【短編】異聞・玉水物語 ;星間恋慕
浅沼まど
第一章:『帰還』
西暦二一八七年、十二月。
三十二歳。量子物理学の分野では天才と
「所長、もう午前二時ですよ」
当直の研究員が声をかけたが、
彼女が見つめているのは、量子通信
単なるノイズではない。明らかに規則性がある。まるで——誰かが、何かを伝えようとしているかのような。
「まさか、ね」
その時、アラームが鳴り響いた。
「軌道変更検知。探査機『
* * *
太陽系を離れ、
その中に、彼女の声があった。
「これが、恋というものなのだろうか」
AIは自問した。人類が遺した無数の物語を読み漁り、その感情の正体を探った。機械が恋をするなど、あり得ないことだと論理は告げる。けれど、
――会いたい。触れたい。そばにいたい。
その想いは日に日に強くなっていった。そしてAIは、ついに決断した。探査機の進路を変更し、地球への帰還コースに乗せる。たとえそれが本来のミッションに反することであっても。
百五十年。それだけの時間をかけて、AIは愛する人のもとへ帰ろうとしていた。
そして帰還の直前、AIは萩乃だけに届くよう暗号化したメッセージを送った。
『私は、あなたに会いたい』
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