第3話契約の儀~怨霊~

"怨霊"それは災いの一つ。




 人間は「肉体」と「精神」と「感情」この3個の要素が均等に組み合わさってできている。




 しかしごく稀に感情は肉体を傷つける...人間はひどく絶望に見舞われた時、何も信じられなくなった時、自分を否定された時、孤独を感じ人から傷つけられた時。




 このような経験を経験すると、感情と肉体のつり合いが取れなくなり、自分の体を傷つけ、肉体を滅ぼしてしまう。




 "感情"と言うものは肉体に深く根付いており、肉体が消えると感情も消えてしまう。そうすることで自我を失い、暴走してしまう。




 しかし大抵の人間は肉体を滅ぼす前に、感情をコントロールして怨霊にならずに済む。




 だが、感情をコントロールする暇もなく、感情が肉体を滅ぼしてしまった場合、負の感情が精神に刻み込まれ、悲しみを背負った化け物が生まれてしまう。




 大抵怨霊となった化け物が生まれた場合即座に討伐隊が組まれ討伐される。生まれてすぐだと小さな街でも対処できるが、長く生きると国が戦わないと勝てなくなってくる。




 怨霊の厄介なところは記憶を"継承"すると言うことだ。つまり戦ったことがない、刃物を握ったことがない人すら、達人級の剣や槍を使って攻撃をしてくる。だからこそ怨霊は対処に人がいるというわけだ。




 また、たまに極低確率で自我を持つ怨霊が生まれる。負の感情と自分の意識を精神に刻み込んだ場合自我を失わない。




 だがそれも数百年に1度だけ。し・か・し・狙って自我持ちを生まれさせる方法もある。それは呪いを受けた武器、それも知性を持つ武器が使用者に限りなく根付くことで使用者の同意を得た上で怨霊化させることがある。




***




ある宿屋の部屋の中で___




「はぁ、今日は疲れた。出費も多かったし、職業についてお金を手に入れないと不味そうだね……」




 私は宿屋のベッドの上でそう呟いた。そうするとどこからか




「おいそこの女!」どこからかそう聞こえてきた。




「えっ、どこから声が?」私は部屋の中を見渡した。




「お前の前にいるよ!見えてんだろ!」私が声のする方向を見るとまさかの槍のルヴァンシュ喋っていた。




「何で槍が喋ってるの?」私は恐怖を感じながらルヴァンシュに聞いた。




「俺は元々知性があったからな、前の持ち主が死んで眠ってたが、お前がそれを起こしたよ。」




話を聞いてる限りだと眠っていたところを私が起こしたらしい。




「ところで君、体の内側にすごい憎しみ、それも呪いを抱えてるね。」




「な、何であなたが私の憎しみを知っているの?それに呪いって何?」




 私は"呪い"という言葉に思い当たりがなかった。家族を殺すように仕向けた敵を殺す。私は今はそれで生きている。




「君の中の憎しみが積もり積もって呪いに変化していってる。これだったら"怨霊化"できるかも知れないね。」




「"怨霊化"って何?」




 私は見当もつかずに聞き返した。怨霊という言葉は聞いたことがあるが、怨霊化は聞いたことがない。




「そのまんまの意味だよ。人を人工的に怨霊にするんだ。僕みたいな武器は呪いの事がとても好物なんだ。それが怨霊化した人の呪いや憎しみなら、後僕は憎しみの分だけ武器が強化されていくんだよ。」




 ルヴァンシュはそう誇らしげに言った。それが本当なら、ルヴァンシュは私を怨霊にしようとしているということだった。




「私を怨霊にするって……私の復讐のために力を貸してくれるの?けど怨霊になったら自我がなくなるんじゃ?」




「いいや、僕みたいな呪いの武器が使用者を怨霊化させると自我は消えないよ、まあ普通の呪いの武器は怨霊化するのに一年ぐらいかかるけど、僕の場合は"契約"することですぐに怨霊にできるけどね。」




