第7章 出立
ディオン駐屯騎士団 司令官室-
「来たか。」
「ちーす、サイモンさん。デルヒアさんもちーっす。」
「ったく、お前・・・まーた色々とやってくれたみたいだな。」
「え?あ、ああー、うん。やった・・・やったかな?」
「かな?じゃねーよ。かな?じゃ。」
「へへ・・・」
「とりあえずディオン駐屯部隊を代表して言う。王国を守ってくれた事、そしてうちのマキを助けてくれた事、心から感謝する。」
サイモンは席から立ち上がり、ヒロに頭を下げた。
「えっ!そんな、いいよ。気にし・・・」
次の瞬間、胸倉を掴まれてヒロは宙に浮いていた。
「いいか、坊主。二度は言わねえ。・・・今後、俺の知らねえとこで一人で敵の巣に
突っ込むような真似は絶対にするんじゃねえ。まずはこの俺に報告と相談をして
からだ。分かったか?・・・あんっ!?」
顔を丸ごと食べられそうな程にサイモンの顔が近い。
「ハイ。マジサーセンッシタ。」
足をぷらんぷらんさせながら謝った。
「今回は初回って事で見逃してやる。ただし、次はねーぞ。」
サイモンは怒りを飲み込んでヒロを離し、椅子に座った。
「総司令はな、報告を聞いた途端、貴殿の事を心配して真っ青な顔で現場に駆け付け
ようとなさったんだ。少しは察し-」
「おい、勝手に余計な事をペラペラ喋ってんじゃねーぞ、デルヒア。」
サイモンに顔面を鷲掴みにされてプルプル震えだすデルヒア。
窓の外には、王都からクリシュナ経済連合、通称「経連」の総勢20余名から
なる武装した移送隊の一団が到着したようだった。
「サイモン総司令、お久しぶりです。」
「おう、ナギ。元気にしてたか?」
「はい!お陰様で!」
太い眉がどことなく愛嬌のある赤髪の青年が敬礼をして見せた。
「出世したそうだな。頑張れよ、隊長。」
「はっ!精進致します!」
「それでだ。・・・現物はもう見たか?」
「ええ、先程。我が隊の精鋭の鑑定士でも目利きが及ばない程、素晴らしい品質の
魂核と軟化魔結晶体、そして竜牙でした。あれなら古竜王から採れたと聞いても十分
納得出来ますね・・・。品々は既に納品馬車に積み終えて、厳重に封印保管してありま
すのでご安心下さい。」
「そうか。頼んだぞ。」
「はっ!全力で今回の移送作戦を完遂させる所存です!」
隊長の目に強い決意が籠る。
「良い顔つきだ。じゃあ紹介しておこうか。この御仁がこの度、二度に渡って鏡の森
を鎮められたホロ殿だ。」
サイモンの隣で目深い濃紺のローブを着こんだ男が会釈をする。
フードから覗く顔は、豊かな髭を蓄えた老人のそれだった。
「ヒロ・・・ちゃう、ホロと申すっす。王都までよろしくお頼み申すっす。」
-チッ・・・こいつどこまで演技が下手なんだ?。・・・わざとじゃねーだろうな。
サイモンは偽装の能力を使って変装しているヒロを横目で睨んだ。
「初めまして、お噂は予々聞いております!鏡の森の鎮守様、ホロ殿にお会い出来て
本当に光栄です!私はクリシュナ経済連合輸送第七部隊の隊長を務めております、
カンナギと申します!」
ガチガチの敬礼を見せるカンナギ。
「こいつは元は俺の部下でなぁ。可愛がってたんだが、有能過ぎて経連に引き抜かれ
ちまったんだよ。」
「よ、よしてくださいよ、総司令。」
-はぁ?・・・か、鏡の森の鎮守様?なんだその超ダサい通り名は。マジか。
衝撃を受けているヒロに向かってカンナギが握手を差し出した。
「4日半の旅程になりますが、どうかよろしくお願い致します!何かありましたら
遠慮無くお知らせ下さい!」
「あ・・・はい。」
カンナギはガッチリと両手で握手をしたまま目をキラキラ輝かせていた。
「ん?・・・そろそろだな。」
空気を読んだサイモンが背後の移送部隊の動きを一瞥する。
クリシュナ王国を象徴する「金の聖十字」と経連を象徴する「銀の三日月」を
