

この金髪、この衣装。

見当たらないのは、画面を通して見ていた、あの屈託のない笑みだけだろうか。


「セ、セイラちゃん?!ど、どうしたのっ、なんでこんなとこに?!」


咄嗟に駆け寄って、体を揺らしてみたけれど、彼女からの反応はなかった。

というか、こういうときって揺らしちゃダメなんだったっけ!?


ただ私一人が慌てふためくだけで、現状は何も変わらなかった。

……いや、もしかしたら変わったのかもしれない。

より悪い方向に。


何かの大きな影のようなものが、道路に映る私の影を隠した。不自然に隠された影の方を振り返ると、そこには2メートルもありそうなほどの、黒くドロドロとした何かが、ウゴウゴと私ににじり寄ってきた。


……正しく言えば、セイラちゃんを追ってきたのかもしれない。


先ほど、私が木から滑り落ちた時と同等、もしくはそれ以上の恐怖が私に襲いかかり、手も足も震えて、息も浅くなる。


「逃げて…早く…!」


後ろから、細々とした声が届く。

あんなにも画面越しに聞いていた元気をくれる明るい声は、嘘だったかのように弱りきっている。


それでも、足が震えていて逃げれないのだ。

それに、こんな状況下で、私以上に怪我をしている推しを、少女を置いて逃げれるわけがない。

さっき助けてくれたヒーローは、ヒーローを頼るように、と私に忠告したけれど、私はその忠告を大人しく聞かずに、震える足を、腕をなるべく伸ばして、セイラちゃんを背にして、黒いドロドロとしたそれと正面を向いて睨むようにして立ちはだかった。


とは言っても、私にはヒーローのように戦う術もない。

とびきり優れた脚力もないし、とびきり優れた戦闘力もない。


ただ。

それでも、私にできることは。


「…や、やめてください!セイラちゃんが、こんなにもボロボロで、怪我してるじゃないですか!」


馬鹿正直に、ただそれに訴えかけることしかできない無力さを、全身で感じる。


そんな私の訴えを、聞くこともせずに、それは腕のようなものを振り上げて、私に叩きつけようとしてきた。


それでも、絶対に。

絶対にセイラちゃんだけは守り切る。

彼女は、私にとっても、世界にとっても希望のヒーロなんだから。


後ろからは、セイラちゃんが息を吸い込んだ音がはっきりと聞こえる。

なんだったっけこれ、確か、死ぬ時には聴力だけが最後まで残るってやつだっけ。

あぁなんか嫌だなぁ。せっかくさっきは助けてもらったのに。無駄になっちゃう。

いや、違う。セイラちゃんを助けられるのならば、きっとそれが私の価値だったんだろう。

涙が滲んでくる。

生にしがみつきたい心と、守りたい心でブレブレになる私を覚悟付けるように、私は願いを口にした。


「私がっ、セイラちゃんを守るんだ__!」


鞭のように叩きつけられる腕のようなものが、やけにゆっくり動いて見える。

でも、その猶予のような間でできることは、ただ未来を信じて笑うことだけだった。


それだけだったはず、だったのに。


_____目の前に、その鞭のようにしなる腕のようなものが私に向かって叩きつけられる直前、目を開いていられないほどの光が、私を覆った。


恐怖で目を瞑ることはなかったけれど、その眩しさに、目を強くつぶってしまった。


誰かヒーローが駆けつけたのか、とも疑ったけれど、その光は少しずつ薄れて、光は私を覆うようにして存在していたことが、その光の壁越しに透けて見える。

黒いそれは、私を包む光の壁にとまどいながら、私を包んでいる光の壁のようなものを、また鞭のような腕をしならせて、何度も、何度も、光の壁に叩きつける。


あっけに取られて、へたりと腰を抜かして座り込んでしまう私の目の前に、片手サイズのきらりと光るカードが、舞い込んできた。

咄嗟にそれを手に取って、どうしたらいいのかわからないまま、口を開けていると、後ろからセイラちゃんが叫んでいた。


「……それっ、それは……!早く!それをかざして!」


「えっ、どういうことですか!?」


「いいから!きっと体が自然と動いてくれるから!」


手にもったそのカードを再び見つめる。

かざすって?このカードって何?


後ろを振り返ると、セイラちゃんがこちらをじっと見つめてきているだけで。

ただひたすらに困惑していると、何かガラスのようなものが割れた音がした。

びっくりしてその音の方を見ると、先ほどまで私を守るようにして包んでいた光の壁にヒビが入り始めていた。


「嘘ぉ!?これって完全なバリアとかじゃないわけぇ!?」


さっきまで呆気に取られていたけれど、きっとこの光の壁はすぐに壊れる。

ならば、私がすべきことは。


「えっと、かざせばわかる、だよね!?」


私は、立ち上がって、そのカードを宙にかざした。


すると、不思議なことに私の唇は、まるで最初から知っていたかのように動き始め、私が画面越しに何度も聞いてきたあの言葉が流れ出た。


「Brand Mind__Activate」


その掛け声のあと、手に持っていたカードは光の粒子のように輝き、私の体を温かくも優しく包んだ。


一瞬、私の目の前に、夢のような光景が広がった。


花が咲き乱れる、美しい景色。

息を呑むようなほどの美しい楽園がいるとしたら、それはきっとここなんだろう、と。そう思えるほど。


そして、その景色が消えたと思ったら、私はまた、現実の世界へと意識が引き戻された。


目の前にあったはずの光の壁は完全に壊されて消えて、またあの黒いどろどろとしたそれは存在していて。


「やっぱり…!」


後ろから、セイラちゃんの声が聞こえる。その声に反応して振り返ると、先ほどと違った感覚が私を襲う。


なんだか身体が軽いような、それでいて、まるで一瞬でドレスに着替えたような質感。


そうして疑問まみれの私は、自分の姿を確認した。


するとそこには、先ほど纏っていたような、破れたスカート姿の私は存在してなく、かわりに美しい色鮮やかなドレスのような、まるでヒーローたちの一角のような衣装を纏った自分が、夢咲こはるが、そこに立っていた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る