【ソバーキュリアス】飲まずにいられないのは、私が意志薄弱だからじゃない!

ゑびす亭

第1話 お酒は、本当に私のオフスイッチだったのか?

 こんにちは。このエッセイを開いてくれたあなたは、きっとかつての私と似た悩みを抱えているかもしれません。

 飲むと楽しいけれど、本当は身体に悪いこともわかっていて、次の日後悔の波に襲われた経験があるかもしれません。

 そして、「今日から飲まないぞ、禁酒だ!」と固く心に誓っては、結局またグラスを傾けてしまう‥‥。


 かくいう私も、無類の酒好きで、母にはいつも心配をかけていました。

 とある島出身の私は、朝起きたら何故か友達と砂浜で寝ていたこともあるし、堤防に座って浜風にあたりながら飲んでいたら、いつのまにか寝てしまって堤防から落下、顔に大きな擦り傷をつくったこともあります。海側に落ちていれば擦り傷では済まなかったと、今思えばぞっとします。

 1箱24本入りのビールを買ってくれば、3日と持たずに空にするのを見て、母はこっそりビールを隠してしまうのです。毎日、たった1本だけをどこからか出してくるのですが、どれだけ探しても見つからず...。結局、母が他界した今も、あの狭い家のどこに隠していたのかは謎のままです。


 そんな私が『ソバーキュリアス』という言葉と出会い、特別な努力や我慢もなく、あっさりお酒を飲まなくなったのはなぜか?それは、飲酒に対する考え方そのものがひっくり返ったからです。

 そして、「お酒をやめたい・減らしたい」と考えているあなたに、この新しい視点こそがお役に立てると信じています。



【お酒がくれる“オフスイッチ”】

 仕事の疲れを引きずったまま家に帰ると、ほんの一杯で、気持ちのスイッチが切り替わる――

 明日に持ち越した問題は忘れてリラックスしたいのに、どうしても仕事のことを考えてしまう。そんな時、シュッと缶を開ける音、グラスに注がれる黄金のきらめき、そして喉を通り抜ける冷たさと苦味が、気持ちを『今夜はオフモードだ』と切り替えてくれたのです。

 

 そう。私は生活の中に強制的に“区切り”をつくるためにお酒を使っていました。

 多くの人にとって、お酒は“日常からプライベートへの橋渡し”をしてくれる、便利なスイッチなのではないでしょうか。今振り返ると、それは“ごほうび”ではなく、“逃げ道”だったのかもしれません。

 ソバーキュリアスという視点から見ると、その飲み方は「本当に自分を満たすものだったのか?」と問い直すことになります。

 

 お酒が大好きで、いくら飲んでも翌朝はケロリとしていた若い頃。”ワインは開けたら飲みきる”のが当たり前で、2本目に突入することも珍しくありませんでした。二日酔いなんて無縁で、お酒が強い自分が誇らしかったりもしたのです。

 

 【忘れられない初めての二日酔い】

 30代に差し掛かってまもない頃の忘年会で、人生初の本格的な二日酔いを味わうことになりました。

 頭痛、吐き気、筋肉痛のような体の痛み、そしてめまい。あまりのつらさに風邪をひいたと思い、母に会社を休むと伝えると、

 「風邪ちゃうわ!あんたそれ二日酔いやで!ついに来たな〜〜!はっは~!」

母はお酒がほとんど飲めない下戸なのに、父が昔よくやらかしていたおかげで二日酔いだけは妙に詳しい。

 その言葉に、「こ…これが噂に聞く二日酔いか…!!!」と衝撃を受けたのでした。

「もう二度と飲まない!」と心に誓ったものの…三日もたたずに、「お疲れ〜!」と乾杯。


 「今日は休肝日!飲まない!」と出勤中の電車で心に誓っても、夕方になればジョッキに注がれた金色で魅惑的な液体に酔う――。

 「私はなんて意志が弱いのだろう…」と落ち込みそうになるのは一瞬で、結局は「ま、いっか。楽しいし♪」と開き直ってしまう……そりゃあ禁酒なんてできるはずがありません。


 そんな私が、半年間お酒を飲まなかった時期があります。 きっかけは母の病気でした。治らないとわかっていた病気で、いつ「その時」が来るのか、ただ連絡を待つ日々。 最期の瞬間に間に合うように――立ち会えるように――その思いだけで、私はお酒を口にしませんでした。

  気持ちはずっと張りつめていましたが、飲まなかったことで頭は冴えていて、体も軽く、必要なときにすぐ動ける自分でいられた。もしあの 時お酒を飲んでいたら、もっとつらく、もっと無力感に沈んでいたと思います。

 しかし、母を見送ったあと日常が戻ると、当たり前のようにまたお酒を飲み始めていました。


 コロナ禍では自宅での飲酒がさらに増え、以前よりもお酒との距離が近くなりました。昼夜を問わず飲むお酒が心地よく感じられた時期もあります。それでも、あの半年間に感じていた頭の冴えや体の軽さは忘れることはありませんでした。

「このまま飲んでるとやばいかも、量も増えてるし……やっぱり禁酒しようかな。」

 という考えがしばしば頭をよぎっても、それが実行に移されることはありませんでした。

 

 【”飲まない選択”という発見】

 そして最近、「ソバーキュリアス(sober curious)」という言葉に出会いました。

『禁酒』でも『断酒』でもない、「選択をする」ということ――お酒との付き合い方を自分で選ぶことができる。

それは、「飲んで当然」といった雰囲気の飲み会でも、お正月のような特別な日でも、自分の意志で「今は飲まない」を選んでいい。ということです。


 『飲む・飲まない』を自分で選択する――当たり前のように聞こえますが、実際には、会社の記念パーティ・誕生日・お正月・・・

「私はお酒を飲むのか?それとも飲まないのか?」という選択肢を自分に投げかけたことはありませんでした。

 それに気づいたとき、まるで目の前に立ち込めて視界を遮っていた霧が、さっと晴れていくようでした。

 

 そして、思いました。


 ――この「飲まない選択」を続けたら、私の未来はどう変わるんだろう?――


 未来の飲まない私に、心から興味が湧いたのです。

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