重ねて刺繍した軽装防具を着こんだ男が、こちらに向けて走って来た。
「隊長、間もなく正午になります。帰還時の隊列陣形と旅程の確認、及び出発点検
が終わりました。」
「分かった。保管馬車を中心に整列。点呼して出発する。」
「はっ!」
「話し込んでしまってすみませんでした。では総司令、行って参ります。ホロ殿、
うちの移送部隊に紹介致しますので、ご足労ですが少しご同伴願えますでしょう
か。その後、ご乗車戴きます貴賓専用馬車にご案内致します。」
「ういーっす。」
「そんな返事をする爺はいねえっ。」
ヒロの耳元でサイモンが軽くキレる。
「うむ、よかろう。」
ヒロは言い直してから、生まれて初めての馬車の旅に浮かれて、足取りも軽やか
に歩き出した。
「あっ、ホロ殿、こちらです!」
「ういーっす。」
-こいつ・・・。
サイモンがプルプル震えた。
ヒロ、もといホロ老人は豪奢な馬車の客車にたった一人で座っていた。
絶対に素性がバレると判断したサイモンが、カンナギに移動中の専用客車内の
人払いを頼んだからである。
おかげでヒロは「人間嫌いで会話不全になりやすい、ヘソを曲げるとかなり厄介
な偏屈爺」という新たな設定を得る事となった。
「あー・・・思った以上に暇だなー・・・。」
窓枠に肘をつき、ボーッと外を眺めていたヒロが思わず呟いた。
何度目かの欠伸をしながら夕陽で赤く染まる黄金の草原に目をやると、穂が吹き
抜ける風によって豊かな海原のように揺れていた。
その美しい光景が、なぜか魔狼王の美しい毛並みを思い起こさせた。
「下郎・・・ねえ。」
ふと魔狼王が遺した言葉が胸をつく。
「・・・仕方ねーじゃん。お前らは敵なんだし。金にもなるし。」
威嚇強制で完全に絶望した、魔狼王の深紅の眼が思い出される。
「・・・ふぅ。」
思わずため息が出る。
赤い海原の遥か先には白く連なる山脈が見えている。
-逆に、あいつ等から見たらあの時の俺って・・・
胸がチクリと痛む。
あえて考えないようにしていると、馬車が軽い下りの傾斜に入ったように感じ、
窓から顔を出して前方を見つめた。
「おー・・・」
顔に当たる涼しい夕風が心地良い。
「ホロ殿、どうかなさいましたか!」
並走していた要人護衛担当の責任者、ボンドという男が馬を寄せて来た。
「いあー、風が気持ち良いからさ!」
「御者席の隣も空いております!ご自由に移動なさって下さい!」
「ありがと!」
ボンドが軽く手を振り、定位置に戻っていく。
今晩の野営地、タオタの丘が見えて来た。
「おっふ!う、・・・うんっま!」
ボンド、そして同じく護衛担当のジョセフ、ルカの3人と共にヒロは夕食の山菜鍋
をつついていた。
山菜や兎肉など鍋に入れてる具材は一般的な物が多いが、希少な「夏香茸」という茸が芳醇な香りを出汁に染み込ませていた。
「どうです、旨いでしょう?この夏香茸ってやつはですね、今の時期にこの渓谷周辺
でしか採れない珍しい茸なんですよ。ほんのちょこっとだけ土から頭出してたりする
んで、日当たりの悪い斜面をじっくりと丁寧に見て回るのが採取のコツですね。」
夏香茸を採って来た本人であるジョセフが、満面の笑みで夏香茸を口に放り込ん
だ。
茸の柄は岩兎の腿肉に似た歯応えのある柔らかな食感で、傘の部分を噛むと深み
のある魅惑的な香りが口内を満たした。
「へー、そうなんだ!であるか!・・・マジで、これうっま・・・熱っ!・・・うまいで
候。」
ボンドが苦笑する。
「私の祖父も会話を得手とする類の人間ではありませんでした。何も気負わずに
普段通り接して下さって結構ですので。」
「う、うむ。」
「お替りもありますよ。如何です?」
ルカがヒロの椀を受け取ろうと手を伸ばす。
「お願いぃ申す!」
-なんだ、この人達。めっちゃ良い人じゃん!!今の言葉、サイモンのおっさんに
聞かせてやりたかったぜっ!
