第3話 死神の目
ギルドにおすすめされた宿の中で一番高級な宿の最上階をサラッと貸し切ったルミエール。
手続きはロックさんがしたけど、ルミエールの意向を汲んでの事なのは明白だ。
何だかすごく王族っぽい。
部屋は以前家族旅行で泊まったホテルのスイートルームに似ていて、寝室とは別に談話室があったので、そこで話し合うことになった。
椅子にそれぞれ腰を下ろし、さぁどうやって話そうかと思ったら、ぶーにゃが徐ろに右手を上げた。
「……ぶーにゃ、実はみんなに話しておくことがあるにゃ」
「話しておくこと?」
「……実はぶーにゃ、サポートアニマルじゃないのにゃ」
「え?でもオレのステータスにはサポートアニマルって書いてるけど……」
「……本来サポートアニマルには固有スキルがあって、そのスキルで主を手助けするお役目なのにゃ。でもご主人はイレギュラーでこの世界に送り込まれたから、ぶーにゃのスキルが非活性状態になっているのにゃ。活性化するにはご主人が単独でダンジョンボスを討伐する必要があるにゃ。そんなの到底無理にゃ。だからぶーにゃはサポートアニマルを名乗れないのにゃ」
しょぼんと項垂れるぶーにゃ。
成る程、だからあの時話を逸らしたのか。
「ダンジョンボスの単独討伐?……つまりぶーにゃさんは、それだけ強力なスキルをもっているんですね」
「黙秘するにゃ」
「イレギュラーって、もしかして、オレがもらい事故でこの世界に来たことと関係がある?」
「分からないにゃ。でもご主人が【異世界の迷い人】の称号持ちだから、この世界に来る時に互いの世界に歪みが生じたはずにゃ。その余波をぶーにゃも食らったみたいにゃ」
「……ぶーにゃのスキルは気になるけど、ダンジョンボスの単独討伐は正直出来る気がしないなぁ。ルミエール、この世界のダンジョンってどういう感じ?」
「色んなタイプがあるよ。多いのは地下洞窟や塔型タイプかな。決まった階層にエリアボスがいて、それを倒さなければ次に進めないし、階層ごとに魔物が変わるんだ。迷宮タイプは謎解きやトラップが付き物で、力技では攻略が出来ないし、ダンジョンボスも一癖あるって聞くよ」
「……ぶーにゃ、単独討伐ってエリアボスじゃ駄目なの?同じダンジョンのボスだから、大雑把に言えばダンジョンボスなわけだし」
「駄目にゃ。ぶーにゃのスキルを活性化するには、ダンジョンボスが持つダンジョンコアが必要なのにゃ。エリアボスはダンジョンコアが生み出した護衛みたいなもので、ダンジョンボスとは全く違うにゃ」
「じゃあクマが冬眠するような洞窟の奥にダンジョンボスが待ち構えているとかはないの?例えば出来立てホヤホヤのダンジョンで、ボスしかいない感じ」
「天文学的確率にゃ。しかもご主人が単独討伐できる強さも加えると非現実的すぎるにゃ」
「そっか……。でもさ、ぶーにゃがスキルを使えなくたって、この短時間で何回もオレを助けてくれてるじゃん。オレにとってぶーにゃは頼もしいサポートアニマルだよ。それにこれから先、オレでもワンパンで倒せるボスに出会えるかもしれないし、そんなにしょげないでよ」
「……にゃ。ご主人意外といい奴にゃ」
「という事で、ぶーにゃは引き続きオレのサポートアニマルって事でよろしく」
テーブルの上のぶーにゃと握手する。
最初ぶーにゃも椅子に足を置き、手をテーブルに乗せていたのだけど、心配になるくらいびよ~んと伸びていたので、テーブルに乗ってもらったのだ。
ふわふわの腹毛の誘惑に負けそうになっていた事は内緒だ。
「ぶーにゃにお任せにゃ。……ところでご主人、そろそろ理由を話せるにゃ?」
「うん。……ええと、実はオレ、寿命とかが見える死神の目っていうスキルを持ってるんだ。それで、さっきの男女の頭上に57と59っていう数字が見えて、あれなんだろって思ってると、二人が受付嬢と話した瞬間、数字がいきなり3に変わったんだ。しかも数字の色も緑から赤になって点滅してて、すごく意味深というか不気味に思えて。スキルを使ったわけじゃないし、数字が見えたのも初めてだし、あれが本当に寿命がどうかも分からないけど、どうしても気になって……」
赤く点滅する数字を思い出すだけで鳥肌が立つ。
「今も数字が見えているのか?」
「いえ、あの時だけです。スキルレベルが1だから発動しにくいのかも」
「サンズくん、スキルにはアクティブスキルとパッシブスキルがあるんだ。ロックのスラッシュや、僕のライトアローみたいに意図して使うのがアクティブスキル、ナナのスピード上昇やハッチの演算能力みたいな自動的に発動するのがパッシブスキルで、今回サンズくんの意思に関係なく発動したって事だから、死神の目はパッシブスキルなのかもしれない」
「オレの意思に関係なく発動するのはちょっと嫌だな。スキルレベルが上がるとそこら中に数字が見えて数字酔いしそう」
「ぶーにゃさんの考えは?サンズくんのスキルについて一番詳しそうだけど」
