ログインボーナス100倍 ~ダンジョンに行かずに自宅で寝ていたら、いつの間にか世界最強になっていた件~

しゃくぼ

第1話:寝起きに世界がバグってた

朝、七時。  スマホのアラームよりも先に、俺の脳内にその「音」は鳴り響いた。


『ピロリン♪』


 ……うるせえ。  俺は布団を頭まで被り直した。


 俺の名前は天野(あまの)透(とおる)。  世間では、モンスターが蔓延るダンジョンに潜って一攫千金を狙う「探索者(シーカー)」なんて職業が流行っているらしいが、俺には関係ない話だ。


 だって、ダンジョンとか危ないし。  歩くの疲れるし。  モンスターとかグロいし。


 だから俺は、Fランク探索者という肩書きだけ持っているものの、ここ数年は一度もダンジョンに潜っていない。  正真正銘、プロの「自宅警備員」だ。


 そんな俺が生きていける唯一の理由。  それが、俺の固有スキル【ログインボーナス】だ。


 効果は地味そのもの。  毎朝七時、生きているだけでアイテムが一個もらえる。ただそれだけ。  もらえるのは「ポーション」とか「銅貨一枚」とかのゴミみたいなアイテムばかりだが、まあ、働かずにジュース代が手に入ると思えば悪くない。


「……あー、今日も生きるのがめんどくさい」


 あくびをしながら、虚空に浮かぶステータス画面をなんとなく開く。  そこには、見慣れない文字列が追加されていた。


【 System Error...修正します 】 【 イベントキャンペーン適用:倍率設定ミス 】 【 ログインボーナス倍率:×1 ➡ ×100 】


「は?」


 寝ぼけた頭が状況を処理するより早く、七時の時報が鳴った。


 瞬間。  俺の六畳一間のアパートが、光に包まれた。


【 System Login 】


今日のボーナス(1):上級ポーション 倍率補正(×100)を適用します。 獲得:上級ポーション × 100個


今日のボーナス(2):S級魔石 倍率補正(×100)を適用します。 獲得:S級魔石 × 100個


今日のボーナス(3):神話級魔剣『レーヴァテイン』 倍率補正(×100)を適用します。 獲得:神話級魔剣『レーヴァテイン』 × 100本


「……へ?」


 ドガガガガガガガガッ!!!


 雪崩のような音がした。  虚空から出現した大量のビン、輝く石、そして禍々しいオーラを放つ魔剣の束が、俺の頭上に降り注ぐ。


「ぐえっ!?」


 重い。痛い。そして狭い!  俺の部屋は一瞬にして、国宝級のアイテムで埋め尽くされたゴミ屋敷と化した。  魔剣の鞘が脇腹に突き刺さっている。これ、鞘がなかったら死んでたぞ。


「な、なんだこれ……邪魔くせえ……!」


 俺は布団から這い出し、アイテムの山をかき分けた。  魔剣? 一本数億円? 知るかそんなもん。  俺の安眠スペースを奪う奴は、たとえ神造兵装だろうと許さない。


「全部まとめて【アイテムボックス】!」


 シュンッ。


 部屋を圧迫していた数億G(ゴールド)相当の財宝が、一瞬で亜空間倉庫へと吸い込まれた。  ふう、と息をつく。


「あー……二度寝しようと思ったのに、目が覚めちまった」


 最悪の目覚めだ。  俺はため息をつきながら、テレビのリモコンを手に取った。


『――ニュース速報です! 先日、S級探索者パーティー〝紅蓮の翼〟が、深層階にて奇跡の生還を果たしました!』


 画面の向こうでは、ボロボロになった鎧姿の男たちが、涙ながらにインタビューに答えている。  国中がお祭り騒ぎだ。


『彼らが持ち帰ったのは、万病を治すと言われる幻の秘宝、〝世界樹の雫〟! その数、なんと一本です! これ一本で小国が買えると言われる伝説のアイテムが、人類の手に渡りました!』


「へえ、大変そうだなあ」


 俺は鼻をほじりながら、さっき【アイテムボックス】に放り込んだログボの中身を確認する。


【 System Log 】


今日のボーナス(4):世界樹の雫 倍率補正(×100)を適用します。 獲得:世界樹の雫 × 100本


 手元に一本、取り出してみる。  テレビに映っているのと同じ、虹色に輝く液体が入った小瓶だ。  それが、ボックスの中にあと九十九本ある。


「……これ、喉乾いたし飲むか」


 俺は小瓶の蓋を親指で弾き飛ばし、一気に煽った。  国が買える味がした。  ついでに、もう一本取り出して、コンビニで買った萎びたサラダにかけてみる。


「ん、ドレッシング代わりにするとコクが出て美味いな」


 テレビの中では、S級探索者が「命を懸けた甲斐がありました……!」と泣いている。  ごめんな。俺、それ朝飯にしてるわ。


 サラダを食べ終え、俺は最後の一つとして送られてきていたアイテムに目を向けた。


【 System Log 】


今日のボーナス(5):経験値の書(極大) 倍率補正(×100)を適用します。 獲得:経験値の書(極大) × 100冊


「経験値の書? 読むだけでレベルが上がるやつか」


 売るのも面倒だし、とりあえず使っておくか。  俺は「すべて使用する」を選択した。


 ティロリロティロリロティロリロ――!!  ティロリロティロリロティロリロ――!!


 レベルアップのファンファーレが高速再生で重なり合い、もはやノイズになって鼓膜を襲う。  体が熱い。全身の細胞が作り変えられていく感覚。


【 Name:天野 透 】 【 Level:1 ➡ 1500 】 【 Status:測定不能(Error) 】


「……うるさかった」


 ようやく音が止んだ。  体感としては、肩こりが治った気がする程度だ。  レベル1500? まあ、数字が増えただけだろう。


 ぷ~ん。


 耳元で不快な羽音がした。  蚊だ。  窓から侵入したらしい。俺の安寧を脅かす害悪め。


「失せろ」


 俺は寝転がったまま、蚊に向かって軽くデコピンをした。


 パチンッ――!!


 瞬間、轟音が響いた。  指先から放たれた衝撃波が、蚊を消し飛ばし、そのまま窓ガラスを粉砕。  さらに衝撃波は止まらず、空へ向かって突き抜け――


 ズッ、パァァァァァァァン!!


 アパートの上空に浮かんでいた分厚い入道雲が、真っ二つに割れた。  まるでモーゼの海割れのように、青空が一直線に広がっていく。


「…………あ」


 俺は割れた空を見上げ、冷や汗をかいた。


「やべ、窓ガラス割っちゃった。大家さんに怒られるなあ」


 どうやら俺の平穏な引きこもり生活は、今日で終わりを告げることになりそうだ。  ……とりあえず、二度寝してから考えよう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る