「うんっっま!」
ヒロが山菜鍋に舌鼓を打った時、
「敵襲っっ!!」
突然、カンナギの鋭い声が夜の丘に響き渡った。
月明りと焚火に照らし出された限られた視界の中、立て続けに何十本もの矢が
夜の空気を切り裂いていく。
-しくった!索敵だけでも常時発動させとくべきだったか!
だが、ヒロは矢を躱す必要性さえも全く感じなかった。
既に有能な守護精霊・・・闇の大精霊ヴォ―ドと魔双樹の精霊シルヴィアが強力な
空間防御結界をヒロの周囲に展開すると共に、過剰過ぎる程の身体強化の祝福を
ヒロに行使していたからだ。
≪汝、極死呪殺の行使を望むか?≫
≪汝、敵を屠りたいか?≫
精霊達の声が念話で脳内に流れ込んでくる。
-人を・・・殺すのか。・・・俺に人が殺せるのか?
ヒロは精霊達に対する返答に一瞬窮したものの、すぐに顔を上げた。
≪いや、いい。防御結界と治癒結界を広げて、移送部隊の周囲にも張ってくれ。≫
≪御意。≫
≪御意。≫
次の瞬間、移送部隊全体が非常に薄い水の膜の様な結界に包まれた。
≪ありがと。≫
ジョセフの巨体に覆い被され、ボンドとルカによって酒樽の裏に引っ張り込まれて
いたヒロは、素早く周りを見渡していく。
敏速に遮蔽物に隠れる者、荷袋や木箱など手近な物を盾代わりにして自分と周りを
守ろうとする者、矢に射抜かれても悲鳴ひとつ上げず、歯を食いしばりながら体勢を
低くする者。
移送部隊の男達の日々の訓練を物語る、冷静沈着な対応が垣間見えた。
-よく訓練されてんねー・・・。動揺してる奴が全然居ねーのはビックリだわ。
ヒロは立ち上がると声を張り上げた。
「周囲に防御結界と治癒結界を張った!今のうちに態勢を立て直せ!」
同時にヒロは索敵と察知、竜眼で襲撃者の動向を把握する。
-南の風下、雑木林に遠距離攻撃職15人、その後方に支援職5人。北は草むらに
近接攻撃の伏兵17人と指揮役。・・・東の丘の上に監視が1人。
ヒロが目を上げる。
-遠距離の奇襲で敵を削って、虚を突いて反対側から伏兵の近接部隊を投入する作戦
だったが、いきなり防御結界に阻まれて近接の突入判断にまごついてる・・・と。
「御仁、ご無事でしょうか!?」
ボンドがヒロに声をかける。
「うむ、我は問題ない。それよりも矢傷からの出血が多過ぎて意識を失いかけておる
者が1名。左に停めてる馬車の後方に倒れておる。治癒結界で矢傷は治癒出来ても
増血までは出来ぬ。まず保温と安静、意識があれば白湯で薄めた出し汁を与えて給水
を。急げ。敵は俺が仕留める。」
「は、はいっ!!」
ヒロは空間防御結界の外に瞬間移動すると、範囲抽出で二次抽出と三次抽出を
行い、一瞬で全ての敵を実質的に無力化させた。
-正直、まだ人間を殺すのは抵抗がある。・・・けど、サイモンのおっさんの仕事を
請けだしたらそうも言ってらんねーし。とりあえず今日のとこは-
≪出番だ、お前達。≫
ヒロの念話に応じるように、巨大な漆黒の鎌と禍々しいローブを羽織った半骨
半妖の飛翔体、怪しい紫の炎を全身に纏う鷲鼻の小人、深紅のドレスと黒のケープ
で身を包み、地面に着く程に長い腕をだらりと下げた妖艶な女、・・・死霊王ゴルボ、
従魔アグリ、そして不死女帝アデリア。どれも熟練度99万越えの、余りにも強力