「ご主人はまだこの世界に馴染んでいないから、スキルが不安定なのにゃ。だから死神の目もまだアクティブスキルかパッシブスキルか決まっていない状態にゃ」
馴染んでいないって何かボッチっぽくて嫌だな。
「サンズくん!試しに僕に死神の目を使ってみない?」
ルミエールがキラキラした目で体を乗り出してくる。
「殿下!何でも試すのはおやめください!ぶーにゃ殿もスキルが不安定だと言っていたでしょう!何かあればどうするのです!」
「ロック、いい加減その呼び方はやめてよ。ぶーにゃさん、どうかな?危険はある?」
「危険はないけど、今のご主人じゃ何も見えないと思うにゃ」
「はい!はい!俺思うんだけど、死神の目がアクティブかパッシブか決まっていない今なら、気合いを入れたら効果がアップするんじゃないか?」
隣のハッチが両手を上げてオレを見てくる。
大興奮だ。
「気合い?」
「そう!サンズはさ、何で皆アクティブスキルを口に出すか不思議に思わない?……あ、こっちに来たばかりだから、まだ使ってるとこ見たことないか」
「実際に見たことはないけど、確かに何で敵に対処されかねないのにわざわざ技名を口にするのかなと思ったことはある」
「だろ?それがさ、アクティブスキルは口に出した方が目に見えて威力が上がるんだよ!強敵相手に絶体絶命のピンチに陥っても、諦めずに乾坤一擲、火事場の馬鹿力、全身全霊でスキルを叫んで見事死の淵から生還したって話も多いんだ。だからサンズも思いっきり叫べばルミエール様のステータスが見られるかもしれない!なぁ母さん!母さんもそう思うだろ?」
「……まあハッチの言う事は間違っていないわね。口に出す事で心技一体になるというか、ゾーンに入りやすくなるのよ」
「サンズくん、お願いだよ。僕はね、退屈な毎日に嫌気が差してるんだ」
「うーん。ぶーにゃ、本当に危険はないの?」
「問題ないにゃ。でも見る対象を一つに絞った方が見える可能性が上がると思うにゃ」
お願いお願いとオレを拝んでくるルミエール。
この世界、異世界のわりに見覚えのある仕草が多い気がする。
……そういえばルミエールって王族特有の呪いに掛かってるんだっけ。
スキルの名前的にも呪いとの親和性は悪くなさそうだし、呪いに絞って見てみようかな。
「分かった。……ルミエール、恥ずかしい事とか見えても知らないよ?後から怒るのは無しだから」
「もちろん怒ったりしないよ!あ~このワクワク感、久しぶりだ!さあ!いつでもどうぞ!」
「フゥー、いきます!」
目に力を入れて、小さい頃したヒーローごっこを思い出して腹の底から叫ぶんだ。
「しぃーにぃーがぁーみぃーのぉーー、めぇーーーーーっ!!」
名前:ルミエール・スカイ・###
種族:##エルフ
##:〚前王太后セレス・シー・サードの呪い〛
加護:始祖の祝福
「見えた!」
「え!本当に!?何が見えた?何が見えた?」
「ご主人すごいにゃ!」
「サンズ、さっき手から何か出そうだったぞ!」
大盛り上がりの若者とは対照的に、ロックさんとナナさんは言葉にならない様子で固まっている。
まあ王族のステータスって秘中の秘だもんね。
レベル1のスキルで看破されるとか普通思わないよね。
「えーと、先ず見えた文字だけ言うね?名前がルミエール・スカイ、種族がエルフ、前王太后セレス・シー・サードの呪い、加護が始祖の──」
ガタガタッと椅子がひっくり返る音で思わず口をつぐむ。
ルミエールが先ほどと一転、某司令官のポーズで固まり、ロックさんとナナさん、ハッチまで怒髪天を衝く形相になっていたのだ。
ぶーにゃと抱き合いながら、四人の豹変に慄いていると、最初に動いたのはルミエールだった。
「──サンズくん、ごめんね、驚かせて。最後のところ、もう一度聞いてもいい?」
怒りを必死に抑えているような淡々とした声に、内心ビビりまくる。
イケメンの無表情マジ怖い。
「え、あ、うん。始祖の祝福だよ。見えたのはそれだけ」
「そっか、ありがとう。本当にこの恩をどう返せばいいか……。サンズくん、改めて挨拶させて欲しい。僕ルミエールは、サンズくんのサポーターとして全力を尽くすと誓うよ。ロック、ナナ、ハッチ、わかっているね?」
「はっ!我が一族、サンズ殿、ぶーにゃ殿に礼を尽くすことを誓います」
「「誓います」」
「あ、はい。どうも……。でも堅苦しいのは苦手なんで殿呼びは止めて欲しいです。後これからも変わらずルミエールを優先してください」
「ごめんね、サンズくん。気を遣わせてしまった」
「いやいや、気にしないで」
夕食の時間が近いから一旦お開きにする事になった。
ロックさんが予め夕食は部屋に届けるように頼んでいたので、食事が運ばれてきたら集合し、先ほどの男女コンビについてどうするかを話し合うことにしたのだ。
流石にね、オレでも分かるよ。
ヤバい事を口にしたんだろうなって。
でもさ、オレは空気を読んだ。
昔から言うじゃん?
触らぬ神に祟りなしって。
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