異世界に行ったら死神になったけど、気にせずスローライフを楽しむつもり。

紫ヶ丘

第1話 ステータスオープン


 


 オレは渡瀬命。

 中高大一貫校に進学して約半年。

 初めての学園祭の出し物は、一辺の長さが十五センチの板を各々彩色し、カラーアートとして展示することに決まった。


 担任と体育教師に引率され、クラスメイト全員で近くのホームセンターに板と彩色用の道具を買い出しに行った帰り、校舎前でふと上を見上げると、真上に不気味な笑みを浮かべる女が落ちてきて、オレは咄嗟に目を瞑ってしゃがみ込んだ。


 …………?

 待てど暮らせど衝撃が来ない。

 屋上から飛び降りたっぽいあの女は幻だった?


 恐る恐る目を開けると、何故か見慣れた学校ではなく、日本ではあまり見かけない石造りの家が並ぶ石畳の敷かれた路地裏に立っていた。



 「……狐に化かされた?」



 ざわめきの方に顔を向けると、表通りなのか、老若男女が行き交う様子が見えた。



 「……コスプレ大会?」



 出場すれば上位入賞間違いなしのカラフルカラーの髪や目をしたゴリゴリのコスプレ集団が、和気藹々と肉串などを食べ歩きする姿は、某ゲームショウを彷彿させる。


 ただしこちらの方が着こなしが半端ない。

 コスプレ特有のチープさや着せられた感が全く無いのだ。

 髪や目も同様で、カツラやカラコン特有の違和感がない。



 「……もしかして、異世界に来た、とか?」



 まさかね。

 そんなわけない。

 そんな事が起きてたまるもんか。

 ラノベやゲームじゃあるまいし。

 でも、もし、本当に異世界だったら?



 「ステータス、オープン」



 無情にも現れたステータス画面。

 そこに書かれていたのは──



 名前:サンズ (ミコト・ワタラセ)

 年齢:13

 性別:男

 職業:死神

 スキル:死神の目Lv1、 鎌術Lv1、 魂の導きLv1

 称号:川の渡し守 、異世界の迷い人

 装備:暗黒のローブ、 誘いの大鎌、 静謐の腕輪

 サポートアニマル:ぶーにゃ

 サポーター:ルミエール 〈ロック・ナナ・ハッチ〉


 

 何だこれとパニックになりながらも、ステータス画面に触れるとスキルと称号の説明が出た。



 【死神の目】

 寿命などが見える。

 レベルが上がると見えやすくなる。


 【魂の導き】

 魂などを導ける。

 レベルが上がると導きやすくなる。


 【鎌術】

 レベルが上がると鎌を扱いやすくなる。


 【川の渡し守】

 種族を問わず意思の疎通ができる。


 【異世界の迷い人】

 世界の歪みに巻き込まれた者。



 ……何で勝手に改名されたんだろう?

 サンズって確かにオレのニックネームの一つだけど、これよりワッさんとかメイちゃんの方が呼ばれ慣れてるのに……。


 それに職業死神って何?

 オレ、人をやめたの?

 スキルと称号の説明は出たけど、いまいちピンと来ない。


 もしかして川の渡し守って称号があるから名前がサンズになったのかな?


 小学四年生の国語の授業で、桃太郎は正義か悪か?みたいな授業があって、そこから派生して泣いた赤鬼や冥府で働く鬼の話になって、更に三途の川や六文銭の話になって、結局答えが出ずに終わったんだけど、その授業の後でオレの名前が渡瀬命、命を渡らせる、つまり三途の川の渡し守って事じゃん!?今日からお前はサンズな!という流れで二ヶ月くらいサンズと呼ばれていたのだ。


 死神と三途の川って結びつかなくない?

 命を扱うから一纏めにされたの?


 でも何より気になるのが、今のオレの格好だ。

 多分ステータスオープンと言った時に裾を引きずる感じの黒いローブ姿に変わったんだけど、何とその下が全裸だった……。


 死神だから?

 この世界の死神は、靴を履かないし、下着も付けないの?

 風が吹いたら完全アウトな不審者仕様が標準装備なの?


 目深に被った黒いローブ、左手には曰くがありそうな赤銅色の腕輪、これで大鎌を持っていたら、確実に職質される怪しさだ。


 もし迷い込んだのが町の路地裏ではなく町の外だったら、まず間違いなく門番に止められていただろう。



 「──ご主人?大丈夫にゃ?」



 ほんの少しだけ胸を撫で下ろしたオレに話しかけてくる真ん丸毛玉。

 この妙に毛艶がいい白灰色猫の名前はぶーにゃ。

 喋るし二足歩行も出来るサポートアニマルだ。

 ただし本猫曰く「サポートアニマルってなんにゃ?」とのこと。


 でもオレは信じていない。

 何故なら顎下に手を当てて小首を傾げる姿は、とてもあざと可愛いく思えたが、明らかに話を逸らそうとしていたからだ。


 ちなみにサポーターのルミエールは王族特有の呪いのせいで攻撃魔法しか使えない職業【光魔法師】の青年で、剣と盾を扱う職業【騎士】のロックとその妻である職業【狩人】のナナ、二人の子供で俺と同い年、名前の由来は蜂の巣を取った日に妊娠が分かったからという職業【商人】のハッチは、代々王家に仕える一族で、現在は早々に王位継承権を放棄して旅に出たルミエールの従者をしているそうだ。


 自己紹介でサラッと王族だとバラされたけど、オレ王族相手の接し方とか知らないよ?