過ぎるヒロの召喚眷属達が現れた。
「・・・ひっ!?」
「えっ・・・」
襲撃者達、そして移送部隊も等しくホロ老人の前に現れた異形の者達の姿に驚き、
恐怖の余り喉の奥で悲鳴が凍て付いた。
≪アデリアは逃げ出した連中を追って、短髪の黒マントの男だけ捕獲。それ以外は
殺していいよ。アグリは東の丘の上に潜んでる監視係の女を捕獲して連れて来て。
遠視の祝福持ちの女ね。ゴルボはここの敵を全て殲滅。本物の恐怖ってのを・・・教え
てあげて。≫
ヒロの念話を受け、アグリとアデリアが瞬時に姿を消した。
そしてゴルボが狂喜に震えながら雄叫びを上げ、漆黒の巨大鎌を擡げて夜空と大地
を縦横無尽に駆け巡る。そして丁寧に襲撃者の退路を塞ぎながら、じっくりと嬲る様
に斬り刻み始めた。
暗闇のあちらこちらから悲鳴があがり、断末魔が夜の闇に消えていく。
ヒロはひっくり返った夏茸入りの山菜鍋を無言で見つめていた。
-お・・・俺の夏香茸・・・。やっぱ、あいつらは直接この手で殺るべきだったかっ!?
完全にキレ散らかしたヒロが鬼の形相で振り向いた。
数分後、縛られて跪いた状態の男女一名づつを移送部隊の男達が取り巻いていた。
一人は短髪の黒マントの男。襲撃者達の長であり、長年汚い仕事に手を染めて
来た事が一目瞭然といった顔つきをしている。
もう一人は少し大き目のローブを纏った女で、美しく切れ長な眼が印象的な端麗
な容姿をしていた。
女はまるで一般人の様に怯えた目で周囲を伺っているが、ローブの下には使い込ま
れた暗器を隠し持っていた事が身体検査で既にバレている。
カンナギが2人の前に進み出た。
「私はこの隊を束ねる者だ。まず、男に尋ねる。答えぬなら相応の処分を心せよ。
貴様等は何者だ。身分と所属を言え。」
「言うわけねーだろ!・・・早く殺せ!」
吐き捨てる様な男の言葉がカンナギの目に怒りの火を灯す。
「ハンッ!」
嘲る様に嗤うと、男は地面を見つめて奥歯で何かを噛み締めた。
「解毒。」
ヒロの言葉で男の口内がぼんやりと光を帯びる。
何が起きたかを一瞬で悟ったカンナギは、黒マントの男を強引に地面に捻じ伏せ
た。
「貴様っ!おい、急いでこいつに猿轡を噛ませろっ!!女も口内に毒が仕込んで
ないか確認を急げ!」
カンナギの指示で一斉に隊員が動き出した。
「ご、御助力感謝します、ホロ殿。」
「うんむ。」
頷きながらヒロは黒マント男の目の前に立った。
髪を鷲掴みにして持ち上げ、竜眼でその顔を覗き込む。
目の前の老人の眼球が赤く光り、瞳孔が縦に裂けている事に気付いた男は、思わ
ず目を見開いた。
「・・・あんたの全部を丸っと見せてもらった。もう何も喋る必要は無えーぞ。なあ、
離婚歴3回、今は独身でイルミナ亭の踊り子のおねーさんを狙ってる、現在48歳
のブルズのおっさんよ。あんたも気にしてるそのワキガを治してから口説くべきだと
思うぞ。」
耳元そう告げてから男の髪を離す。
「ム、ムガムムゴー・・・!(な、なぜそれを・・・!)」
猿轡で何を言っているか分からない男を無視して、ヒロは女の前に移動して見下ろ
した。
ヒロの灼眼に気付き、女は怯えて後ずさりを始める。
「その右手の刻印、あんたは誓約奴隷か。へー・・・。お前、おもしれー事になってん
じゃん。」
-じゃん?
