第5話 騎士さまはなぜ私を愛するのか(悩)

グレニア様はさっと剣を鞘に納め、私に爽やかな笑みを向けます。

「そこで見ていたのか」


 私が見ているのを承知の上で超かっこいい必殺技を放ったというのに、グレニア様はそんなことをおっしゃいました。

「はい、素敵ですグレニア様。私、私なんとお礼を言っていいか」

 私はグレニア様に走り寄ってその胸に顔を埋めます。

「もう大丈夫だ、そなたは私が守る」

 グレニア様はマントを外して服がぼろぼろになった私にかけてくれます。

「うれしい」

 私は頬を赤らめます。

 

 そこで低く太い声が響きました。


「何をしているグレニア」

 

 振り向くと、そこには身の丈二メートルを超える筋骨隆々とした騎士が立っていました。その横にはすっぽりとフードを被り、容貌のうかがいしれない痩身の方も居ます。

 

 この方々の名もすぐに知ることができました。

「ランベルト兄貴。それにゴーフェスも。どうした二人揃って」

「どうした、はこっちの台詞だグレニア」

 ゴーフェス様はごほごほと咳をします。

 お体でも悪いのでしょうか。


「おまえとソロスが何やら争っていると聞いて来てみれば、なんたること。殺してしまったのか。嘆かわしい。短慮にもほどがある」

 

 お二人はいかにも驚いたように仰りますが、私は環視の騎士様たちの影からこの方たちが決闘の様子を終始うかがっていたことを知っています。


「違うんだ、聞いてくれ二人とも。やつは治療にかこつけて女巡礼を囲い込み、隠れて非道な振る舞いを――」

「言い訳など聞きたくはない。おまえにはすでに正当な故無き決闘を行った疑いが掛けられている。今すぐこの場を去れ。そして自室にて謹慎せよ」

 

 グレニア様は言葉に詰まります。

 そして、ごく小さな、それこそすぐそばに居る私にしか聞こえないような声でこう言います。


「横取りかよ」

 

 ランベルト様がすぐに反応します。

「おい!? 今何か言ったか?」

「な、何も言ってないよ兄貴」

「早く消えろ。後は我らに任せよ」

 グレニア様は無言で去って行きました。

 

 後に聞いたところによると、彼が地下牢に幽閉されたのはこの直後だったようです。

 ところで、魔王討伐パーティ様にも内部に序列というものがある様子です。

 これは大収穫です。

 私は迷うことなくランベルト様の元に行きます。


「ああ、ランベルト様。御高名はかねがねうかがっております。ご尊顔を拝すること叶って望外の幸せと存じます」

 ソロス様の時と全く同じ口上です。

 

 私が真っすぐな視線を向けると、ランベルト様の厳めしい顔が困惑したように横を向きます。

 さっきまでの居丈高な態度が嘘のように消えます。


 おや?


「あ、ああ、そうか」

 ぼそぼそと言ってそれきり黙ります。

 

 間がもたない空気を察したらしく、ゴーフェス様がかすれた声で横から言います。

「ごほごほ、お嬢さん、わかってると思うが、そして当然何度も聞かされていると思うが、あんたはこの島ではまったく歓迎されていない。くれぐれも自重してくれ。そして次の巡礼の便では必ずこの島を去ってくれよ」

 なかなか毅然とした態度です。

 

 私は深く首を垂れます。

「はい、ご𠮟責、当然のこととして心得ておきます」

 そして私は逃げる隙も与えずゴーフェス様の手を取ります。

 その手は手汗で盛大に濡れていました。

「う、わっ、わかってくれればいいんだ!」

 つっけんどんに言ってゴーフェス様は私の手を振りほどきます。


 おやおや?


 ランベルト様、ゴーフェス様、共に顔を紅潮なさっておいでです。

 私はこの方々に対してはなるべく体に触りながら話しかけることが重要だと確信しました。


「と、とりあえず、あなたには専用の部屋をあてがいますので、そこで大人しくしていてください。あまり歩き回られると、あー、その、治安が乱れるのです」

 

 私は短く息を飲んで顔を伏せます。

 そして辛そうに涙を流します。


「わかりました。ではその部屋には鍵をかけて外に出られないようにしてください。それが私にはふさわしく存じます」


 お二方は慌てます。

「い、いや、そこまでやるつもりはない」

「ごほごほ、そうだ、我々はあなたに対して圧を加えるつもりは無いのだ、決して」


「御恩情感謝します。さすが御高名な騎士様たちです」

 私は再び首を垂れます。

 

 案内された部屋は、今まで過ごしていたそれとは雲泥の差でした。


 細かい彫刻が施された調度が一そろい。

 

 床にはアナトリア産の豪奢な絨毯。

 

 テーブル上の花瓶や水差しはトルチェロ産の繊細かつ華麗なガラス製品。

 私は先ず最初に姿見にテーブルクロスをかけて、自分の姿が見えないようにします。

 これは士気に関わることなので最後まで外せません。

 次に風通しを良くするために窓を開くと、そこはそのまま歩いて庭園に出ていける構造になっていました。

 

 庭園には何人かの騎士様たちが居り、植木の剪定などしておりましたが、彼らはそれまで私の部屋に向けていた視線を慌ててそらします。


 私は満面の笑みを浮かべて、大きく手を振ります。

 彼らはますます体を小さくします。

 おそらく頬を赤らめていることでしょう。

 確かな手ごたえを感じました。

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