第31話 文化祭は青春すぎる!?③
「聖もクリスちゃんもめっちゃかわいかったな~。あたしも来年はメイドさんしたいかも」
「私はちょっと恥ずかしいけど……こころちゃんがメイド服着てるの、見たいな。きっと似合うよ」
「でしょでしょ? 楽しみにしといて!!」
B組のメイドカフェで夢のような時間を過ごした私たちは、名残惜しくも聖さんとクリスさんに別れを告げた。
記念写真は本来有料のはずだったが、クリスさんのおかげで無料に。
いろいろ変なとこもあったけど、いい人だったなぁ。
「ねー、かのんちゃん。あの写真あとでちょうだいね」
「もちろん。……あ、ここだよ」
会話しながら歩いていると、次の目的地――お化け屋敷に到着した。
一年C組。B組から空き教室を二つ挟んだ先にある。
扉にはおどろおどろしい文字で『ナイトメア・ハウス』の文字。
……ネーミングセンス。
「なんか全然人いないね」
「ちょ、ちょっとこころちゃん」
こころちゃんが真顔で失礼なことを言ったせいで、受付係の人がちょっと悲しそうにこちらを見てきた。ごめんなさい。
でも確かに、C組とその隣のD組はがらんとしていて寂しい雰囲気だった。
メイドカフェは大盛況だったもんなぁ。
「とりあえず入ってみようよ。ゴール前にクイズがあるんだって」
「あ、ほんとだ。……『ゴールは一つだけ。正しい道は正しい答えの先に』か。けっこう面白そうじゃん」
こころちゃんが貼り紙を読み上げてふふんと笑うと、受付の人の顔が少し明るくなった。よかったね。
△▼△▼△
私たちは入場料を払い、お化け屋敷へ足を踏み入れた。
中は黒い布で仕切られ、淡い紫色のLEDが怪しく光っている。
「……へー、あたしこういう雰囲気好きかもな~」
楽しそうにきょろきょろ見渡しながら、こころちゃんはどんどん進む。
対して私は、ビビりながらなので一歩一歩が重かった。
「待って、早いよこころちゃ――」
私が早歩きになった瞬間、奥の布の隙間から仮面をかぶった人が飛び出してきた。
「わああえっ!?」
驚いたこころちゃんは、ちょうど追いついた私にきゅうっと抱きついてくる。
さっきまでの威勢はどこへやら、ぷるぷる震えて私をぬいぐるみのように抱きしめていた。
「こころちゃん大丈……むぐ」
「かのんちゃん、ぜったい離れないでね? あたしやっぱ怖いかもぉ……」
「はっ……!! わかったよこころちゃん。私が
こころちゃんの匂いと多幸感に包まれて、私は無敵になった。
肩を掴まれながら、ずんずん奥へ進む。
もう何も怖くない。
△▼△▼△
びっくり系の仕掛けはいくつかあったが、特に印象には残らなかった。
ただ、びっくりするたびにこころちゃんにヘッドロックされるのはかなり怖かった。首が折れそうで。
「あ、こころちゃん見て。これが多分クイズだよ」
ふと分かれ道に突き当たり、足元の看板が目に入る。
「……見ていいの? びっくりしない?」
「うん、大丈夫」
こころちゃんは私の肩の後ろからひょっこり顔を出した。
【右は真実、左は虚構。出口は左だが、右ではない】
謎解きって感じね。
「こころちゃん、これわかる?」
「うーん……深そうで浅いような。でも、左じゃない?」
「あーでも、《右ではない》が《真実じゃない》って意味にも……」
「え、かのんちゃん。それじゃない? こういうのって意地悪な答えだったりするし!!」
ぱん、と手を叩いたこころちゃんが目を輝かせた。
本当にそうかな?
