「ハズレ・スキル」と追放された俺、実は全スキルのクールタイムを0にする能力だった。~今さら戻れと言われても、S級美女たちが離してくれない~

しゃくぼ

第1話:「『時短』はゴミスキル」と言ったな。あれは嘘だ。

「おい、ディーン。お前、今日でパーティクビな」


 ダンジョンの薄暗い通路で、リーダーのガイルが鼻をほじりながら言った。  あまりに唐突な宣告に、俺の思考が止まる。


「……は? え、クビ……ですか?」 「あぁ、そうだよ。クビ。お払い箱。意味わかるか? お前のそのゴミスキル『時短』のせいだよ」


 ガイルはニヤニヤと笑いながら、俺の胸板を指先で突いた。


「お前のスキル、魔法の再使用時間(クールタイム)をちょっと短くするだけだろ? 10秒が9秒になったところで、戦況なんて変わんねーんだよ。この役立たずが」


 俺のスキル【時短】。  確かに、これまでの戦闘では地味な効果しか発揮していなかった。  だが、それは俺がまだレベル1で、下級魔法しか使わせてもらえなかったからだ。


「ま、待ってください! 俺は雑用も荷物持ちも全部やってきました! それに、まだ成長すれば――」 「あー、うっせえうっせえ。お前の代わりなんていくらでもいんだよ」


 ガイルは俺の腰にあった剣を奪い取ると、それを地面に投げ捨てた。いや、投げ捨てたのではない。ダンジョンの奈落へと蹴り落としたのだ。


「装備はパーティの資産だから没収な。じゃあな、ディーン。モンスターの餌にでもなってろよ。ギャハハハハ!」


 ガイルと取り巻きのメンバーたちは、嘲笑を残して去っていった。  残されたのは、装備も奪われ、丸腰になった俺一人。


 場所はB級ダンジョンの深層。  絶望的な状況だ。


「クソッ……! あいつら、絶対許さない……!」


 悔しさで拳を握りしめた、その時だ。  背後の茂みがガサリと揺れた。


「グルルルルッ……」


 現れたのは、身の丈3メートルを超える「レッドベア」。  本来なら、パーティ全員で挑んでも苦戦する強敵だ。


「じょ、冗談だろ……!?」


 武器はない。  俺に残されたのは、自分自身の魔力と、あの「ゴミ」と言われたスキル【時短】だけ。


 ――やるしかない。


 俺は震える手を突き出し、唯一使える初級魔法を唱えた。


「《ファイアボール》ッ!!」


 ボッ!  掌から拳大の火の玉が放たれ、レッドベアの顔面に直撃する。  だが、浅い。毛皮を少し焦がした程度だ。


「グオオオオオオッ!!」


 熊が激昂し、突進してくる。  終わった、と思った。  《ファイアボール》のクールタイムは本来「10秒」。  次の魔法を撃つ前に、俺は爪で引き裂かれる――はずだった。


 ピコン。  脳内で何かが切り替わる音がした。


 ――あれ?  俺の手元に、すでに次の魔法陣が展開されている。


「え……?」


 通常、魔法を使った直後は魔力が停滞し、すぐには撃てない。  だが、今の俺にはその「停滞」が一切感じられなかった。  0秒。  文字通り、コンマ1秒の待ち時間すらない。


 まさか。  俺のスキル【時短】って……数秒短縮する能力じゃなくて……。


 クールタイムを『完全になくす』能力だったのか!?


 迫りくる巨大な熊。  俺は直感的に理解した。  これなら――撃てる!


「食らええええええッ!!」


 俺は本能のままに魔力を流し込んだ。


 ドガガガガガガガガガガッ!!


「グ、ギャ、ガアアアアッ!?」


 まるで機関銃(ガトリングガン)だ。  俺の指先から、一秒間に数十発という異常な密度の炎弾が放たれる!


 本来は単発の《ファイアボール》が、途切れることのない光の奔流となってレッドベアを押し留め、焼き尽くしていく。


「消し飛べ! 100連射ァ!!」


 ドゴォォォォォンッ!!


 爆音と共に、レッドベアの巨体が跡形もなく消滅した。  いや、熊だけではない。  背後の森が一直線に更地になり、地面が抉れている。


「は、はは……。なんだよこれ……」


 自分の手のひらを見つめる。  煙が上がっている指先。  ゴミスキル? 役立たず?  とんでもない。これは世界を壊しかねない、最強のチート能力だ。


 その時。  今の爆音を聞きつけたのか、一人の少女がボロボロの姿で飛び出してきた。


「くっ、ここまでか……!」


 輝くような銀髪に、白い肌。破壊された鎧の隙間から見える肢体は、同性の目から見ても神々しいほど美しい。  彼女は、王都でも有名なS級冒険者、「閃光の戦乙女」ことアイリスだった。


 だが、その背後には数百匹規模の「キラーウルフ」の群れが迫っていた。  いくらS級でも、この数は無理だ。


「逃げて! ここにいたら死ぬわよ!」


 俺の存在に気づいたアイリスが叫ぶ。  なんていい子なんだ。自分が死にそうなのに、赤の他人を気遣うなんて。


 ――ガイルたちとは大違いだ。


「心配いりませんよ」


 俺はアイリスの前に一歩踏み出し、狼の群れに右手を向けた。  今度は、実験なしの本番だ。


「消えろ。《ファイアボール》・フルオート」


 ズドドドドドドドドドドドドドドッ!!!


 視界が真紅に染まる。  圧倒的な弾幕。  数百匹いた狼たちが、悲鳴を上げる暇もなく次々と炭化していく。  それは、一方的な蹂躙だった。


 わずか数秒後。  そこには、塵一つ残っていなかった。


「…………」


 静寂が戻った森で、アイリスがぽかんと口を開けて俺を見ている。  俺は手を払い、彼女に振り返った。


「怪我はありませんか?」


 すると、アイリスは頬を朱に染め、トロンとした瞳で俺を見つめ返してきた。  そして次の瞬間、ガシッと俺の手にしがみついてきたのだ。


「す、すごい……! なんて魔法なの!?」 「え、あ、いや……」 「あの数瞬で、あの大群を一人で!? あなた、名前は!? どこのギルドの方!?」


 美女の顔が近い。すごくいい匂いがする。


「お、俺はディーン。さっきパーティをクビになった無職です」 「クビ!? この実力で!?」


 アイリスは信じられないという顔をした後、パァッと花が咲くような笑顔を見せた。


「だったら、私のパーティに入って! いいえ、入ってください! 私、あなたに一目惚れしちゃったみたい!」 「……はい?」 「決定ね! 絶対離さないから!」


 俺の腕に、S級美女の豊満な胸が押し当てられる。  ……どうやら俺の追放後の人生は、想像もしなかった方向へ加速し始めたらしい。

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