敬語は不要、呼び捨てで構わない、無礼講でいこうと言われたけど、後々不敬罪で斬り捨て御免にならない?


 しかも本人サポーターの自覚ありで、「大船に乗ったつもりで任せて」とのこと。


 サポーターって支援役だよね?

 オレの認識ではポーション類を投げてくれたり、治癒魔法とかバフデバフとか掛けてくれる人のことなんだけど、ルミエール的には攻撃は最大の防御、大は小を兼ねる、怪我する前に倒せば問題ないっしょ系の考えなのかな?


 ロック、ナナ、ハッチはオレをリーダーとするルミエールの意向に沿うらしく、内心はどうあれオレが同行することを受け入れてくれたようだ。

 

 こうして異世界の路地裏に迷い込んでステータスオープンと言って僅か五分足らずで五人と一匹の即席パーティーが出来たんだけど、ルミエールに身分証を作りに冒険者ギルドに行こうと提案され、異世界あるある来たー!と足を踏み出した瞬間、ローブの下が全裸&裸足だと気付いて今に至る。


 しかも死神なのに肌寒いし足裏も痛い。

 正直このまま裸足で歩くとか、甘やかされて育った一人っ子のオレには無理。


 初対面同様のルミエール達にお金を貸して欲しいとは言いにくいし、理由を聞かれて靴と下着を買いたいからとはとてもじゃないけど言えない。

 だってローブの下が全裸だとバレちゃうじゃん。

 不審者扱いされてパーティーから外されたらオレ生きていく自信がない。


 ぶーにゃ、お金持っていないかな?

 ルミエール達よりぶーにゃにバレる方が傷は浅い気がする。



 「……ご主人、ちょっと耳を貸すのにゃ」



 テシテシとふくらはぎ辺りに感じる肉球。

 屈むのはちょっとと思ったら、スチャッと肩に飛び乗ってきた意外と身軽なぶーにゃ。



 「──試しにクローズ・セットと言ってみるにゃ」


 「くろうず・せっと?」



 効果は抜群だった。

 何と怪しさ満載の全裸ローブ姿から、ベスト付きの長袖チェニック&長ズボン(下着有り)、ショートブーツ(靴下有り)姿にメタモルフォーゼしたのだ!



 「ぶーにゃにお任せにゃ」



 ウインク出来る猫っているんだと思ったが、心からの感謝と驚きで言葉にならない。

 後で感謝の品を贈らなきゃだ。

 刹那脳裏によぎった足裏汚れてね?というのは隅に追いやって、「お待たせしました」とルミエール達に素知らぬ顔で頭を下げる。



 「成る程、街歩き用の装いにしたんだね。もしかしてその腕輪がアイテムボックス?便利だよね。僕はこのピアス型アミュレットがアイテムボックスなんだ」


 ルミエールが両耳の緑色のピアスを指差して教えてくれるが、悪い奴らに聞かれたら耳たぶ持っていかれそうで心配だ。

 オレ多分カツアゲされたら腕輪投げて逃げると思うから。



 「残念ながらご主人のアイテムボックスは空っぽにゃ。職業決定で貰える武器と着替えが数着しか入ってなかったにゃ。お金もこの世界では使えないから、好事家に売るなりしないと無一文にゃ」



 成る程、行方不明だと思っていた武器はこの腕輪の中に入ってるのか。

 ぶーにゃは腕輪について詳しそうだから後で中身の見方を教えてもらおう。

 


 「へえ、何なら僕が買い取るよ?異世界のお金に興味があるから」


 「お願いしたいけど所持金がいくらあるか分からないんだ」


 「ご主人、ステータス画面を切り替えてみるにゃ。右上にアイテムボックス欄があるはずにゃ」


 「えーと、あ、本当だ。アイテムボックス欄がある。……え?これ金額バグってない?」



 三千万円以上入ってるんだけど。

 確かに親戚が多くてお年玉も使わずに貯めていたけど、それにしたって多すぎる。

 両親がこっそり積立してくれてた分も入ってるのかな?


  誘いの大鎌も確認出来た。

 大鎌って言うくらいだから大きいんだよね。

 スキルがあるとは言え、草刈りもしたことないオレに扱えるのかな?


 着替えは先程まで着ていた制服と革靴、ジャージと運動靴、家で寝間着にしていたスウェット上下とスリッパ、靴下と下着類が四組。

 肌が弱いから肌着もあって良かった。



 「ご主人、ステータス画面は基本本人にしか見えないにゃ。予想より多くても少なくてもお口チャックが安心安全にゃ」


 「うん、分かった」


 「幸い冒険者登録は無料にゃ。身分証を作った後でゆっくり金額交渉すると良いにゃ。ぶーにゃも参戦するにゃ」


 「ぶーにゃさんも参戦すると言う事は、珍しいお金なんですね?楽しみだなぁ。サンズくん、早く冒険者ギルドに行こう!」



 ルミエールがキラキラした目でオレを見てくる。

 耳は普通だけど、金髪碧眼でエルフっぽいし、めちゃくちゃモテるんだろうなぁ。


 別に羨ましくないから。

 オレだって成長すれば背も伸びてイケメンになる可能性があるから。

 多分、きっと、なれたらいいな……。


 とりあえず先ずは冒険者ギルドだ。

 ラノベに有りがちなモテモテ受付嬢が実在するのか遠目で確認したい。

 ああいうのは傍観者として見るのがいいんだよ。

 巻き込まれたら面倒くさいからね。


 

 


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