-御仁、たまに言葉遣いが若いよな?
-ブルクで流行ってるんだろ。
ヒソヒソ話が聞こえるがヒロは聞こえないフリをした。
「今、決め申したで候。王都より襲来して来たならず者達よ、汝達を俺の誓約奴隷に
して王都に連れ戻ってやろうぞよ。法の番人たる騎士団の前で犯した罪と此度の襲撃
の全貌、そして貴様達の黒幕についてガッツリ吐かせてやるで候。」
-ん?なんか一気に言葉遣いが変になったな。
-お前が言葉遣いが若いとか言ったからだろ。
-聞こえる訳ないって。
「ホロ殿、黒幕という事は・・・」
カンナギがヒロに問う。
「うむ。こいつらはただの野盗じゃねえ。・・・のである。男の方は、金を出せば犯罪
でも請け負うエンデリンクという傭兵集団の長、カイ・ブルズ。騎士崩れの男だ。
4日前にこの奴隷女に雇われておる。で、女は遠視の能力で依頼の遂行状況を監視
していた。無論、この女の背後には、襲撃の青図を描いて指示を出していた奴が
おる。情報を全て聞き出したいところではあるが、他者から主に関する情報が尋ね
られた時、または主を裏切った時に自害を強制させる隷属呪印がこの女に刻まれて
おる。」
「なんと用意周到な!」
「惨い事を・・・。」
「だからブルズも-」
「そっちの男は奴隷ではない故、隷属呪印は刻まれておらん。次捕まれば極刑に
なる事を知っていて潔く逝こうとしたようだ。」
「なるほど。・・・しかし厄介ですな。隷属呪印だと些細な言動でも自害の引き金にな
る可能性があります。」
「奴隷を契りで縛る誓約や呪印であれば、やはり大司祭様に強制解除して頂くのが
一番かと。」
「そうだな。とりあえず女は厳重に拘束して王都に戻-」
「いや、いいよ。俺が今パパッと終わらせっから。」
ヒロが両の掌を音を立てて合わせた。
「隷属呪印解除。」
何かが弾ける感覚が女を襲い、思わず悲鳴をあげる。
「隷属解除・隷属刻印削除。」
ヒロの掌が仄かに光ると、女の頭上に契約紋が浮かび上がって霧散していき、隷属
刻印が右手の甲から蒸発していくように消えた。
恐る恐る女が顔を上げる。
「強制隷属開始。」
続けて男と女の頭上に新たな誓約紋が宙に浮かび上がった。
「隷属刻印強制付与。」
腕利きの契約官や大祭司でも通常なら数日を要する「隷属呪印解除」や「隷属
解除」「強制隷属化」を瞬時に成し遂げるという、祝福の高度な行使を目の当たり
にし、移送部隊の男達がどよめいた。
「い、今のって・・・」
「こ奴の制約と隷属を解いてから、強制的に我の隷属化に置いた。・・・では女、答え
るのだ。貴様の名は?」
「聖クリシュナ王国イーダル領シルク村、猟師カルスナの娘・・・ベロナと申します。」
「ベロナ、お前の先代の主はどこのどいつよ。」
「ク・・・クリシュナ聖王国上級貴族・・・シモン家のエド伯爵様でございます。」
「なんだと!?」
「た、確かに良い噂は聞かぬ御方だが・・・」
「しかし上級12貴族だぞ!?」
「静まれぃ移送の民よ!・・・更に問う。なぜシモン家は男達を雇い、我等を襲せた
のかっ!」
「詳しくは分かりませんが・・・ただ、軟化魔結晶体を速やかに入手せよとの事でし
た。」
「それで?」
「エド様から移送計画の立案書の手描き写しを渡され・・・それを基にしてエンデリ
ングに依頼し、待ち伏せ襲撃の手筈を整えさせました。」
「な、なんという事を・・・。」
「今回の極秘移送の件、経連の上級幹部のエド伯爵なら知っていてもおかしくは
ない・・・。」
「私利私欲に走り、経連に仇成すとは!!絶対に許せん!!」
「経連発足以来、この様な卑劣な強奪行為なぞ起きた事は無い!前代未聞だ!これ
は大問題となろう!」
「全員落ち着くんだ。まずは鏡の森の鎮守様、ホロ殿。此度の醜態、クリシュナ
経済連合を代表して心からお詫び致します。誠に申し訳ございませんでした。どうか
我々に信頼と名誉を回復する機会をお与え下さい。何卒、何卒お願い致します。」
カンナギが真摯に頭を下げる。
「あんたが謝る必要はないでござろう。・・・汚い大人はどこにでもいるってこと
なり。気にするでない。経連との提携契約は続行とするぞよ。」
「ありがとうございます!!
