屋敷にて
「ここが……」
真尋が屋敷を見上げる。
「あったな、ここが八木邸だ。いわゆる壬生の屯所だ」
土方が告げる。
「へえ、なかなか立派な屋敷じゃねえか……」
「……物をくすねたら斬るぞ」
五右衛門に土方が釘を刺す。
「ん、んなことしねえよ! 人のことをコソ泥扱いすんな!」
「どうだかな」
「て、てめえ……!」
「土方殿、そんなことより……」
「そ、そんなこと!?」
晴明の言葉に五右衛門が驚く。
「屋敷に変わった様子は見られませんか?」
「……見た所は無えな」
土方が屋敷をじっと見つめて呟く。
「そうですか……」
「なにか気になることでも?」
「いえ……」
「……妖怪変化の類を心配しているのならば、アンタの方がずっと詳しいだろう。対処は任せる」
「は、そりゃあそうだ、なんてたって陰陽師さまだからな」
土方の言葉に五右衛門が笑みを浮かべる。
「……どうも陰陽師の役割を誤解されているようですね……」
晴明が苦笑交じりに呟く。
「まあ……俺の知っている八木邸とは似ているようで違うという可能性も否定は出来ないがな……慎重に行くか……」
土方が両腕を組む。
「き、緊急時用の出入り口とかは?」
「生憎、戦国の世の城郭ではねえからな……」
キラキラと目を輝かせた真尋の問いに土方は苦笑する。
「屋根裏から忍びこもうぜ!」
「てめえで勝手にやってろ」
五右衛門の提案を土方は切って捨てる。
「あんだと~!?」
「やるか……」
五右衛門と土方が睨み合う。晴明が間に入る。
「まあまあ……土方殿、裏口からというのは?」
「ふむ、それはいくつかあるが……」
晴明の言葉に土方は顎をさする。
「そう単純ではない……と」
「そういうこった」
「ふむ……これは思案のしどころかもしれませんね……」
晴明は扇子を取り出して、自らの額に当てる。
「邪魔するぞ」
「!」
「!!」
「!?」
「と、巴さん!?」
巴が屋敷の門を豪快に開け放つのを見て、四人は驚く。
「? どうした? 入らぬのか?」
巴は振り返って首を傾げる。
「お、思い切ったことをしやがるな……」
「はっ、さすがに胆力が違うな」
呆気にとられた五右衛門の横で土方が笑みを浮かべる。
「……入りましょう」
晴明の言葉に従い、四人も巴の後に続く。
「……ふむ……」
「……いかがでしょうか?」
「屋敷内も変わった様子はねえな。屯所として使わせてもらっていた時とまったく同じだぜ」
屋敷内をざっと検分した土方が晴明の問いに答える。
「そうですか」
「それよりも問題なのが……」
「人っ子一人いないということ……」
「そうだ。この屋敷に至るまでの道中も、誰ともすれ違わなかった。これは一体どういうこった?」
「それを私に尋ねますか?」
晴明が苦笑する。
「なに、こういうことは得手としているかと思ってな」
「このような不可思議な事態には遭遇したことがありませんので……」
「……本当か?」
「……嘘をつく意味がございますか?」
「なんとなくだが……アンタは意味もなく噓をつきそうな気がする」
「ああ、それは分かるぜ」
五右衛門が頷く。
「貴族や公家というものは信用ならん……」
巴が薙刀を構えて晴明を睨み付ける。
「ず、随分な言われようですね!?」
晴明が戸惑い気味に言葉を上げる。
「……」
「………」
「…………」
「……………」
三人と晴明の間に緊張が走る。
「……ぐう~」
「……!」
「……!!」
「……!!!」
「……!!?」
「ああっ!?」
真尋の腹の虫が鳴る。真尋は恥ずかしそうに自らのお腹を抑える。
「ふっ……まあいい、腹が減ってはなんとやらだ。とりあえず飯でも食うか」
土方が笑みを浮かべながら声をかける。
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