明日晴れたら願いが叶ったことにしようよ
葉山ひつじ
第1話 違うよと言い切れなかった
「それって逃げじゃね?」
友人の運転する軽自動車の助手席。車内では学生時代に流行った曲が流れている。最近の歌番組って踊ってばっかじゃね? 俺は歌が聞きたいだけなのに。幾分寂しそうにぼやいてから、お気に入りだというプレイリストを再生する。
「逃げてる、のかな」
僕は友人の運転している横顔を見る。気分を害しているわけではなさそうだった。
「別に悪いって言ってるわけじゃないよ。お前がそれを選んだならさ」
「もちろん。自分の意思で選んだことだよ」
今度プロポーズしようと思ってるんだ。近況報告の延長線上。僕自身も気取って言うような話題ではないと承知している。それでもやっぱり緊張はするだろうから、既婚者の友人からアドバイスのひとつでも貰えたら幸いくらいには考えていた。
信号が赤になる。友人の運転はいつも丁寧だ。慎重にブレーキを踏んで止まる。
「プロを目指してたんじゃないのかよ」
「別に。結婚したってプロくらい目指せるよ」
言ってしまってから気づく。それこそ逃げてしまったのだと。
「そっか。まあいまは。色んなデビューの仕方があるっていうもんな」
「プロポーズのアドバイスとかを聞くつもりだったんだけど」
信号が青になった。ゆっくりとアクセルを踏み込んでいるのだろう。滑らかに動き出す。
「逃げじゃなくて。進むって決めたんなら。何だっていいんじゃない?」
車は農道を走っている。どこまでも続きそうな見慣れた田園風景。その彩りに紛れようとして僕が選んだ先。
後ろの車が反対車線に切り替わり、この車を追い抜こうとしている。ぐんぐんとスピードをあげて、完全に追い抜いた。
「急いだってさあ。どうせ死ぬんだよ? いつか俺たち」
追い抜かれた友人が呆れたようにそう言った。
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