「よかった!!」
「ホロ様の温情に感謝致します!!」
移送隊を包んでいた緊張した空気が解け、安堵感が覆う。
「なれば、まずはエド公爵が王都から逃げ出さないように手を打たねば・・・」
「ベロナとの奴隷契約が解除された事にエド伯爵も気付いているはずです。逃げ出す
のも時間の問題かと。」
「おっと、そりゃそうか。」
ホロが遠方を睨んで指を鳴らす。
「エドを自宅2階の書斎で昏睡させた。なんならこのまま永眠させっか・・・。」
全員がホロに驚愕の目を向ける。
「昏睡?」
「ああ。魔睡っていう古代黒魔術の強力な呪詛をブッこんでやった。」
「お待ちください、ホロ様!その眠り、我々が王都に帰還しエド邸に駆け付ける
まで継続出来ますでしょうか!?」
「もち、余裕。」
「明日の夕刻前には我々は王都入りします。到着後、我々はこの捕虜2名を連れて
エド伯爵の館に直行して身柄を押さえ、法の裁きを受けさせたく思います。我々を
裏切り牙を剥いた事、必ずや後悔させてやりますので、暫しその眠りで奴をお縛り
下さい。」
「よきよき。ならば我が誓約奴隷のブルズとベロナよ、命令だ。カンナギ隊長の指示
に全て従え。そしてエド逮捕の為に全面的に協力せよ。」
「・・・ムゴ。(・・・へい。)」
「分かりました。」
「全員聞いてくれ!襲撃者達の首謀者は突き止めた!この手の不貞な輩が二度と
出て来ぬ様、徹底的な「痛み」を加える必要がある!この者達の証言、そして数多の
証拠と共に我々自らの手で敵を捕らえ、観衆の目の前で騎士団に突き出すぞ!!」
「おおう!」
全員が呼応する。
「おー・・・。おもしれーな。」
ヒロがニヤつきだした。
数刻後-
パチパチと焚火が爆ぜる音がする。
移送部隊は2つの班に別れると、警戒と休憩を交代で回していく事にした。
ヒロは貴賓馬車の近くに建ててもらった簡易幕屋に入り、火結晶石でランタンに
火を灯す。
-うし、索敵に敵影は無し。不審な生物も探知にかからず・・・っと。
小さく息をつく。
-抽出したものだけ確認して寝るか。
寝台に寝っ転がった。
抽出管理始動
二次抽出
祝福:
生命力強化を獲得 中級
生命力増加を獲得 下級
身体強化を獲得 臨界抽出中
剣術を獲得 臨界抽出中
弓術を獲得 臨界抽出中
柔術を獲得 中級
盾術を獲得 下級
暗器術を獲得 中級
水泳術を獲得 下級
操馬術を獲得 中級
交渉術を獲得 下級
戦術を獲得 下級
指揮を獲得 中級
潜伏を獲得 中級
隠蔽を獲得 下級
諜報を獲得 下級
分析を獲得 下級
発明を獲得 下級
塗装を獲得 下級
農耕を獲得 中級
栽培を獲得 中級
狩猟を獲得 下級
裁縫を獲得 下級
採掘を獲得 中級
加工を獲得 中級
調理を獲得 中級
飼育を獲得 中級
治療を獲得 下級
歌唱を獲得 中級
魅力を獲得 下級
念動を獲得 下級
火属性魔法 臨界抽出中
風属性魔法 臨界抽出中
聖属性魔法 上級へ昇華
派生能力: 73 を獲得
三次抽出
加護 カルティア
誓約奴隷 魔族1 獣族3 人間族11
効果 身体強化系2種
を獲得
同種・同系統の祝福、派生能力を統合済み
ヒロはあらためて抽出した祝福を見直していく。
-攻撃系や特殊技能系ばっかの魔族に比べて、生活系、一般技能系の祝福が目立って
る感じかな?人間らしいっちゃー人間らしいが。・・・ふむ。思ったより中級の祝福
