第3話 「嫌な予感が致しますわ」

「……やはり、居ますわね。」

姫は扉の隙間からこっそりと廊下の様子を探り、先ほどと全く変わらない同じ状況な事を確認する。

……つまり。

「……あれは夢ではなく現実だった、と言う事ですわね。」

姫は廊下の様子を確認し、再び牢の中へと戻りそして頭を少し働かせる。

ここから脱出するにはあの廊下の扉から出るしか方法は無い。それ以外に方法は無いのだが、廊下には見張りの兵士がいるのだ。

……ラミスはこの脱出が困難かつ、絶望的な状況に頭を悩ませる。

「うーん、しばらく様子を見ようかしら?もしかすると、その内見張りの兵士が居なくなる可能性もありますし。」

鍵はあるのだから、脱出は何時いつでも可能ではある。しかしそれは少し危険でもある。……多少、嫌な予感がしないでもない。


姫はしばらく考え事をしていた。すると扉の向こうから声が聞こえ始める。

「……誰か、来たみたいですわね。」

……嫌な予感はしていた。やはり、もう少し早く決断し脱出を図った方が良かったのではないか?と、姫は後悔する事になる。


扉からは、三人の人物が入って来た。護衛の兵士が二人と……あの王子だ。

姫はその王子の顔に見覚えがあった。いや、その顔は忘れもしない敵国の王子、姫の国に攻め込んできた敵国。……ヘルニア帝国の第三王子、憎き父の仇である。

「フヒヒヒヒヒヒィ……。久しぶりだなぁ、姫。」

王子はニヤニヤしながら、姫をじろじろ見舐める様に見回してくる。……姫は王子の視線に恐ろしさに背筋に寒気が走った。

「牢の鍵を開けろ!」

兵士の一人がガチャリと鍵を開け、牢の中に王子が入ってくる。

「ふへへへへへへへ……。 」

王子は、にやけた顔でよだれを滴ながら姫ににじみ寄る。

姫は危険を感じ後ろに下がるが牢屋の中は狭く、すぐに壁に追いやられた。

そして、なにやら奇声を発し王子は姫に飛び掛かかる。姫は無我夢中で必死に手を伸ばし、王子が腰に差している小剣を引き抜く。

「……これで!」


……姫は小剣で、王子を刺した。

王子は断末魔の悲鳴を上げ地面に倒れ、姫の手とその綺麗なドレスは真っ赤に染まっていた。

……仕方が無かったとはいえ、自分のした事に体ががくがくと震え姫の顔は真っ青になっていた。

怯え震える手で小剣を握る姫の姿に、兵士達は腹を抱えて笑い出す。

「ハーハッハ!ザマーねぇなぁ!王子さんよぉ!!」

「前から、てめーは気に食わなかったんだよぉ!!」

兵士はそう叫びながら、王子の体を足蹴にする。

……どうやら、相当人望が無い王子だったらしい。

「王子を殺った事は感謝してやるが、お前を生かしたままだと俺達の身が危ねぇからな。」

「悪く思わねぇでくれよな?姫さん!」

兵士は腰から剣を抜き、姫にじりじりと近付いて来る。姫は立ち上がり、震える手で小剣を握り締め身構える。

……怖い。

恐怖に怯え何も出来ない姫君。瞳を閉じ震えながら何度も心の中で、助けてと叫び続けていた。

小剣を手に持っているのだから、戦えば勝てる可能もあるかも知れない。しかし、先ほどの恐怖と感覚が甦り、姫はまた瞳を閉じて震え出す。

兵士の剣は無情にも姫の体を貫き、姫の記憶はそこで途絶える事になった。

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