第4話 第一章『出会い編』 【1-1】モブ刺される。そして、異世界へ召喚される
「できた。できたぞ・・・・・・っ」
窓の外から明るい陽が差し、 外はスズメが鳴いている。そんなうららかな連休明けの月曜日に、それはようやく完成した。
一昨日から一睡もせずにプロット作りに没頭していたから、押し寄せてくる睡魔が凄まじい。学生時代は徹夜なんて当たり前のようにこなしていたが年齢を重ね三十近くにもなると身体が悲鳴を上げる。しかし、 それでも今回は音を上げるわけにはいかなかった。 ゲームクリエイターという職について七年。とりわけ目立った成果をだせず上司、同僚、 後輩に馬鹿にされる日々だったがそれも今日開かれる社内プレゼンに通れば、その日々ともおさらばだ。今回は自信がある。周囲の人間にも見てもらって良い評判の声を貰っている。
「行ってきまーす」
結局そのまま一睡もせず、プロットをいれたカバンを持っていつも通りの時間に家を出る。
少しでも寝たら夕方まで爆睡コースというのが分かり切っているし、何よりも一刻も早く会社に行きたかった。だって少しでも早く出来上がったプロットを見てもらいたかったから。そう思って歩を進める。足は前へ、前へ。
使命感なのか、例えようのない感情に突き動かされていく。
「はぁ、はぁ」
少し歩いただけで、ほとんど寝てないせいか、呼吸は荒く、耳鳴りまで聞こえてくる。まるで、金属同士がぶつかったような音だ。
違和感の正体を探る為に、俺は足を止めた。途端、ドスッ! っと、俺の背中に焼けるような痛みがはしる。
「──ァァァアアアアアアアアアアアアアアアアッッッ⁉ 」
荒々しい咆哮をあげ、後ろの方へと視線を向けた。そこには、包丁を持ち、フードを目深に被った誰かがニャリと不敵な笑みを浮かべる姿があった。息が切れ、足がふらつき、滲み出る汗と、涙が目に入って視界が汚れる。
「はぁ、はぁ」
背中が熱い。痛いとかそんな感覚通り越して、背中が熱い。
なんだこれ? 熱すぎる・・・・・・勘弁して欲しい。
─死ぬ。
────殺される。
恐怖に支配される感覚の中で、俺は間近に迫るそれを知覚する。
─おいバカ。マジでふざけんな
「あ・・・・・・」
次の瞬間、言葉を遮るように、包丁の切っ先が迫ってくる。声にならない叫び声が耳に響き、再びすさまじい痛みが体を貫く。
「ぬぅぅぅうううぅ。ざぁけんなぁー」
叫び、渾身の力で自分の腹に刺さるナイフを引き抜く。
「―っらぁ! 」
「―ッ! 」
引き抜いたナイフを前に突き出したまま相手にタックルをぶち込んで吹き飛ばす。勢いのままに体は大きく体勢を崩して、地面に倒れ込む。
ダメだ。もう動けねぇ。
その後もすさまじい勢いで血が失われ意識が遠くへ行ってしまう。そのせいなのか、俺を襲った奴の気配がない。俺を殺したと思って帰ったのか、あるいは、俺の渾身のタックルが効いたのか、まぁ。そんなことどうでもいいか。
すでに精神は磨耗し、意識も途切れかけている。
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「俺は・・・・・・いったい、何のために・・・・・・っ」
泣き言が零れ、涙が思わず視界をぼやけさせる。
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そして、世界が暗転した。
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