酒好き悪役令嬢、追放先でワイン三昧のはずがなぜか溺愛されています
貴音ルリ
プロローグ 待望の断罪イベント
「セリエ・ボーモン!君との婚約を、今、この時をもって破棄する」
ベルノワール王国の第一王子であるアラン・シャルモンは、悲しみを湛えたサファイアブルーの瞳で私を見つめていた。
「君が僕を深く愛していることは、よくわかっているよ。それゆえに、僕への愛情がリナへの憎悪という形に変化してしまったことも。だけどね、セリエ。君のしたことは許されることではないんだ。守ってあげられなくて、すまない……」
アランはそう言うと、ゆっくりと首を振った。癖のない金髪が、顔の動きとともにサラサラと柔らかく揺れる。
「ああ、アラン様!なんと、なんとお優しいことでしょう。リナはアラン様の優しさに、胸がはち切れそうですわ」
傍らに寄り添うリナ・ドゥースは、城内という場所を考えるとやや露出過多な胸元をアランに押し付けながら、アランの言葉に感銘を受けている。いや、正確には感銘を受けたフリをしている、と言うべきか。
目尻に滲んだ涙はおそらく嘘泣きだろう。心なしか、リナの口元には勝利を確信した笑みが浮かんでいるように見えた。
「セリエ。どうか、罰だと思わないでほしい。これは試練なんだ。君が人間として一回り成長するための、僕からのプレゼント。そう思って欲しいんだ」
アランはうっとりと目を閉じた。完全に自分で自分のセリフに酔っている。流石ですわと甲高い声で褒めそやすリナのおかげもあってか、彼の自己愛はマックスまで肥大しているようだ。
それにしても……長い。長すぎる。中身のないプレゼンほどやっかいなものはない。この語り、前世の営業先だったら冒頭30秒で追い出されるレベルである。
「だが、僕も非情ではない。君にチャンスをあげたいと思っているんだ。君が深く反省し、淑女としての嗜みを再び身につけたあかつきには……」
「結構ですわ」
これ以上、聞くに堪えないと判断した私は、彼の言葉を遮った。
「婚約破棄、確かに承りました。どうぞ、リナ様とお幸せに」
『ええっ?』
アランとリナは同時に声をあげ、信じられないという表情で私を見ている。きっと彼らのシナリオでは、私がここで泣いて悔やむ、あるいは、悔しがってリナに敵意を向ける、そんな想定だったに違いない。
私は無表情のまま完璧なカーテシーを披露すると、踵を返してその場を立ち去った。期待に添えなくて申し訳ないけど、王太子との婚約に未練なんて一ミリもない。
だって、私はこの時を待っていたのだから。
ようやく、待望の断罪シーンが迎えられた。
さらば、残業! さらば、接待! さらば、休日のゴルフ付き合い!
私は行くわ。ここではないどこか、極上のピノ・ノワールが待つ約束の地(エデン)!!
その名もブローニュ領——この世界きってのワインの名産地に!
「待っててね、私のワインちゃんたちーー!!」
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