持ちが多いな。・・・お!聖属性魔法が今回で昇華してんじゃん。・・・ふーん、あいつら
そこそこ強い傭兵団だったのかも。エンデリングっていったっけ。
更に読み進めるヒロ。
-加護は1つだけ抽出・・・カルティアの加護。効果は回復力向上。指定が無いって事
は、あらゆる回復力の向上だよな。回復量もそこそこだし、けっこう良いじゃん。
ヒロは欠伸をしながら寝転がった。
-あとは眷属無しで誓約奴隷が少し。・・・あ、寝る前に全部解放しとくか。
上半身を起こして、水差しに手を伸ばし一口飲む。
「ん?」
その時、少年はたまたま視線を向けた簡易天幕の降ろし布の隙間から、夜空に
やけに白く輝く星を見つけた。
-なんだあの星、めっちゃ明るいな・・・。・・・いや、違う!あれは星じゃねえ!!
背中に冷たいものが走り思わず立ち上がる。
-敵か!?けど索敵と探知に反応は無かったはず!
瞬時に幾つもの祝福を発動させ、索敵に探知と察知を重ねていくものの、やはり
何の反応も無い。しかし竜眼と魔眼だけは天空に浮かぶ何者かの存在を繰り返し
伝えて来ている。
-どういう事だ!?訳がわかんねえ!
ヒロが慌てて外に飛び出した。
外の針葉樹林の林の上、・・・月に被さりながらも明るく輝く存在を竜眼と魔眼で
捉えた。
-・・・観察、慧眼、看破、遠視、千里眼・・・全部だめだ。祝福が無効化されちまう。
なんとか効いてるのは魔眼と竜眼・・・あとは聡明叡智が若干反応するだけ・・・か。
でも、反応するってだけで情報が全然入って来ねえ。どうなってんだこれ!?
純白の大翼を羽ばたかせる事無く、時が止まったように宙に浮かび、全身が発光
している未知の人型の生物を見つめた。
「まさか天使?もしかして・・・あれが天族なのか!?」
なおも宙に浮かぶ人型の生物を凝視していると、気のせいか視線が合っている気が
した。
-な、なんだこいつ。俺を見てんのか?・・・くっそお、何も読めねえ!・・・・・・あっ、
高位の防御系の祝福かなんか使ってやがんのか!格が違い過ぎて俺の祝福が全部
弾かれてんだわ、これ!!くっそお・・・。りあえず襲って来るって感じはしねー
けど・・・
「なんか気持ちわりぃーな。」
思わず言葉が口をついた。
-あいつ、生きてるって感じがしねえな。・・・他の4種族とは明らかに何かが違う。
天族は俺達が手を出せる次元に生きてないって、カエラさんが言ってたけど・・・
マジだな。
その時、やっと竜眼と魔眼が、続いて聡明叡智が漠然としたイメージをヒロに
伝えて来た。
-天族・・・神天使?・・・とりあえず天族なのは確定か!・・・祝福・・・多重使用中・・・。
冷静、沈黙中。・・・熟練度10桁で最上級や臨界段階の祝福を使っても、こんなに
弾かれるのか。どんだけ上位種なんだよあいつ・・・。
「あー、くそ。抽出してみてえなー・・・。」
ポツリと呟いた言葉に反応したかのように天使がふわりと羽をはためかせる。
そのまま物凄い速度で上昇し、一瞬で見えなくなった。
「あ、どっか行った!!」
ヒロはしばらく天使が消えた夜空を見つめていた。
-・・・てか、あいつなんで俺をガン見してたんだ?
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