最終日
【拡散希望】沢北市内の女子高校生が行方不明
10月17日の夕方頃を最後に行方が分かりません。
島崎県立沢北高校三年深郷茜峰
身長158cm 痩せ型で制服にベージュ色のカーディガン 連絡先はこちら
◇――◇――◇――◇――◇
スマートフォンのアラームが鳴っている。大丈夫、スヌーズにしているから、後三回までに起きれば遅刻しない。
薄っすらと目を開ければ枕元には白い流行りのキャラクターのぬいぐるみ。壁側には雑に掛けたせいで、ハンガーからずれ落ちそうなオーバーサイズのカーディガン。
習慣で、スマートフォンを手に取るも視界はボヤけてほとんど文字なんて読めない。
――不意に、強い塩素臭と腐った水のような臭いがして顔を
――静かだ。
階下に行っても、両親の姿は見えなかった。うろうろ探してみてもいない。
仕方がないからテレビをつける。音量も……上げちゃえ。離れて見てくださいとかよく言われるけど、近付いてじっと見る。
「緊急 行方不明の女子高生発見」
流れるテロップをじっと眺める。見慣れた高校の正門。県内にあるどこかの警察署の前。
チャンネルを変えても同じような報道。
自分のことなのに他人事にしか見えない。
「見つかったんだ……」そう言おうとしたけど、声が出た感覚がしない。
聞こえないからか?と思って、大声で叫んでみたけど聞こえない。
テレビからはほのかに音がするというのに……。自分という存在が、少しずつ消えている。
スマートフォンの文字設定を大きくして、開く。
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【ご協力、ありがとうございました】
先日、娘が発見されたと警察から連絡がありました。
拡散並びに皆様からいただいたコメントや情報、感謝しております。
該当の投稿は削除させていただきます。 深郷
「御冥福をお祈りします……」
「どうかお気を落とさぬよう」
「おかえりなさい!娘さんも気まずいだろうから叱らないであげてね」
「うわー……これは……」
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この中に、本当に私に興味がある人って何人いるんだろう。
私が、何をしたと言うんだろう。こんなにも多く知られて、拡散されて。
涙で、ただでさえぼやける視界がさらに歪む。
子供の頃のように、わんわんと泣いた。そうして泣き疲れた頃に両親が帰宅した。
玄関先でお母さんは崩れ落ちた。お父さんも玄関の鍵を閉めると同時にもう一歩も動けない様相。
親子三人、玄関で時が止まったようだった。
最初に立ち上がったのはお父さん。
泣き腫らし、寝不足がたたっているだろう目は充血している。
「……殺してやる」
その声だけは、ハッキリと聞こえた。そんなお父さんを見て、お母さんも真顔で立ち上がった。
さっきまであんなにふらふらとして、今にも倒れそうだったというのに。
「私も、いえ……私がやります」
ゾッとするほど低い声に震えたけれど、これは喜びだ。
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「復讐なんて考えないでくださいね」
「犯人もまだ少年だから……」
「娘さんはそんなことをしても喜ばない」
「うるさいって茜タソに言われた……(´;ω;`)」
「夜遅くまで出掛けてるから自業自得の結果」
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これらのコメントに一言「黙れ」と願う。
昨日、私が強く思ったことはなぜか私のアカウントからコメントされていた。
そして私のアカウントからだということは、すぐに判明したらしくすでに拡散されている。
新しく「黙れ」と付いたコメントを見て笑う。
両親の仕業だと言う人もいたけれど、同時刻に多数への同時コメントなんて不可能だから。
私から、あなたたちへのメッセージだよ。
炎上すればいい。
拡散するほどに指先からどんどんと黒ずんでいく肌。「心霊現象!?」とSNSザワつくのをケタケタと笑いながら見守る。
もっと!もっと広まってしまえばいい!!
ボロボロと原型を留めなくなっていく私。
私をこうしたのはあなたたちです。
犯人だけでなく、私はあなたたちも許さない。
夕方が近い。これが最期ということは、何となく分かった。
もう何も見えないけれど、ここだろうというところまで近付く。
「ありがとう、先に行って……待ってる」
もう、眠くて眠くて仕方がない。
16時40分。頭であろう場所に強い衝撃があった。
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「さっきから投稿エラー出る!」
「俺も許さないって出て入力してたやつ消えた……」
――許さない許さない許さない許さない許さない許さない――
「いやいやいや……マジだ」
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい」
――許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない――
「これは少年Aのせい」
「少年Aを許してはいけない。未成年だから何をしても許されるわけじゃない」
――許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない【拡散希望】――
「少年Aじゃなくてd@'j er■6gな」
「d@'j er■6gの住所と家族構成はこちらをクリック→」
―― 【 拡 散 希 望 】 ――
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