時空刑事ベネレオン【期間限定投稿】

イトウマサフミ

ファーストステップ

 時は、西暦二一五〇年。


 警視庁本部に増設された建造物。それこそが、時空広域捜査局だ。




 その一室のジムで、トレーニングに励む男がひとり。


 彼の名は獅子倉晴斗ししくらはると。階級は巡査。新人の時空刑事である。


 徒手格闘によるシミュレーション訓練、光線銃を用いた射撃訓練、現場を想定したロールプレイング訓練など、時空刑事としての技量を叩き込む。




 やがて、それらのトレーニングを終えた晴斗は、訓練服を着たまま、局内の廊下を歩いていた。


 ボクシングの真似事のように、晴斗は拳を打つ。


 さらに呟く。

「う~ん・・・やっぱ俺、肉弾戦のほうが得意だなあ」


 そう言いながら、開発部へと向かう。




 開発部は、時空刑事の装備品やマシンを開発、改良、修繕する部署だ。


 最新のデジタル機器が詰め込まれた宝庫とも言えよう。




 いくつものパネル画面が宙に浮かび、眼鏡をかけた青年が巧みに指を動かし、操作している。


 そこへ自動ドアが開き、晴斗が入ってきた。


 スキップしながら呼びかける。

「お~か~のくん!」


 その青年、岡野おかのが気づく。

「あっ、晴斗くん」

「相変わらずイケメンだねえ」

「やめてくださいよ」


 岡野は開発部の技官である。


 机の上には、リボンで結んだ箱が山となっている。


 それが晴斗の目に留まった。

「またもらったんだ。モテる男はつらいねえ」

「だって、断れないじゃないですか」

「なんで俺はもらえないんだろ?」

「わかりませんよ。それより・・・・・・」


 岡野は机にアタッシュケースを置き、開いた。


 中には武器が入っている。

「完成しましたよ。改良型のフォースギア、ドノヴァンMARK3です」


 フォースギアとは、時空刑事の標準装備品である。その名がドノヴァンMARK3だ。


 十手型の基本形態、スティックモードに加え、銃型のガンモード、剣型のソードモードと、三種類に変形できる。


 岡野が改善点を説明する。

「まず、スティックモードの高圧電流の電圧をアップしました。次にガンモードは、光線の威力が上がっています。そして極めつけは、ソードモードです」


 武器を取り出した岡野は、ソードモードに切り替え、身振り手振りを加えた。


 そうして続ける。

「こうやって刀身に左手をかざすと、スーツのパワーが注入されて、最大の攻撃力が発揮されます」


 晴斗が問う。

「じゃあ、俺が編み出した技も使えんのか?」

「もちろんです。どんな技か知らないですけど」

「すげえな」

「驚くのはまだ早いです。トライキャリバーも武器にすることができました」

「マジか!?」

「マジです」


 トライキャリバーとは、時空移動艇の名称である。時空刑事専用のマシンであり、その機体により、過去へ飛ぶことができるのだ。


 岡野はパネル画面を前に出す。

「晴斗くんが指示すれば、トライキャリバーが大型の重火器に変形します」


 そのシミュレーション映像が映し出される。どうやら銃型のようだ。


 さらに補足する。

「操作方法はスーツにインプットしてあります。後は晴斗くん次第です」

「いやあ・・・ほんとにすげえわ・・・・・・」

「ギルドは勢力を増してますからね。こちらも戦力を強化しないと」




 警察にとっての難敵は、国際犯罪シンジケート<ギルド>である。


 幾多の犯罪組織が未来を変えようとしている。これは由々しき事態なのだ。




 こうしたなか、晴斗の胸が高鳴る。

「岡野くん。さすがだよ」

「技術者としては当然です」

「これ、早く使ってみてえなあ。事件起こんねえかなあ」

「そんな不吉なこと言わないでください」

「不吉だろうが何だろうが、俺がぶっ潰してやるよ」

「プラス思考全開ですね。だったら、一度見てくればいいじゃないですか」

「そうだな。行ってくるわ」


 晴斗は駆け出していくのだった。



 一直線に走る晴斗の前に、大きなパネル画面が浮かび上がり、立ち塞がった。


 驚いてブレーキをかける。

「おおっ!なんだ!?」


 そのパネルから、アニメ調の女性警官が現れた。


 制服姿で指差す。

 ――コラッ!晴斗!さっさと始末書出しなさい!

「マリアか・・・・・・」


 マリアとは、AIの局員である。主に時空刑事のサポートを業務としており、設計したのは岡野でもある。


 晴斗は苦笑いになった。

「始末書って、何のことだっけ?」

 ――訓練中に壊した備品のことよ。すっとぼけんな!

「ごめん。なるべく早く出すから」

 ――なるべくじゃダメ!今日中に提出しなさい!

「わ、わかったよ」

 ――さもないと、局長にチクるわよ。

「はいはい。どうもすいませんでした!」


 パネルを強制的に閉じ、晴斗は再び走り出した。




 大きく広い格納庫。一機のトライキャリバーがそびえ立つ。晴斗専用の機体だ。


 思わず笑顔になっていると、ひとりの男が顔を出した。


 整備部の主任、西田にしだである。


 訳もなく常に不機嫌そうな顔で、無愛想な態度だが、腕は確かだ。


 その西田も機体を見る。

「あいつが無茶言うもんだから、こっちは苦労したよ」

「岡野くんのことっすか?」

「頭が良くて、女にモテて、だけども憎めない。不思議なガキだよ」

「俺たちもあやかりたいっすよねえ」

「俺たち?」

「いや・・・俺が・・・・・・」

「とにかく、これだけでもギルドに対抗できる。破壊力は抜群だぞ」

「ありがとうございます」


 そのとき、西田に電話が入る。

「承知しました。すぐに向かわせます」


 電話を切り、西田は晴斗に伝えた。

「局長が呼んでる。急げ。緊急事態だとさ」

「事件っすか」

「ああ。お前の初任務だ」

「よっしゃ!」

「喜ぶことじゃねえだろ」

「あ・・・ですね。行ってきます!」


 とは言いつつも、初陣に心躍る晴斗はダッシュするのだった。




 重々しく静かな局長室。晴斗の前に立つ制服姿の男。局長の竜崎りゅうざきである。


 大きなパネル画面に映る写真を指し、竜崎は言った。

「君の任務は、彼をギルドの手から守ることだ」

「奴らが狙ってるんですか」

「情報によれば、ふたつの組織が命を奪おうとしている」

「ふたつ?まさか同時に来るんじゃ?」

「かもしれん」


 写真の男は山寺健太郎やまでらけんたろう。物理学者である。


 晴斗は問う。

「なぜ、この人を?」

「山寺博士は、世界で初めて時空間移動を提唱した人物だ。彼がいなければ、タイムワープの原理を発見できなかった」


 そこで納得がいく。

「つまり、ギルドは博士を消し、タイムワープができない未来に変えようと企んでる」


 竜崎はうなずく。

「そうだ。我々の存在も消そうとしている」

「で、ふたつの組織とは?」

「ひとつは、ネイチャー・サイエンス・ネットワーク。もうひとつは、ケルベロスだ。君も資料で読んでいるだろう」


 晴斗は組織についての記憶を手繰る。

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