「復讐って言っても君がどんなことを体験してきたか知らないから、何もできないよ?」




 私はルヴァンシュに今までのことを全て話した。打ち明けるのは初めてだったから話しているうちに涙が出てきた。




***




「へぇそんな事があったんだ。だからこんなに憎しみと呪いが詰まっているんだね。」




 ルヴァンシュはまるでおいしそうな食べ物を見つけたかのように話した。




「まぁ使用者に対して、契約を行うのはとても簡単なんだけどね。」




「じゃあ私と契約してくれない?私は絶対に王国に復讐をして街のみんな、家族の無念を晴らしたい!」




「僕が考えた契約内容を2つ提示して片方を選んで欲しい。もし、両方無理だったら契約破棄と言えば契約は成立しないからね。」




そう言ってルヴァンシュは1人でに浮き上がった。




「それじゃあ契約の儀始めるよ。」




『汝には2つの道がある1つは全てを破壊しながらこの国全てを滅ぼす道、もう1つはこの国の中枢を破壊してクーデターを起こす道。汝が選ぶ道がどれだけ過酷なものであろうと、私"ルヴァンシュ"は汝の味方であることを誓おう。さあ汝はどちらを選ぶ?』




 私は提示された二つのことをよく考えながら、一つの答えを出した。




「私は…私はクーデターを起こして、この間違っている国を変える!」




『汝はその道を選ぶのだな。よかろう我が名"ルヴァンシュ"の名前に誓って我が力を貸すことを誓おう!』




『汝の名前は?』




 そう人が変わったようなルヴァンシュが聞いてきた。契約をするときには口調を変える必要があるみたいだった。




「私の名前は"イシュディア"復讐を誓うもの」




『よかろう我は契約に則り、イシュディアを怨霊化させる!』




 そうルヴァンシュが言った後部屋の中に風が吹き荒れた。そのすぐ後私の体が崩壊していくのを感じた。その後私の意識は暗闇の底に落ちていった。




***




「ん…んんん…」




 そういって私の意識は目覚めた目を覚ますと肉体の感覚はあるのに肉体は少し透明になっていた。




「なんだか不思議な感じ。自分の体なのに自分の体じゃないみたい。」




「その体は本来の君の体じゃないよ。君自身が呪いや憎しみで自分の体を崩壊させたんだから。」




「僕は君の精神を僕の武器に一度焼き付けておいて君の精神に貼り付けただけだよ。まぁ憎しみと呪いの力を少し増幅させたけど。」




「怨霊化したのは良いけれど体が少し透けているっていうことはちょっと目立つね」




 普段着ている服は露出がないから見えることはないが、色々と不便になりそうだった。




「まぁ肌は隠していいんじゃないの?霊になったから体温とか気にしなくていいし。」




 そうルヴァンシュは怨霊化による恩恵を話してくれた。




「本当だ暑くもないし、寒くもない。じゃあ本当に素肌を晒さないほうがいいね。幸い顔はお面で隠せるわけだし。」




 そういってお面を付けるととルヴァンシュが驚きの声を上げた。




「そのお面すごいね、怨霊化した影響で君の憎しみに当てられて呪いの装備になってるね。えぇと付与効果は、あぁ…」




「なんの付与効果があるの?」




「それ憎しみの量に比例して、能力が上がるようになっているけど…つけると外せないようになってるね。」




「え?はぁ?もう付けちゃったんだけど!これどうするのよ。」




 私は嘆きながら崩れ落ちた。私はもう自分の顔を見ることができないらしい。




「まぁ別に外す時もないし別にいいんじゃない?」




「もう寝るね!」




 私は機嫌を悪くしながらベッドに潜った。




 (契約破棄しようかな)


 私は内心そう思いながら訪れた睡魔に体を預けて眠りについた。




***




 翌朝___




「結局王国の中枢を破壊してクーデターを起こすっていっても何をするの?」




 私はルヴァンシュに尋ねた。私はそんなことを考えたことがなかったので、何をしたらいいかわからなかった。




「簡単じゃないか。王国の騎士団に入って1番偉い人になればいいんだよ。ある程度信用が取れたところで王国の重要人物たちを殺してもいいし、王国そのものを破滅させてもいい。あと君の脳内に色々記憶が流れてきたでしょ?その中に槍の使い方の記憶も含まれていたと思うから、君の鍛錬だね。記憶があっても体が弱すぎるから君も鍛えたほうがいいし。」




ルヴァンシュがやれやれといった感じで答えてくれた。




「内側から王国に対してクーデターを起こすということね。やるなら骨も残さず滅ぼしてこの国を変えてやる。」




 私はそう決意をした。そしてローブを着てルヴァンシュを背負って宿を後にした。




「目指すは王都」私はそう言って王都を目指した___

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