第14話現実を見ろ

「セオドラ」


 いつの間にか顔を下に向けていた愚息の名前を呼ぶと、私の声に反応して顔を上げた。


「友人達にも頼れないなら働け」

「は、はたらく……?」

「金が必要だというのなら、自力で金を稼げ」

「は……?」


 口を開けて、呆気にとられている愚息。

 どうやら働くという概念すら何処かに捨てているようだ。

「自分で働いて金を稼ぐ」という極普通のことを、さも「初めて知った」と言わんばかりの顔がそれを物語っていた。……情けない。私はお前をそんな子に育てたつもりはないぞ。


「職にこだわらなければ仕事にあぶれることもないだろう。成績はトップクラス、武芸にも秀でていた。その上、風邪一つ引かない健康体だ(バカは風邪を引かないというが本当だった)。頭を使う仕事でも、肉体労働でも、なんでもやれるだろう(無駄に優秀なのだからな)?結婚して子供を育てるなら定職に就け(平民でも国家公務員にはなれる)。お前はもう貴族ではない。〝平民〟だ。死に物狂いで働け。新しい家族のためにな。それが一家の大黒柱の務めだ」


 親としての最後の忠告。

 そう思っての言葉だった。

 愚息は先程よりも口を大きく開けて、しばし固まっていた。


 やがて、喉の奥で何かを飲み込むように、ゆっくりと瞬きをする。

 その仕草に、ようやく現実が追いついたのだと知れる。

 だが、理解と納得は別物らしい。

 視線の揺らぎが、それを雄弁に物語っていた。


「……父上、本気で……?」


 信じられないものを見る目で、愚息は後ずさる。

 溜息が出るのをグッと堪えた。

 私はどこで育て方を間違えたのか。


 仕事をするのは当然だ。

 少し考えれば分かるだろうに。

 私とて仕事をしているのだ。

 まさか、この愚息は公爵家の当主になれば仕事はしなくてもいい、とでも思っていたのか?

 いやいや、まさかな。

 それとも何か、当主の仕事を軽く考えているのか?

 当主教育を疎かにしていなかったはずだが……。ダメだ。自信がない。


 当主の仕事は膨大だ。

 セオドラも幼少の頃から私の仕事姿を見ているはずだ。

 はずなのだが……。

 もしや、それが「金を稼いでいる」とは一切思わなかったのか?


 ……あり得る。

 このアホなら。

 はぁ~~……。

 心の中で溜息をついた。

 息子に自分の働いている姿を見せることで次期当主の自覚を持って欲しかったのだが。それがまったく理解していなかったとは。

 誰だ?父親の背中を見て育つだなんて言ったのは。まるっきり嘘ではないか。


 なまじ頭の良い嫡男であったことが災いした。

 見ていて理解出来る、と判断した私のミスとも言える。

 愚息に「現実を見ろ」とばかりに説教をしたが、本当に現実を見なければならないのは私なのかもしれない。

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