2日目

【拡散希望】沢北市内の女子高校生が行方不明

 1☆月1G日の夕方頃を最後に行方が分かりません。

 ■■県立沢北高校三年■郷■■

 しんrK15$(cm 痩せ型で制服に■■■■色のカーディガン   連絡先はこちら


 ◇――◇――◇――◇――◇


 スマートフォンのアラームが鳴っている。大丈夫、スヌーズにしているから、後三回までに起きれば遅刻しない。

 薄っすらと目を開ければ枕元には白い流行りのキャラクターのぬいぐるみ。壁側には雑に掛けたせいで、ハンガーからずれ落ちそうなオーバーサイズのカーディガン。

 これを見て一気に目が覚める。



 ――関節のあちこちが変な姿勢でもしていたかのように、痛い。



 嫌な、夢を見たのだろうか?

 10/25

 画面に表示された日付は、記憶よりまた一日増えていることに血の気が引く。


 SNSを開くと【拡散希望】の文字。

 ……文字化けが少しマシになっているも、さらに引用もコメントも増えている。

 投稿したアカウントを確認すると、このためだけに作られたようで……連絡先は両親の電話番号。


 着替えて、リビングへ向かう。今日も二人そろって家にいるみたい。

 両親はこの何日かで一気に年を取ったように見える。……疲れているんだ。


「17日から県内の女子高校生の行方が不明となっており警察は事件、事故の両方で調べを……」


 最悪だ。リモコンでテレビを消した。

 いきなり画面が切れたのを父が不思議そうにしている。そしてまた画面が再生される。


「……つは付近の防犯カメラの映像を確認し、引き続き生徒の行方を確認しているとのことです。次のニュースです」


 淡々としたアナウンサーの声が気に障る。

 部屋に引きこもっても……窓の外には地元の報道記者がいるのが見えて、一旦は開けたカーテンを力一杯閉める。

 もう嫌だ。外にも出たくない。


 気になってSNSの画面だけは開いてしまう自分も嫌だ。


 ❖──❖──❖──❖──❖

 

「知ってる(´;ω;`)中学のときの同級生。大人しい子だったのに何で…早く見つかりますように」

「島崎放送です。この件について詳しく取材を依頼したく思うのですが、DMにお返事いただけたら幸いです」

「辛いときこそ睡眠や食事は絶対!諦めないでくださいね」

 

 ❖──❖──❖──❖──❖


 中学の卒業アルバムの私は今より少しぽっちゃりしていて……ねぇ、何で?何で勝手にそんなことをするの?


 私は、何も頼んでいない。


 どうすれば終わるのかも分からない。

 だめだ、もうこれを見るのはやめよう。


 ふらふらと靴を履いて、玄関のドアに手を……掴めない。掴めないけど、そのまま通り抜けることはできた。

 こんなことができる自分も気持ち悪くて吐き気がする。

 地面に零れ落ちた金木犀はオレンジ色の絨毯みたいで、それを踏みつけながら歩く。


 どこに行って、何をすればいいかも分からない。

 コンビニに行くと自動ドアは開いたから、招き入れられるようにふらっと立ち寄る。


 誰も、私が見えていない。窓には、自分には見えるのに誰も気が付かない。さみしい。

 こうやって人はどんどん幽霊になっていくのかなぁなんて考える。


 コンビニを出てふらふらと商店街を歩く。何か、気が紛れるから。

 いつものパン屋さん、お休みなんだろうか?通るたびにしていた甘いバターの香りがしない。

 お店は開いているみたいだけど……近付くと商品もちゃんと並んでいる。

 

 ……香りが、しない。


 体温が一気に下がった気がする。そうだ、昨日はあんなにしていた金木犀の香りもしなかった。

 何で……?分からない。もう何も分からない。

 ぐずぐずと鼻を鳴らして泣くことしかできない。


 世界に一人、取り残されたような気分だ。


 いつの間にか日が暮れ始め、間もなく五時のメロディーが鳴る頃だなと思った。

 昔懐かしい音楽を思い出すと、家に帰りたくなる。家族に……会いたい。


 ずっと心配している。声は掛けても届かないけれど、近くにいたい。いなきゃダメな気がする。

 目を逸らしちゃダメなんだと思う。

 

 帰ろう……そう思ったときに頭に強い衝撃を受けて視界は暗転した。

 16時40分。

 ねぇ、どうして……?


 

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