アストヴァル戦記/傭兵ゼノンの物語

鵺野かげり

第一章/聖騎士カイル・アシュフォード

第1話 使命


 俺の名はカイル・アシュフォード。十九歳。


 イベロニア大陸の西、オーレスラック海峡の向こう、アストヴァル島の北東側約半分を占めるエルダリオ王国の王太子アルフレッド殿下の異母弟として、この世に生を受けた。


 だが王太子と俺は同じ父を持ちながらも、立場は全く違った。

 アルフレッド殿下は王位を継ぐために王城で帝王学を修めた。

 一方の俺は武門であるアシュフォード家の養子となり、騎士道を叩き込まれた。


 生まれたときから、俺の人生は全て殿下を支えるためにあった。剣を握り、聖騎士として力を身につけたのも、全ては殿下の剣となり盾となるためだ。


「カイル、今日の剣筋は見事だった。しかし、力任せに振るうばかりでは、いつか限界が来てしまうだろう」


 殿下はよく、俺の訓練を視察してくださっていた。

 その瞳は、ただの異母弟を見るものではなく、一人の騎士として、将来の国の柱となる者を見定めるような、深く優しい光を宿していた。


「申し訳ございません、殿下。未熟ゆえ……」

「お前は強い。だが、真の強さとは、力だけではない。己の剣が誰のために振るわれるのか、忘れてはならない」


 殿下はそう言って、城下町の方を指差された。


「この王国に生きる民一人一人のために、お前の剣はそれを守る光となるのだ。決して、ただの凶器であってはならぬ」


 その言葉は、まるで澄んだ泉の底まで見通すような、揺るぎない確信に満ちていた。俺は、その時初めて、自分の剣が持つ意味、そして自分自身の存在意義を深く理解できた気がした。


 それから俺は、常に自分の振る舞いが正しいものであるのかと考えるようになった。

 夜に眠り朝に起き、食事を摂り、訓練をする。

 余計な欲に惑わされず、仲間を信頼し、周囲の人々を大切にする。

 そしてそんな俺を、殿下はしっかりと見てくださっていた。


「お前に、王家の聖剣を授けよう。聖騎士として、この国を守ってくれ」

「身に余る光栄にございます……!」


 殿下こそ、常に俺の先を見て、進むべき道を照らしてくださる光だった。だから俺は心から殿下を尊敬し、誇りに思っていた。


「今は五種族連盟と争っている場合ではない。大陸の、グラウエン帝国の脅威から、このアストヴァル島を守らねばならない」


 アルフレッド殿下は真の王太子としての威厳と、民を思いやる優しさを兼ね備えておられた。

 その聡明さ、困難に立ち向かう揺るぎない精神力は、俺のような異母弟には眩しすぎるほどだった。殿下が王国の未来を語る時、その瞳の奥には常に王国民への深い愛情が宿っていた。俺はそんな殿下を心から尊敬し、この剣とこの命で、殿下の描く理想の王国を守り抜きたいと心の底から願っていた。


 あの忌まわしい事件が起こるまでは……

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