「すごいよかのんちゃん、やっぱり頭脳派だね!!」
楽しそうに私の肩を揺らすこころちゃん。
うん、そうかも。
「じゃあこころちゃん、右に行こう」
「おっけー!!」
少しの違和感は、こころちゃんの笑顔でかき消された。
のれんのような布をくぐると――
「もう、もっと素直になりなよ♡」
――――出口では、なかったみたい。
△▼△▼△
真っ黒な布に囲まれた狭い空間で、私たちは紫のランプを囲んで座っていた。
「……ごめんねこころちゃん」
「いや、あたしもその……ごめん」
顔を見合わせて肩をすくめる私たちを、空間の主がにやにやと笑う。
「ねぇふたりとも、そんなにしんみりしないでよ。せっかくの文化祭だよ~? それとあの謎解き、解釈次第でどうとでもなるただの二択だから」
――――そう、佐久間さんだ。
露出多めのメイド服の上から黒マントを羽織り、顔には継ぎ目や傷のメイクを施している。
お化け屋敷に左遷されたとは聞いたけど、ほぼそのまんまじゃん。
ただの妖怪クレイジーサイコレズ。
こころちゃんはため息をついて、佐久間さんを睨んだ。
「で、いつになったら出してくれるの? 撫子ちゃん」
「ええ~せっかく会えたんだからもっとお喋りしようよ~」
佐久間さんはわざとらしく駄々をこねる。
「その、ずっとこのままってことは……ないですよね? 他のお客さんも来るだろうし」
「ん~まあ、そうなんだけど。……でも、ただで帰すのはつまんないなぁ~」
「ただでって……まさか、またクイズ?」
こころちゃんが問いかけると、佐久間さんは胸元の謎の穴に手を当ててハートを作り、いたずらっぽく笑った。
「ぼくとゲームしようよ、名付けて『秘め事山手線ゲーム』~♡」
「ひめ、やま……なにそれ?」
ぽかんとしながら私を見るこころちゃん。
……いや、私も分からない。
「ふふふ、ルールは簡単っ♡ 順番にヒミツを言い合って、一番先にギブした人の負け~♡」
佐久間さんは指をくねくねさせながら得意げに言った。
「いや佐久間さん、それはちょっと――」
「じゃあまずはぼくからねっ♡」
私の抗議を無視して、強引にゲーム開始。
どうやら問答無用らしい。
「こうなったらやるしかないよ、かのんちゃん」
「う、うん……」
まぁ、ちょっとくらいならなんとかなるかも。
私が頭の中の黒歴史ノートを開いたそのとき。
「ぼくね、××の×××と×××で×××したことあるんだぁ♡」
伏せ字になるくらいやばいことを、佐久間さんは普通のテンションで言い放った。
「「はぁっ!?」」
私とこころちゃんは揃ってのけぞった。
な、なんなんだこの人。いきなりぶっこんできた。
「ま、待ってよ撫子ちゃん!!」
「なぁにふたりしてお顔真っ赤にしちゃって。まだまだこれからだよ? さぁ、ぼくを負かせられるかな~?」
楽しそうにけらけら笑う佐久間さん。
これは想像以上にヤバい。
「さ、次は……かのんちゃんっ♡ おしえておしえて~」
「え」
もう腹をくくるしかない。
ここで佐久間さんを満足させないと、出してもらえないんだ。
「わ、私は…………クラスメイトでぇ……百合妄想を……」
「うんうん、かのんちゃんらしいねぇ~♡」
全身が熱くなって、汗が首を伝う。
だいぶ恥ずかしいけど、そこまでハードルは上げてない……はず。頑張れこころちゃん!!
「じゃあ次はこころん、いってみよ~♡」
「えぁ……あたしぃ、は……この前の聖とのおうちデ……じゃなくて勉強会で……」
指をもじもじさせながら、こころちゃんはうつむいた。
そういえばおうちデートなんて言ってたっけ。何があったんだろ。
「途中で聖が寝ちゃったから、その……髪の毛を、思いっきり……吸いました」
懺悔するようにぽつぽつと語るこころちゃんに、佐久間さんがじっと視線を送る。
「こころん、それだけ?」
「ひっ……そのっ!! お、おっぱいも……ちょっと揉みまし、た……」
「ふぅ~ん、こころんのえっち♡」
こころちゃん、もう泣きそう。
あら可哀想。でも、そんなけしからん勉強会してたなら、仕方ない。うん、仕方ないね。
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